第64話 躊躇いもなく容赦もなく

 ディンキーが偵察の際に用いるスキル”妖精の隠蓑かくれみの”は次に何かしらのスキルを発動するまで体を透明化することでエネミーから襲われなくなるという効果を持つ。


 透明化による隠密性能は高く、視覚を頼りに索敵を行う相手であればディンキーより格上の敵を前にしても素通り出来てしまうほど強力なスキルなのだが。


 逆に、元から視力が弱く聴覚や嗅覚を頼りに周囲を探っている敵に対してはあまり通用しないという弱点を持つ。


「このっ…! 離すのですっ…! 」


 ”視線”の動きからマズい…と思った時には回避する間もなく。


 気付いた時には人間の手の中に掴まっていたディンキーは、どうにか掌から抜け出そうともがきながら何故透明化していた自分が見つかってしまったのだろうと考えていた。


(あの目の動きは…完全に”見られて”たのです…! )


「主、ソイツは? この辺りじゃ見かけない動物のようですが…新種ですかね? 」


「いや……コイツの魂には強いえにしの糸が巻かれている。 マスターと契約している者の証だ」


(……! )


「殺しますか」


「そう早まるな。 コイツが単独で動いてるとは考えにくい。 コイツのマスターか仲間が近くにいるなら、このまま生かしておいた方が使えるだろう」


(こ、コイツらまさか私を人質にするつもりなのですっ!? )


 今の会話を聞く限り。


 ドーベルマンのような頭を二つ持つこの悪魔は、ディンキーを捕らえている長身の男に仕えているらしい。


(きっとこの男…前にマイが話していた悪いマスターってやつなのですよぅ…)


「主。 何体か近づいてきている。 」


「焦る必要はない、恐らく相手は叢雲の連中だ。 俺の手の中に居る仲間を見殺しには出来んさ」


(ほ、本当にそうでしょうか…! )


 男たちの話を聞きながら、ディンキーは仲間の顔を思い出していた。


 恐らく、同じ元天使…セインであるブラウは捕まったディンキーの身を案じて迂闊なことをしないだろうが。


 悪魔デモンたちは何をしでかすか分からない。


 特に猫のメアリーにいたっては会話の節々から悪魔特有の好戦的な性格が伝わってきていた。


(うぅ…戦いに巻き込まれてお墓になるのは嫌なのですよ~!! )


 どうか穏便に事が済みますように、と祈るディンキーの耳に。


 メキィィィィ…ドタン! という轟音が聞こえてきた。


(な、何事なのです…! )


「■■■ァァァァ!!! 」


 雄叫びを上げ。


 姿を現した騎士の悪魔、エデン。


 彼は進路を塞いでいた大木を切り倒すと、ディンキーを捕らえている男にむかって剣を構えた。


(い、イヤな予感がするのです…)


「キミの探しものはコイツかね? ああ、先に言っておくが下手に動けば――


「■■ァァァァァ!!!! 」


 男の話を遮るようにして瞬間移動したエデンは躊躇なくその刃を振り下ろした。


(あぁ…終わったのです…)


 話し合いの余地すらない。


 容赦ないエデンの行動に、この場が穏便に収まることはないと察したディンキーは白目をむいて気絶するのだった。

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