第47話 双鬼の悪魔

 高火力の物理攻撃を武器に戦うアタッカーであるジャックは、相手の物理防御力を無視してダメージを与えることが出来るパッシブスキル”防御力無視(物理)”を所持している。


 このパッシブスキルは実質相手の物理防御力をゼロにした状態でダメージを与えられる超強力な効果であるものの。


 攻撃そのものを受けない回避や、物理攻撃自体を受け付けなくなる物理無効化・物理吸収回復・物理反射反撃といったスキルを持つ敵に対しては通用しないという弱点がある。


 回避や物理無効化の対策には”必中貫通(物理)”のようなスキルがあるのだが。


 基本的に防御力無視のパッシブスキルを所持するキャラクターは必中貫通のスキルを覚えず、その逆も同じである。


(俺の場合はジャックと逆で、必中貫通(物理)と同じ効果を持つ固有のパッシブスキル”終焉の剣”を所持しているが故に単純に物理防御力が高い敵は苦手なんだよな…)


 アダムスコードではパッシブスキルの所持上限がないのでエデンのように大量のパッシブスキルを初めから所持している者もいるが。


 任意で発動するタイプのスキルは一体のキャラに10個までしかセット出来ないという制限が設けられているので、11個以上のスキルを習得した際はマスターがどのスキルをセットするか考えていく必要がある。


「フフフ。 どうやら、増援が来たようですが…。 無駄ですよ。 アナタたちの最大戦力は既に解析・対策済みです」


 昔話に出てくる赤鬼のような見た目の悪魔は、巨大な一つ目をニタァ…と歪ませながら自信満々に「敗北は有り得ませんよ」と断言した。


(現状のレベル的にも、このメンバーの中で最も強いのはジャックなわけだし…。 やっぱり、コイツ”物理無効化”のスキルを所持しているな)


 明らかに消耗している獅子柄班に対し、赤鬼の悪魔”ベニイチ”にはかなりの余裕が見られる。


「ですが、まあ。 こうも相手が多くては、ワタシだけだと少々面倒ですね。 そろそろ彼を起こしましょうか」


 ベニイチが手に持つ金棒で地面を軽く小突くと、そこからゴボゴボと赤黒い液が湧きだした。


― 敵側に増援を確認 ―


「おや? 兄様、もう出番ですか」


 沼のように広がった赤黒い液の中から、金棒を担いだ青鬼がゆっくりとその姿を現す。


「コイツ…! アタシらがさっき、ぶっ倒した奴じゃねぇか…! 」


(ベニイチにソウジ、双鬼の悪魔…か)


 獅子柄アミが口にしたように、ベニイチの弟であるこの青鬼”ソウジ”はスミマルCの楔の主として獅子柄班が一度倒した相手だ。


(だが、コイツらは両方が殺されない限り…片方が今のように蘇生出来ちまう)


 そして、兄であるベニイチはソウジを殺した相手に対し優位になるよう自身のスキルを変化させられるという能力を持っている。


(ベニイチが持つ、この能力のせいで獅子柄班は追いつめられてたんだよな)


 ここでのボス戦は、プレイヤーにスキルの重要性を教えるためのイベントバトルとはいえ。


 精鋭である獅子柄班が何の理由もなく苦戦しているというのは無理があるので、こういった設定のボスが用意されたのだろう。


― 増援が確認されたことによる星の縛り、戦闘の一時中断がまもなく解除されます ―


「おい新人、気をつけろ! あの赤い野郎は、物理攻撃が効かねぇぞ!! 」


「は、はい…! 」


― まもなく戦闘が再開されます ―


「■■ゥ」


(ミサキ。 この戦い、指示は出さずに俺に任せてくれないか? )


「えっ? 」


「■■…」


(頼む…)


「…うん。 分かった、エデンを信じるよ! 」


― バトルスピード算出。 勝利。 先攻を奪取しました ―

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