第60話 スライム娘、初覚醒の兆し

 ミサキたちが大規模異界域の攻略に向けて準備を進めている間、俺たちも盟友冒険隊としての活動を続け資材や経験値としてのエネルギーをコツコツと蓄えていた。


 そんなある日。


「あぅう…ぅう…」


「■■ゥ…? 」


(ティアの様子がおかしい…? )


 毎朝俺のハウスにやってきては朝食のおこぼれを狙っている腹ペコ娘ことティアが、今日は珍しく食べ物が乗った皿に見向きもせず来客用の椅子に座りモジモジとしていた。


「あぁぅ…」


 先程からチラチラと俺の方を見ては、何やら口をモゴモゴさせているので伝えたいことがあるのかもしれないが。


 如何せん俺は他種族の言語を理解出来るスキルを持っていないので、ティアの表情や雰囲気を汲み取る事でどうにか彼女の伝えたいことを理解してやるしかない。


「……」


(食べ物にも目をくれず、なんだか様子もおかしい…)


「■■ァ…」


(もしかして…)


 体調を崩したのだろうか…?


 もしそうだとすると、リリーナを呼んできたほうがいいかもしれない。


 ヒーラーとしての特性が高い彼女なら直接治療を行えるだけではなく、俺では気づけないようなティアの体の異常も見つけられるかもしれない。


「■■ゥゥ」


(よし)


 朝食は後からでも食えるので、今はとりあえずティアの具合を見てもらおう。


 俺はソーセージと目玉焼きが乗った皿に、サラダ用のボウルを被せ蓋代わりにすると早速リリーナを探しに出かけることにした。


「うぁうぁ~!! 」


「■■ゥ!? 」


 びょんっ!! と。


 突然、扉へ向かう俺の進路を塞ぐようにしてティアが椅子から飛び出してきた。


 精一杯両腕を伸ばし「ここから先には行かせないっ」とばかりに通せんぼして、俺が出かけるのを阻止すると。


 ティアは再び口をモゴモゴさせ、下を向いてしまった。


「ぅう…あぅ…」


「■■ァ…? 」


(ティア…? )


「ぇ…う…。 でぇ、でぇで…。 ででん…。 ぇでん!! 」


「■!!? 」


(なっ!? )


「でぇん!! えでん!! えでん…だぁ…! 」


 俺を指さし、必死に叫ぶティアが今確かに「エデン」と口にした気がした。


「■■ゥゥ…? 」


(俺の名前が分かるのか…? )


 俺は自分を指さし、ジェスチャーでティアにそう確認すると。


 ティアはコクリと頷いて、


「ででん! ぁ…。 えでん、だぁ! 」


 と、再び俺の名前を呼んだのだ。


「■■ゥ! ■■■■ァァ!! 」


(そうだ、エデンだ! 名前が呼べるようになったのか! 凄いぞ!! )


 ここ最近、経験を積んだティアが成長していることには気づいていたが。


 まさか、少しとはいえ人語を話せるようになっているとは思わなかった。


 やるじゃないか! とティアにグッドサインを送ると彼女も誇らしげに胸を張った。


(ここまでティアの知性が高まっているなら…最初の覚醒昇華も近いんじゃないか…? )


 魔法型であるティアは、スライム属性のキャラの中でももともと知性が高い部類で。


 最初の覚醒昇華を終えれば、マスター以外の人間とも意思の疎通が取れるくらいには人語を操れるようになるのだ。


「えでん! エデンだぁ♪ 」

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