第63話 その言葉が同じであれば

「…ディンキー頼めるかしら」


「うぅ…仕方ないのです。 私が様子を探ってくるので皆さんはここで待機していて下さいです」


 ディンキーはげんなりした顔で偵察役を引き受けると、林檎ほど大きなドングリを一つ取り出しブラウに手渡した。


「この木の実が私の周囲の音を拾ってくれるので、ピンチになったらぜっっったい助けに来て下さいよぅ」


「勿論よ、すぐに駆けつけるわ」


 約束ですからねと念押し、ディンキーは体を透明化すると「それでは行ってきます」と人の声がしたという森の奥へと消えていった。






「ディンキーだけ行かせて良かったのかにゃ? 」


「ええ、相手に気付かれずに様子を探るなら体も小さく周囲に溶け込める能力を持った彼女が適任よ。 私たちが団体で動いて、情報を得るまえに逃亡ないし敵対されてしまっては困るからね」


「そもそもこの世界にヒトがいるにゃら、探索を切り上げて帰った方がいいんじゃないかにゃ? さっき発達した文明がどうこうって話したばかりだにゃ」


「相手がこの世界の人間なら私もすぐに帰ろうと思ったわ」


「どういうことにゃ? 」


「いい? 私たちが今話し理解している人語の情報源はマスターである人間のものなの。 だから人語を話せる最川班の仲間たちは全員、日ノ照語と呼ばれる日ノ照独自の人語で会話しているのよ。 逆に、同じ人語でもマスターが知らない国の言語なら私たちも理解できないわ」


「……!! 」


 ブラウの言う通り。


 俺たちはマスターの知識を参照し人が住む世界の事を理解している。


 どれだけ知能が高い天使や悪魔でも、情報源であるマスターが全く知らない事は理解できないのだ。


 知能が高まったティアはミサキが持つ知識から日ノ照の言葉を学び人語を話せるようになったがミサキが知らない海の向こうの言葉は今でも全く理解できないし話すことも出来ないだろう。


 例外として、メアリーの獣語らいのようにスキルとして言語を理解できる奴は情報が無い言語も聞いただけで理解し話せるようになるはずだ。


「つまりね。 話し声を聞いてそれが人の言葉、と分かった時点で相手が私たちと同じ日ノ照語を話しているということなのよ」


「にゃ! それじゃあ……


― 見えたのです! 人間が一人……それと…きゃっ!? ―


「ディンキー…? 」


 振動するドングリから、ディンキーの小さな悲鳴が聞こえてきた。


「と、とにかくディンキーの後を追いかけるのにゃ! 」


「■■ァァ!! 」

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