第7話 喋れないお年頃なんです…ハイ

「いたっ…! ミサちゃっ―― 


 ゲミカーラを消滅させてから程なくして。


 慌ただしい二つの足音と共に、アダムスコードの主人公。


 そして、ヒロインの一人である最川ミツルが現れた。


「大丈夫、悪魔じゃないわ。 すでに契約を終えたデモンよ。 恐らく、あの騎士…? が貴女のお友達を助けてくれたんだと思うわ」


 地面に倒れたまま気を失っているマスター、日野ミサキの傍に佇んでいた俺を見て。


 言葉を失ってしまった”立花アイカ”に、最川ミツルは安心するようにと声をかけた。


(成程…。 マスターの意識が無くても必要な知識の共有は行われるわけか)


 人と契約を結んだデモンやセインはマスターである人間から様々な知識を授与される。


 それは言語であったり人間関係であったりと多岐にわたるが、今しがた俺も日野ミサキと知識の共有を行ったことでこの世界の主人公の名前がデフォルトネームと同じ立花アイカであると知ることが出来た。


「■■■■ァ」


「えっと…? 」


 人語を喋れないデモンやセインはマスター以外の人物と意志の疎通を行う事が難しい。


 死滅の騎士エデンは、一定のレベルに上がると訪れる覚醒昇華…所謂進化により人語を操れるようになるが。


 今の段階では、唸り声や雄叫びのようなものしか上げられないので会話の仲介役となるマスターが気絶している現状だとまともな話のやり取りは成立しない。


「■■ゥゥ…。 ■ァ」


 ゲミカーラも消滅し仲間との合流も済んだので、一先ず日野ミサキの安全は確保された。


 であれば、マスターである彼女に召喚による負荷をこれ以上掛けない方が良いだろうと。


 俺は地面に転がったままの召喚デバイスを指さし、ジェスチャーを駆使してどうにか帰還する趣旨を伝え。


 契約したデモンやセインが集う仮初の世界、盟友界へと向かうのだった。






 ◇◆◇






「消えちゃいましたね…」


「ええ、たぶん役目を終えたから盟友界へ帰ったんだと思うわ」


 倒れているミサちゃんのすぐ傍に真っ黒な騎士さんがいた時はビックリしたし、何があったの……ってすっごく心配になっちゃったけど。


 最川先輩が言ってた通り、あの騎士さんはわたし達が来るまでの間ミサちゃんのことを護ってくれていたみたい。


「ミサちゃん……」


「大丈夫、ちゃんと息はしているわ。 異界域の外に出たら私の仲間が来てくれるから、そうすればすぐにでも治療してもらえるわ。 だから、今はとにかく彼女を連れてここから脱出しましょう」


「はい…! 分かりました」


 ミサちゃんの身体を起こし、背中におぶろうとわたしが悪戦苦闘していると。


「私に任せておいて。 ん…しょっと」


「えっ…! す、すごいっ…! 」


 まるで空っぽのダンボールでも持ち上げるかのように、ミサちゃんの身体を軽々と持ち上げて見せた最川先輩は。


 そのままミサちゃん抱きかかえると、私にウィンクまでしてみせた。


(わ、わぁ……あれってお姫様抱っこってやつだよねっ)


「貴女もそのうち、これくらい出来るようになるわ」


「ど、どういうことですか~! 」


「ふふっ、その話はまた後でね。 さっ、彼女の荷物を持ってあげて? ここから出るわよ」


「はいっ! 」

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