第58話 明かせない情報源

 幻異武装を使用した戦闘を訓練に取り入れ始めた日から今日でちょうど二週間くらい。


 少しずつ体の動かし方も分かってきて、マスターになったことで出来るようになった人間離れした動きにも頭がだいぶ追い付くようになってきた。


 先輩たちからは速度も威力も実戦で通用するレベルにはまだまだ到達していないから、自分で戦えるようになるまでには時間が掛かると言われちゃったけど。


 小さい頃にテレビで見ていた正義のヒロインや、大人気映画のヒーローみたいな動きが自分でも出来るようになっていく過程は遊びじゃないんだって分かっていてもどうしても興奮しちゃう。


 だから私は、色んな訓練の中でも自分の体を動かすタイプの訓練が最近はすっかりお気に入りで。


 今日の訓練でも幻異武装を使えるのかな~なんて、少し楽しみにしちゃったりして。


「おはよーございまーす! 」


「おはようございます…」


「二人ともおはよう」


「ミサキさんアイカさん、おはよう。 今日も早いわね」


「えへへっ。 訓練前に軽く体を動かしておこうと思って、アイとお散歩しながら来たんですよ」


「あら、それはいいわね。 けど、ごめんなさい…。 今日は、ね? 」


「ええ。 今朝、生徒会から各班の班長に伝達があって。 予定を変更しなくちゃいけなくなったから、今日の訓練は中止になったの。 貴女たちに連絡出来ないままでごめんなさいね」


「いえ、そんな…! 」


「ふふっ、そんなに身構えなくても平気よ。 とりあえず二人とも席についてちょうだいね」


 集合時間の五分前にはつくように。


 アイと学園の敷地内を散歩しながら、最川先輩とマイさんが待つ教室に足を運ぶと。


 今日の訓練訓練は中止になったと聞かされ、何か大変な事が起きたのかな…ってちょっと緊張してしまう。


「それじゃあ、早速だけど。 生徒会から伝えられた情報と今後のスケジュールについて話していくわね」


「はい…! 」


「今朝、生徒会から各班に新東都爽山を中心とした大規模異界域が近々発生するであろうという情報が伝えられたわ」


「このことから、生徒会は事前に爽山の大規模異界域攻略にあたる班を選出したの。 大規模な異界域の場合ファーストチーム・セカンドチームという二班による構成ではなく。 もっと多くの班が参加する事になるのだけれど…。 そのメンバーの中に、私たちの班も選ばれているわ」


「私たちの班は、その半数が新人とはいえ。 SSSランクデモンのエデンを筆頭として、その戦力を考えれば。 大規模異界域の攻略に参加するのに相応しいと判断されたみたいね」


「なるほど…」


「今回の異界域攻略は。 複数の班が参加する大規模な作戦になるから、事前に他の班と交流し連携を深めておく必要があるの。 現場で会った時に、相手がどこの班の誰なのか分からない…なんて事態は避けたいでしょ? 」


「だから、今回。 爽山の異界域攻略に参加する事になった各班は、異界域発生までの期間を全てこの大規模作戦に向けた準備に費やすことになって。 本来今日行う筈だった訓練も中止になったのよ」


「あの…! 一つ、質問なんですけど…。 爽山に大規模な異界域が発生するって、どうして分かったんですか…? 」


「詳しい情報源は開示されていないけど。 恐らく、予言のスキルだと思うわ」


「予言? 」


「狙ってそのスキルを使うことは出来ないらしいけど。 未来に起きる出来事を予知出来るスキルを持ったセインやデモンがいるのよ」


「よく当たる占いを、たまに聞ける…みたいな感じですか? 」


「そうね。 予言のスキルで得られる情報はあくまで断片的なものだから、爽山に発生するとされている大規模異界域についても近々発生するというだけで正確な時期は分からないんだと思うわ」






 ◇◆◇






「ふぅ、予言持ちのフレンドがいて助かったゼ。 生徒会への連絡、ご苦労さん」


「いえいえ。 それが少しでもマスターの無事に繋がる行為なら、あっしは苦労を惜しみませんよ」


「んじゃ。 またなんかあったら頼むゼッ」


「ええ。 それでは」


 カラスのような顔を持つジャックの友人は、大きな翼で器用にハットをかぶり直すと、いつか腰を悪くしそうな酷い猫背のまま路地の奥へと消えていった。


 自分が繋がる胡散臭い男が、黒にも白にも属さないグレーなマスターだと分かっているからこそ。


 手に入る貴重な情報の提供者を明かせないジャックにとって、彼のように代わりに情報を流してくれる存在は欠かせなかった。


「…さてと。 アイツがこっち側叢雲の肩だけ持つわけねェし…オレっちも気合い入れとかねェとな」

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