(NEW)第17話 俺のマスターが初期装備でも可愛い件について

「あ、あれ? 」


 マイさんに教えてもらった合言葉を口にしても、机に置かれた黒い板にはなんの変化も起こらなかった。


(てっ、え~! アイのほうは武器になってるじゃん…! なんでぇ~!? )


 隣の席にいるアイの様子をチラリと横目で確認すると。


 アイの机には黒い刀身に発光するピンクのラインが刻まれたカタナが置かれていた。


「うぅ…どーして私だけ」


「はじめてだと失敗する人は多いから、そんなにしょげないで大丈夫よミサキさん」


「本当ですか…? 」


「ええ。 試しに幻異結晶をもう一つ砕いてからもうロックの解除に再挑戦してみましょう? 」


「分かりました…! 」


 マイさんに手渡された結晶の欠片をパリンと砕くと、じんわりと体の内が熱くなった。


「さあ、試してみて」


「はいっ。 ……封納解除」


 また失敗したらどうしようって、緊張しながら言葉を紡ぐと。


 さっきまでなんの反応も示さなかった黒い板が瞬く間に形を変え、アイとお揃いのカタナが出来上がった。


「やった! 」


「やったねっ、ミサちゃん! 」


「うんっ」


 嬉しくて、思わずアイと手を取り合いその場でぴょんぴょんと飛び跳ねる。


「こーら、まだ授業中よ」


「嬉しいのは分かるけど、席に着いてちょうだい」


「わわっ、ごめんなさ~い! 」


 私たちが着席したのを確認すると、最川先輩は教卓の上にある幻異結晶が積まれた箱を指さし口を開いた。


「この幻異結晶を砕くことで得られるエネルギーは、私たちのマスターとしての能力を向上させてくれるの。 現に、幻異結晶からエネルギーを吸収したことで私が身に着けていた幻異武装を見えるようになったし、封納解除で武器のセーフティーロックも外せるようになったでしょ? 」


 今日私とアイが使わせてもらった幻異結晶は異界域から回収されたものらしくて。


 幻異結晶みたいにエネルギーを内包したアイテムを使用する以外にも、天使や悪魔が消滅する時に放出されるエネルギーを直接吸収することでもマスターとしての力が増すらしい。


 つまりは、アイテムを使ったり敵を倒すことでマスターとしてパワーアップしていくってことで。


 ゲーム好きな私からすると、勇者ミサキはレベルが上がった! みたいなイメージが浮かんで、なんだか少しワクワクしちゃった。


「それじゃあ、もうすぐお昼になるし。 ここまで教えた事を一度、おさらいしてみましょうか」


「はいっ」


 終わったらご飯にしましょう、というマイさんの言葉を聞き俄然やる気が湧いてきた。






 ◇◆◇






「■ゥ? 」


(んお? )


 盟友界で時間を潰していた俺の目の前にゲートが開き、マスターからのお呼びがかかる。


 召喚の呼びかけに応じ、ゲートをくぐれば。


 叢雲から支給される初期装備に身を包んだミサキが、夕焼けに染まった教室の中で待っていた。


 最初に手に入るこの幻異武装は、武器も防具も黒を基調としており。


 波打つように引かれたピンク色の発光ラインが加わることで、シンプルながらオシャレな見た目に仕上がっている。


「今日貰った幻異武装を一通り装備してみたんだけど……どう…かな? 似合ってる…? 」


「……」


「って、あはは…。 急に喚び出して、似合ってる? なんて聞かれても困っちゃうよね…」


「■■! ■ゥゥ! 」


(いや! 似合ってる! )


「えっ、ほ、ホントに~? 」


 幻異武装は結局、マスター専用の武器や防具だから性能が良ければ見た目は関係ないって奴もいるが、俺は見た目が良ければそれだけモチベーションが上がるタイプだったからな。


 幻異武装を装備したミサキが、似合っているかどうかと見た目を気にする気持ちも理解できる。


「■■、■■■ォォォ!! 」


(おう、可愛いゾ! )


「も、もうっエデンったら。 そんな、すぐ可愛いとか言っちゃってチャラいんだ~。 まあ…その…褒めてくれてるのは伝わるし、嬉しいけどさっ… //// 」


 頬を掻きながら照れくさそうに微笑むミサキ。


 俺は、彼女が悪魔に殺され……体を奪われてしまう本来の歴史を捻じ曲げた。


 例えその選択が、この先の未来にどんな影響を及ぼしたとしても。


 この笑顔を守る、そう決めたんだ。






 ◇◆◇






「じゃあな、相棒。 今度こそ、約束を守ってやれよ」


「ああ、必ず」

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