第11話 同じなんだよ

 ミンチにされるなどと人聞きの悪いことをいい怯えていたメアリーだが、俺が怒ったわけではないと気付くと態度を一転し。


 照れくさそうに鼻を鳴らすと、再び空中でふんぞり返った。


「ふ、ふんっ! あにゃしは、獣属性を持つ相手にゃら必ず会話が成立するスーパーにゃスキルを持っているのにゃ! どうだにゃ? すごいにゃろっ! あにゃしを尊敬して褒め称えてくれたっていいのにゃよ」


(そうか…)


 すっかり忘れていたが、メアリーは会話系特殊スキル”獣語らい”を最初から習得しているのだ。


 会話系特殊スキルは対人戦以外で出現する天使や悪魔と”取引”を行う際に自動発動するスキルで、メアリーが覚えている獣語らいの場合、獣属性を持つ相手に限り通常では会話が成立せず取引を行えない相手とも取引を行うことが出来るようになるのだ。


「ほぬほぬ…。 にゃるほどにゃ…。 エデンは狂獣属性も持っているのかにゃ。 それにゃら納得にゃのにゃ」


 獣語らいのお陰で意思疎通が出来ることを知り。


 どうせ言葉が通じないからと、ずっとこちらに話しかけていたメアリーを半ば無視する形になっていた先程までの態度を謝り。


 自己紹介をする流れで、俺が狂獣属性を所持しているせいで唸り声しか上げれないことを打ち明けると「アンタも苦労しているのにゃな…」と肉球ぷにぷにで慰めてくれた。


 天使や悪魔、そして、それが変じたセインやデモンは。


 俺が持つ狂獣属性のように自身の特性を示す属性をなにかしら所持しており、複数の属性を持つものも数多く存在している。


 死滅の騎士エデンは獣属性の他に狂獣属性や闇属性、騎士属性など数多くの属性を保有しているのだが。


 通常攻撃および物理スキルに+補正が掛かる騎士属性のようにメリット効果のみの属性もあれば、魅了と睡眠の状態異常に掛からなくなる代わりに知性のランクに関係なく取引を行えなくなる狂獣属性のようなメリットとデメリットの両方を兼ね備えた属性も存在している。


 ちなみに狂獣属性のようなデメリットを受けていないセインやデモンはステータスの一つである知性のランクがD以上あれば人語を操れるようになるのだが、これは敵対している天使や悪魔も同様で知性がDランクに満たない相手は基本会話が成立せず、取引を行う場合にはメアリーの獣語らいのような会話系特殊スキルが必須になってくる。


「あにゃしらはほぼ同時期に召喚されたからにゃ、盟友界に建てられたハウスもやっぱしお隣りなのにゃ。 これからはお隣さん同士仲良くするのにゃ~! 」


「■■、■■■■ァ! 」


(ああ、これからよろしくな! )






 ◇◆◇






 新東都女学園、学生寮207号室。


 最川先輩とマイさんに案内され、今夜から自由に使っていいと私たちに割り当てられたこの部屋は二人で使うには十分すぎる広さだった。


「さっそくベッドにダ~イブっ! うーんフカフカだ~」


「あはは…ミサちゃんたら、子供みたい」


「なにお~そんなこと言うアイは……こうだっ」


「きゃっ! ちょ、ちょっとミサちゃんたら…もうっ」


 アイの手を引いてゴロンって、ベッドに二人で寝っ転がる。


「……」


 私が戦うと決めた時、アイも一緒に戦いたいと口にした。


 危ないからダメだよって言葉を、それはお互い様かって一度は飲み込んだけど…。


(私が護りたい”大切な人”にはアイも入ってるんだよ)


「アイ…やっぱり、さ。 私がマスターになって戦うからアイは―― 


「同じなんだよ」


「えっ? 」


「わたしとミサちゃんは、生れた街も、学校も、年齢も…。 戦いとは無縁な女の子だったことも、ぜんぶ同じなんだよ」


「でも…っ」


「ミサちゃんのこと、心配する気持ちも…! 大切に思う気持ちも…わたしだって同じにあるんだよっ。 それに、身長だって、ほら」


 背を向けて寝ていた私の体を、アイが後ろから抱きすくめる。


「もう、わたしの方が大きいんだよ? 」


「アイ……」


「いつまでも、妹扱いはイヤだよ…ミサちゃん」


 小さい頃のアイは泣き虫で。


 何かあるとすぐに私の後ろに隠れてしまって、そんなアイを私が護らなきゃって思ってた。


「マスターとして、ミサちゃんと一緒に戦うってことは…わたしが、自分で決めたことなの。 だから、ね。 絶対、やめないよ」


 アイはずっと、可愛い妹分のままだって勝手に思ってたけど。


 いつの間にか、私をすっぽり覆えるくらい大きくなっちゃって。


「わたしだって…ミサちゃんのこと、護ってあげたい」


 こんなに、強い子になってたんだ。


「そっか…。 ありがとね、アイ」


 その夜、私たちは久しぶりに同じベッドで寝ることにした。


 もう元の生活には戻れない。


 マスターとして戦う、そう決心したけど。


 お父さんやお母さんとも、これまでのように会えなくなって。


 これからどうなるんだろうって。


 心細くて、不安なこともいっぱいあった。


 だからアイが。


 これからも、隣にいてくれるって分かった時。


 本当は…すっごく、安心しちゃったんだ。


「…………」


「ミサちゃん…? 」


「ふふっ…おやすみなさい、ミサちゃん」

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