第6話 死滅の来訪者

 今まさにマスターとなった一人の少女を締め殺さんとしていた悪魔は、俺の姿を見るなり苦しそうに胸を抑え込みヘナヘナと力なく地面に膝をついた。


「わ、ワタシにぃ何をしたぁ…! 」


(この悪魔、声は可愛いんだけどな……)


 首から下だけ見ればナイスバディなお姉さんだがそこは悪魔というべきか、深くかぶった赤いフードの中には三本角を生やしたジャクソンカメレオンのような顔を隠している。


「■■■ゥ■■」


(苦しそうだな)


「おま…お前がぁ…! 」


 死滅の騎士エデンは戦闘開始時に、敵対する全ての対象から魔力・闘気・HPを吸収するパッシブスキル”死滅の来訪者”を所有している。


 魔法系スキルの発動に必要な魔力と、物理系スキルの発動に必要な闘気を吸収する効果は戦闘の開始時にしか発動しないが。


 HP吸収効果は毎ターン発動するため、俺が存在するだけで相手は体力を消耗していき。


 逆に俺は、吸収したHPにより自身の体力を回復し続けられるのだ。


(ターン制のRPGだったゲームとは違うこの世界で、ターンがどのように扱われるかは謎だが。 この様子だと、死滅の来訪者の効果は一応発動しているみたいだな)


「■■■■ァ■■■■」


(取り巻きは消えたか)


 チュートリアルボスであるこのカメレオン女”ゲミカーラ”には二体の取り巻きが存在するのだが。


 死滅の来訪者によるHP吸収効果は、俺の最大HPを参照し2%の値を吸収するため。


 レベル50時点でアイテムなどによる底上げをおこなっていない素の状態でも最大HPが15000ある俺の2%、つまり300のダメージを開幕に受けることになるわけだ。


 ゲミカーラの取り巻きたちは二体ともHPが280しかないため、直接何もせずとも俺が出てきただけで消滅してしまったのだろう。


「わた、ワタシのトモダチを返せぇぇぇぇぇ!!!! 」


 取り巻きを殺され逆上したゲミカーラが、雄叫びと共に跳躍する。


(ほう……。 俺ではなく手負いのマスターを狙う冷静さは残っていたか)


 だが――


「■■■、■■■ァ」


(まずは、俺の番だ)


 アダムスコードの世界ではバトルスピードと呼ばれる素早さのステータスが影響する数値が存在し。


 バトルを行う際には、この数値が高い方が先手を取れる仕組みとなっている。


 しかし、死滅の騎士エデンはバトルスピードに関係なく必ず先手を打つことが出来る”時空の逸脱者”というパッシブスキルも所持しており、例え不意を突かれたとしても状況を一転させこちらから攻撃を仕掛けることが出来るのだ。


「■■■■ァ」


(自らの無力さを恨め)


 腰に下げた魔剣を引き抜き、ゲミカーラに見せつけるようにして頭上へと掲げる。


「やめ、やめてぇぇぇぇ!!! 」


「■■■■ッ!! 」


(消滅しろッ!! )


「△〇ギィィ×!?□ヤァァァァァァァァァ…!!! 」


 一刀両断、頭上から振り下ろされる死滅の剣。


 その刃を防ぐ術を持たないゲミカーラは、言葉にならない断末魔を響かせながら光の塵となり消えていった。

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