第65話 ああ、たしかに見たぞ

 仲間の命はたしかに大事だが、俺たちは死んじまっても墓になって戻ってこれる。


 なら、敵を殺す方がもっと大事だ。


 邪魔はさせない、優位は取らせない。


 人質が枷になって相手のペースにのせられるなんてクソな展開認めない。


 そんなの……悪魔じゃねぇ。


「■■ァァァァァ!!!! 」


(オラ、死んじまいなァ!! )


 振り下ろすこの刃から逃れる術はなく、必中の一太刀が敵を切り裂き血潮を上げた。


「グゥッ……! いきなり斬りかかるとは…この…狂犬めッ…! 」


「■■ゥゥ…? 」


(なに…? )


 俺は確かに、敵のマスターと思しき人間を狙いその頭上から剣を振り下ろした…その筈だ。


 しかし、実際に血を流し苦悶の表情を浮かべているのはこの悪魔。


 二つの頭を持つ番犬、ツヴァイだった。


「ふむ…。 逸らしはしたが…少し斬られたな。 これでは被害を増やしただけか…」


「主…! ご無事ですか…! 」


「大丈夫、手を軽く掠めただけだ。 だが…そのおかげで、あの小さいのには逃げられたがね」


(男の方も斬られている…? いったい…どうなってんだ…? )


「デーキー、ちゃんと、だっかんしたぞ~! 」


 どうやら俺が斬り込んだ隙をついて、後から追い付いてきたティアがウォターボムでディンキーを包み男の手から奪い返してくれたみたいだ。


「うにゃ~!! 見つけたにゃ~! 丸焼きにしてやるにゃっ! 」


「ディンキー、大丈夫? 」


「やれやれ。 こうなっては仕方がない、ツヴァイ…退くぞ」


「コイツらを見逃すのですか…? 」


「面白いものを見られたからな。 満足だ。 …ゲートを開け」


「御意」


 男は一度此方に視線を向けると、小さく「君なのだな」と呟いた。


「■■ァ…」


(どういう意味だ)


「我々は先に帰らせてもらうよ。 キミたちはコイツに相手してもらうといい」


「行かせないにゃ! 」


「させぬ! 」


 メアリーの放つ火球をツヴァイが防いでる間に、男はポケットから小瓶を取り出し地面に叩きつけた。


「では、さらばだ」

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