第69話 鍵
ミサキと契約する前。
魔界にいた俺は生きるために同族たちと戦い、勝利し、そして殺した。
殺すことに躊躇はなかった。
戸惑いもなかった。
しかしこれを人間に置き換えた場合、同族殺しとはすなわち人が人を殺すことと変わらないのではないか。
そう気づいた時、俺は枷を欲した。
自身の選択肢の中に生まれた殺しを縛り、制御する何かとしてマスターを求めた。
マスターという枷があれば殺すことを厭わなくなった俺が、いつか大切なものまで殺してしまう事を防げるのではないかと。
(だが、実際は)
マスターの元を離れ、枷が無くなったとたん。
俺は仲間より殺しを選んでいた。
それが間違っているとは思わない。
俺は俺の心に従った。
「エデン」
「■■ゥ…」
「私は貴方が全て正しいとは思わないけど。 あの時、躊躇なく男に斬りかかった貴方を頼もしいとも思ったの」
「■ァ…? 」
「私には出来ない選択を貴方はした。 チームの中に、自分が出来ないことをしてくれるメンバーがいるというのはそれだけで心強い事でもあるわ」
「……」
「そして、結果としてはディンキーを殺さずに助けられた」
ブラウの言っていることは正しいが、それは結果的にそうなっただけで。
実際に助けたのはティアだ、俺は何もしていない。
「ミツルとの関係が長いというだけで、私はこのチームの纏め役をやっているけど。 私自身出来ることは限られているわ」
「でも、ここまでなんとか纏め役を続けているとね。 どうしたらチームがうまく纏まるのかも少しづつ分かってくるの」
「だから私はディンキーの前でああやって話した。 あの子は結構根に持つタイプだから、真実を告げることが得策とは限らないのよ」
「だからね、これは私からのお願い。 私が嘘をついたってあの子に思われないように、話を合わせておいてくれないかしら」
約束よ。
そう言ってブラウが微笑んだ時、彼女がこのチームを纏めている理由が分かった気がした。
それから暫くして。
ブラウの家を出た後も。
俺は結局、彼女に何を話したかったのか未だに自分の中で整理がつかずにいた。
殺しを優先したことを非難されたかったのか。
それとも、肯定されたかったのか。
(今頃ミサキは何してんのかな…)
ぶらぶらと暗い夜道を歩きながら、なんだか無性にマスターの顔を見たくなった。
◇◆◇
この世界には、人ならざる者を縛る見えざるルールが存在する。
命を懸けて戦う時でさえ。
厳格に定められたそのルールを破ることは出来ない。
決められた順序、決められた手順。
いったい誰が、何のためにそんなものを定めたのか。
そして何故、そのルールに縛られるのが人ならざる者なのか。
ある者はいった。
まるで儀式のようだと。
決められたルールの中で進む、いや進めざる終えないというのは何とも不気味だと。
我々人と人ならざる者の闘い。
その果てに待つのは救いではなく、恐ろしき何かの成就なのではないかと。
そう考えた者たちは、叢雲を離れ否定した。
ルールに沿った闘いを続けていても人は救われない。
人ならざる者を縛るルール。
星の縛りとは即ち、人のためにあるのではなく。
人ならざる者が、何かを成すために定めたのだ。
それ故に。
「法を破る。 そのための鍵を見つけた」
「……」
「貴殿が見たというソヤツは”悪魔喰らい”とは違うものなのか? 」
「ツヴァイ」
「…はい。 確かに奴は、悪魔喰らいではなく悪魔そのものでした」
「ならば、ただのデモンなのではないか? 」
「いいえ。 肉体は完全に悪魔だった、それは間違いない。 …しかし、その魂は違う。 あの悪魔の魂、その奥に私は…人の魂を見た」
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