第9話 二つの選択肢
「まず、これは確認なのだけれど。 異界域に入ってしまったのも、召喚を行ったのも今日がはじめてなのよね? 」
「は、はい…! 」
「はじめてです」
「それなら、今日がその日だったのね」
「その日、ですか? 」
マイさんの説明によると。
特別な力に目覚めたマスターでなければセインやデモンを召喚出来ないように。
マスターとしての力をもたない人ではそもそも、あのへんてこになっちゃってた商店街のような”異界域”と呼ばれる空間に入る事は出来ないのだという。
「マスターとしての力は様々な要因で目覚めることがあるのだけれどね。 その要因の一つに、年齢もあるの」
「一般的に十代から三十代までの二十年間が、自然に力が目覚めやすい時期とされているわ。 だから貴女たちは気づかぬ間にマスターとしての力に目覚めてしまって、異界域に迷い込んでしまったのだと思う」
「そう、だったんですね…」
「あのっ…! 私たちがいた異界域はすごく商店街に似ていたんですが、あそこにいた皆んなは大丈夫だったんですか…! 」
「ええ、アイカさんにも聞かれたから彼女には先に説明しておいたのだけれど。 異界域は私たちが普段暮らしている世界とは違う次元にあるの、文字通り異世界ってことね。 だから、商店街に似ていたとしてもあの場所はまったくの別もので。 商店街のお店の人たちや近所の人たちは皆んな無事でいるから安心してね」
「そっか…よかった…」
「けれど、異界域に入れないからといって必ずしも一般の人たちが安全というわけではないわ」
「えっ…」
商店街の人たちには何の被害もなかったと知りホッとしたのも束の間。
私たちを安心させようと柔和な笑みを浮かべるマイさんとは対照的に、険しい顔つきのまま口を開いた最川先輩の言葉に胸がひゅっとなる。
「異界域の中にいる天使や悪魔が、私たちが暮らす世界に直接出てくることはできないけど。 発生してから時間が経ち過ぎてしまった異界域は、この世界との境目が無くなって現界領域としてこの世界に確立されるの。 こうなると、中にいた天使や悪魔は野放しになってしまう」
「そんな…! 」
「それだけじゃないわ。 天使や悪魔は人の体を奪う事で、現界領域にならずとも異界域から外へ出ることが出来るのよ」
「ミツルちゃんが言う通り……。 実際にはもう、人の体を奪った天使や悪魔が何体も人間社会に紛れ込んでいるの」
「……っ」
「そういえば…私を襲った悪魔も言ってました。 私の体を奪ってやるって」
もしもあのまま、私の体が奪われてしまっていたら…。
「ミサちゃん……」
悪魔とのやり取りを思い出し、震える私の手をアイが優しく握ってくれた。
「今の貴女たちは、正直に言うととても危険な状態よ。 マスターとしての力に目覚めたばかりで、人の世界に干渉しようとしている天使や悪魔からすれば格好の獲物」
「天使や悪魔から狙われるということは…つまり。 ミサキさんやアイカさんの近くにいる親御さんやお友達も、必然的に危険に巻き込まれるリスクが高くなってしまうということなの」
「みんなが…危険に」
私の大切な人たちが、天使や悪魔に襲われることを想像してしまい不安と恐怖で顔が強張る。
「脅かすようなことをいってごめんなさい。 でも、このことを踏まえてこれからどうするのかを決めて欲しいの」
「最初に言っておくと、これまで通りの生活に戻してあげることは出来ない。 貴女たち二人も、その周りの人たちも危なくなってしまうから」
「で、でもね。 マスターの力に目覚めてしまったからといって、危ないことをする必要はないのよ? このまま叢雲に保護されて暮らすという手もあるわ。 それでもいいの、そのための仕組みもあるし、それに――
「人々のために戦うという選択肢もあるわ」
「ミツルちゃんっ! 」
「マイ、これは彼女たちが選ぶことよ。 最初から可能性を狭めてはいけないわ」
「だけど…」
「貴女たち…いえ。 日野さん、立花さん。 二人には今、二つの選択肢があるわ。
マスターに護られて暮らすか
マスターとして戦うのか
好きな方を選びなさい」
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