第3話 黒髪美人の自称先輩

 学校帰り。


 いつも通りの放課後。


 気づけば私は気絶していたらしい。


「ミサちゃん大丈夫…? 痛いところない…? 」


「う、うん。 平気平気、どこも異常なーしっ」


 見慣れた商店街は、いつの間にやら様変わり。


 深夜でもないのに人影一つ見当たらない。


 壊れたテレビに映したみたいに、そこかしこがへんてこりんな色をしていた。


「アイこそ怪我はない? 」


「うん…ミサちゃんが庇ってくれたから」


「そっか、よかった」


 まだ少しぼーっとする頭をなんとか動かし、直前の記憶を遡る。


 アイと二人、下校中だった私たちを”黒いもや”が襲ったんだ。


「あのモヤモヤは? 」


「気づいた時にはいなくなってて…。 と、とにかく。 あの靄がまた戻ってくるかもしれないし、ここから離れようっ」


「分かった…! 」


 アイが拾ってくれた鞄を受け取り、元来た道を戻ろうと足を踏み出す――


「待ちなさい」


「ひぃうっ…! 」


「誰っ!? 」


 突然、見知らぬ声に呼び止められ。


 咄嗟にアイを庇うように、背中で彼女を隠しながら後ろを振り返れば。


 私たちよりも少しだけお姉さんに見える、黒髪美人が立っていた。


「驚かせてごめんなさい。 私は…そうね……。 貴女たちの先輩だと思ってくれればいいわ」


「先輩…ですか? 」


 私たちの先輩だと口にしたお姉さんは、この辺りでは見かけない制服を着ていた。


「ミサちゃん…この人のこと知ってる…? 」


 小声でそう尋ねてきたアイに、私は知らないと首を横に振る。


「貴女たちが警戒するのも無理はないと思うけど…今は時間がないの。 詳しい説明は後でするから、この”異界域”から抜け出すために今は私の指示に従ってくれないかしら」


 こんな状況でなければ、いきなり現れておかしなことを口にする怪しいお姉さんなんだけど…。


 私たちが巻き込まれているもっとおかしなことを考えると、今はこの人のいう事を聞いておいた方が良さそうだった。


「アイ」


 先輩を自称するこのお姉さんを一旦信用しようと、アイに視線を送れば。


「うんっ」


 意図を察したアイはコクリと頷いた。


「……それじゃあ、私の後をついてきてちょうだい。 まずは貴女たちの自衛手段を確保するわよ」


「自衛手段…? 」


「そうね……貴女たちは、天使や悪魔の存在を信じるかしら? 」






 ◇◆◇






「■■■■ォォォォォォァァァァ!! 」


 久々の来客。


 客といっても、相手は敵意剥き出し殺意剥き出しの乱暴者悪魔で。


 会話を楽しむような余地など微塵もない。


 ならばお帰り頂くまでと。


 挨拶代わりに、オーク属性の悪魔らしい奴のでっぷりとした土手っ腹に右ストレートを叩き込めば。


「ボギャァァァァッ! 」


 そいつは風船が破裂するように弾け飛んだ。


「■■■■■ゥゥ…」


(あっけねぇぜ…)


 乱暴なお客様を土へ還し。


 篭手に付着した臓物の破片を振り払うと、お手製の骨骨チェアーに腰掛けなおす。


(くそぅ…。 せっかく好きなゲームの世界に転生したのに。 椅子に座ってぼーとするか、殴り合うかの生活なんてあんまりなんだぜ…)


「■■ァ」


(あ~あ゛、どうせ転生するなら主人公が良かったな~ァ)


「■■、■■■…」


(なんつって、実際に主人公になったらなったでプレッシャーエグそうだしやっぱナシナシ…)


 次から次へとでっかい事件に巻き込まれ、十代とは思えない苦労と重荷を背負う事になる。


 そんな、アダムスコードの主人公は男女から選択可能で。


 男主人公のデフォルトネームは立花レン。


 女主人公の場合は確か――


(立花アイカ。 だったか)


 彼、あるいは彼女はある事件に巻き込まれ……幼馴染の”日野ミサキ”を亡くしたことを切っ掛けにマスターとして戦う事を決意する。


(日野ミサキ…初見の時はメインヒロインだと思ってたから、チュートリアルで死んだときはショックだったな…)


「…………」


(原作を弄る二次創作はあまり好みじゃなかったが……)


 日野ミサキ、彼女が生き残るそんな未来ifを思い描いたことはあった。

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