第52話 ただいま反省中

 初期装備の強化を終えたミサキたちは、今日から本格的に幻異武装を用いた戦闘について学んでいくらしい。


 マスターとしてはまだまだ未熟な二人なので、デモンやセインに全く頼らない戦いを行うにはまだ早いと思うが。


 戦闘中、あえて指示を出さないことでマスターは自ら攻撃に参加することも出来るため、今のうちから幻異武装の扱い方を教えて訓練していこうという方針なのだろう。


「成程ねっ。 だからエデンたちは今日も暇してるってわけね」


「そうにゃのにゃ…」


「■■ゥゥ」


(まあ、新米のミサキたちはまだまだ学ばなきゃいけないことが多いだろうから仕方ないけどな)


「たしかに、新人のうちは任務より訓練のほうが大事だものね…。 はい、お茶」


「■■ァ」


(お、サンキュー)


 偶然を装い、何時ものように俺の家の前をうろついていた不審者ことリリーナが。


 お土産に持ってきてくれた魔草の一種、ホウホウソウのハーブティー。


 こんな身体でも嗅覚はしっかり存在しているので、少し胡椒にも似たスパイシーなハーブの香りを楽しみつつバイザーを持ち上げ熱々のお茶を体内に流し込んだ。


「やっぱし、熱々のお茶にはクッキーが合うのにゃ」


 向かいの席のメアリーは、そう言ってチョコチップクッキーを魔力で口元まで運んでくると。


 サクッ、と耳心地のいい音をたてながら一齧りして満足そうに目を細めた。


 彼女は見た目こそ羽の生えた猫のようだがれっきとした悪魔であるため、塩分や糖分などを気にせず割と自由に食べたいものを食べて暮らしている。


「ぅあぅ~! 」


 クッキーの甘い香りを嗅ぎつけたのか、ティアが叫びながら「私も混ぜろ~」と主張しているが。


 ”濡れた髪”を風魔法で乾かしているリリーナのお許しが出なければ、それは難しいだろう。


「ダメよっ、アンタはまだそこで反省していなさい」


「ぁうぅ~…」


 数々のイタズラを仕掛けた罪によりとうとうお縄になったティアは現在、封印用の魔道具である壺の中に閉じ込められており。


 壺の蓋にはご丁寧に「イタズラ犯、ただいま反省中」という張り紙まで貼り付けられている。


「■■■ァ、■■ゥ」


(ハハハ、ティアのぶんのクッキーはちゃんと取っといてやるから。 出てきたら食べような)


「あぅっ! 」


「もうっ! そうやってエデンが甘やかすから、この子も懲りずにイタズラするのよっ! 」


「そうにゃそうにゃ! 」


「■、■■■ゥゥ…」


(ハイ、すんません…)


 イタズラの被害者である二人の猛抗議を受けながら、何故か俺は懐かしい気持ちになっていた。


― もうっ! いっつも■■にばっかり甘いんだからっ ―


(こんなこと…前もどこかであったような…)






「デン…。 ちょっと、エデン? 」


「■■ゥ? 」


(お? )


「お? じゃなくて、お茶のおかわりいるかどうか聞いてるんだけどっ」


「■■ァ」


(ああ、飲む飲む)


「もうっ、急にぼーっとして。 ビックリするじゃないっ」


「■■、■ァ」


(ハハハ、すまんすまん)


 リリーナから二杯目のお茶を受け取る頃には、ふと浮かんだ懐かしさも何処かへ消えてしまっていた。

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