第67話 不自然な忘却
俺たちが異世界で遭遇したマスターと思しき男との一件については記憶を整理するため紙に書き起こし、その資料と共に班長である最川ミツルに報告する事になった。
今はそれぞれが感じた事や気付いた事を共有するため、夕食を囲みながら情報を纏めている最中だ。
「それにしてもディンキーの放電はすごかったのにゃ。 あのでっかい奴が悶絶してたのにゃ」
ブラウお手製のミートボールにかぶりつきながらメアリーがそう言ってディンキーを称賛すると。
ディンキーは彼女の体に合わせて作られた小さなフォークをテーブルに置いて、恥ずかしそうに頭を掻いた。
「えへへ…。 でも、私自身の力が凄いというより守る術のない体内を電気で攻撃されたから苦しんでいたような気もするですよ」
「にゃるほどにゃ~。 あっ、でも。 あんなすごいビリビリがあるにゃらあの男に掴まった時にも放電してやればよかったのにゃ。 それにゃら逃げられたかもしれないのにゃ」
「あの男の近くにはツヴァイ…とかいう悪魔も控えていたし。 それは難しかったんじゃないかしら? 」
「うにゃ~そうだったにゃ…。 男から逃げ出せてもアイツがいたのにゃ…」
「ああいえ、それなんですが…。 あの男に掴まっていたときは不思議なことにスキルを使う事を忘れてしまっていたんですよぅ」
「忘れていた…? 」
「はい。 あの時はまるで、最初からスキルなんてなかったかのようでした…」
「そういわれてみれば、
「なのです…。 体をよじって必死に抜け出そうとしていたのですが…。 メアリーさんの言う通り、あの時リスクを承知で放電する手もあったはずなのです…」
「掴まって焦っていたとしても、スキルの事を完全に忘れてしまうなんて変ね…」
「あのデカブツには放電出来たわけだからにゃ…。 そう考えるとあの男かあの悪魔に何かされていた可能性もあるのにゃ」
(スキルの忘却……。 封印や行動不能の一種なのか…? )
アダムスコードには特定のスキルや魔法のみを一時的に使えなくしたり、行動そのものを封じてくるデバフが存在していたが。
そういったものには必ず条件や期間が定められていた。
(デモンであるツヴァイはスキルを封じるような能力を持っていなかった筈だ…。 となると、ディンキーのスキルを封じたのはマスターと思しきあの男か…)
今はまだ情報が少な過ぎるので断言することは出来ないが。
マスター専用の特殊能力である”マスタースキル”のことを思えば、あの男がディンキーのスキルを一時的に忘れさせ封じていたという可能性も十分考えられる。
「スキルを忘れてしまったこと以外にも、掴まった時の事で。 何か気付いたことや、引っかかる事はある? 」
「えっと…。 掴まる直前、男に”見られた”のです」
「貴女の隠れ蓑が破られたってこと? 」
「それが…男の手に掴まるまで、隠れ蓑自体は機能したままだったのです。 それなのに、あの男は私を見ていたのです」
「にゃ、にゃんだか不気味なのにゃ…」
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