第74話 ご機嫌アロメと不機嫌ティア

「■ゥゥ…」


「わお~。 じゃあ、貴方がエデンくんなんだ~」


「お兄ちゃんなのっ」


「うんうん~そっかそっか~へーなるほどなるほど~」


 アロメの言葉に相槌を打ちながら柏森ルリカは顔のサイズに比べだいぶ大き目な丸眼鏡を持ち上げると。


 しげしげとこちらを見つめながら俺を観察するように周囲をぐるりと回って見せた。


「その甲冑といい腰に下げてる剣といい本当に騎士みたいなデモンなんだね~」


「あ、あのっ」


「ルリカちゃん、気になるのは分かるけど人のデモンをいきなりそんな風にジロジロと見ちゃダメよ。 ミサキさんがビックリしてるでしょ」


「とと、これは失礼を。 ごめんね~ミサキちゃん~前に顔合わせした時は噂のエデンくんに合えなかったから…ついつい興奮しちゃって~てへへ…」


「噂の、ですか? 」


「うんうん~。 単純にSSSデモンが珍しいってこともあるけど~うちのアロメからよくエデンくんの話を聞かされててね~。 それで気になってたんだ~」


「ちょっとエデン、私は何にも聞いてないんだけど…?? 」


「■■ァァ…」


(ははは…言うタイミングがなくてな)


「そーだよね~契約してても、意外と知らない事ってあるある~。 盟友界で起きた事は基本的に私たちは分からないしね~」


「アロメは柏ねぇに毎日何があったかちゃんとお話ししているの」


「そうだね~えらいえらい」


「柏森先輩ずるいです…。 私も盟友界の話とか聞いてみたいのにぃ…」


「■■ゥゥ■ァ! 」


(こ、今度時間があるときに色々話してやるから! な、ティア)


 こちらに恨めしそうな顔を向けてくるミサキに思わずたじろぎながら。


 最近はだいぶお喋りできるようになったティアにも声を掛けるが。


「……」


 肝心のティアはというと、アロメをジっ…と見つめたまま何故かフリーズしていた。


 ピクリとも動かないティアに俺が首をかしげていると、ふわふわとこちらに近づいてきたメアリーがそっと耳打ちしてきた。


「エデン、エデン」


「■■ゥゥ…? 」


(どうした…? )


「そろそろ抱えているアロメを降ろした方がいいのにゃ。 ティアのあの顔を見るに…ウォーターボムまでもう秒読みにゃ」


「■■ゥ!? 」


(マジかよ!? )


 ここでウォーターボムを破裂させるわけにはいかぬと、俺は慌ててアロメを地面に降ろそうとするが。


「アロメはまだこうしてたいのっ」


 と、ここにきてアロメが思わぬ抵抗を見せ始める。


「エデン、や、やばいのにゃ…! 」


「うぅ~!! は~な~れ~ろ~!! 」


(ミサキ、逃げろ…! このままじゃビショ濡れになるぞ!! )


 こうなったら、マスターたちだけでも退避してくれと願うが。


 柏森ルリカを交え、話し込んでいるミサキたちが俺たちの様子に気付く望みは薄そうだ。


「へ~それじゃあ、柏森先輩は本当は目がいいんですね」


「そだよ~。 この眼鏡もね~幻異武装の一つなんだ~」


「あ、アイカ! ちょっとこっちに来るのにゃ…! 」


「…? メアリーちゃん? どうしたの? 」


「く~ら~え~! 」


(あばば…! ティアのやつマジで水を溜め始めたぞ…! )


「と、いけないいけない~。 もうこんな時間~。 アロメ~そろそろ戻るよ~」


「うん。 またね、お兄ちゃん」


「■■ァァ…」


「た、助かったのにゃ…」


「メアリーちゃん? 」


「あっ、にゃはは! な、何でもないのにゃ! ちょっと呼んでみただけなのにゃ」


「……? 」


「ふふっ、ホントはアイに構ってもらいたかったんじゃないの~?? 私たち、結構話し込んじゃってたし」


「そうなの? ごめんね、メアリーちゃん」


「ち、ちがうのにゃっ! 」


「よしよし~」


「うにゃ~!! やめるにゃ~! 勘違いなのにゃ~!」

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