第34話 エピローグ
キエフ王国王都の北東部には冒険者ギルドが存在する。
そのギルドには様々な依頼が掲示されている。
個人的な依頼、商会といった組合からの依頼、村や町からの依頼などからモンスターの討伐や護衛、採取や採掘など数多くの依頼が毎日届く。
そんなギルドに今日も今日とてイヴリン・ロミアスは働いていた。
「はい、確かに確認しました。依頼達成お疲れ様でした」
ニコリッと笑ってお礼をして、次の人に呼び掛ける。
「お待たせしました。次の方どうぞ」
「こんにちは、イヴリン。依頼の達成を報告しにきたよ」
親しく話しかけてきたのは彼女の親友である金髪の少女。
それに対し、イヴリンは笑顔で親友を応対した。
「お疲れ様、シルヴィア!!」
***
「えっーと、何々? …えっ、ダンジョン結構深いところまで入ったんだね? 大丈夫だった? まだ病み上がりなのに」
親友のイヴリンが不安そうに尋ねてくる。
一方、私は苦笑気味だ。
「もう大丈夫だよ。それに、
「それならいいけど…」
ちらっとイヴリンはギルドの入り口のすぐ横にある壁に凭れる師匠を見る。
そこには高身長で佇む師匠がいる。ついでに美形だから多くの女性陣の視線を奪っている。
「すごいね、ディートハルトさん。まだ冒険者になって一ヶ月なのに。ディートハルトさんがあれなら将来ディーン君もすごくなりそう」
「あはははっ…」
イヴリンの言葉に再び苦笑してしまう。
キエフ王国に帰って一ヶ月過ぎた。
ランヴァルド様の言った通り、私は事故で川に流されて隣国でしばらくお世話になっていた設定で帰ってきた。
大陸北部に位置するキエフ王国は冬は当然寒い。まだ冬ではないけれど、川に流された私は奇跡的に救助されたけど昏睡状態だったということで通った。…イヴリンにはすごく心配されて申し訳なかったけど。
嘘ついてしまったお詫びと心配させたお詫びとしてイヴリンの好きなカフェに今は連れていって奢っている。
そして、帰っている途中で、昔の知り合いのディートハルト・リゼルク…師匠と再会して一緒に王都に来たという設定になった。
そこで旅の途中でディーン君が実は身寄りのなくて引き取った遠縁の子ということで師匠がディーン君を元の家へ帰した…とかなり強引な話を師匠が作った。
正直、そんな都合のいい話納得するの?って思ったけど案外通った。なんで?
理由はやっぱり髪の色と瞳の色が似ていたから、と。そうですか。
まぁ、普通同一人物とは思うまい。
私の失踪には騎士団も捜索してくれたようで、事故で~と説明しておいた。
ニコルさんにも心配されて、何度も謝った。同時にディーン君が無事元の家に帰ったと説明もしておいた。
ディーン君が師匠の名前を使っていたのは見知らぬ土地で怖くて咄嗟に嘘ついたんだろう、と師匠がニコルさんに説明していた。
そんな嘘だらけの話をニコルさんは笑って聞いてくれて「
事情があるにせよ、嘘をつきすぎて心が痛くなった。
「すごいよね、シルヴィアと同じように三属性の使い手なんて」
「うん…」
いや本当は全属性使えるんだけどね。
愛し子ではなくなったけど、それでも普通の人より魔力は圧倒的に多く、ランヴァルド様から返されたこともあり、今では魔力は私より多い。
そのためか全属性使えるけど、そんなの公表できるはずがなく、三属性の使い手として今は活動している。
魔法は師匠が一番得意とする雷に、風と闇魔法となった。
闇魔法は光魔法同様珍しい属性で、光魔法が結界や治癒といった支援系魔法に特化した属性とするならば、闇魔法は攻撃に特化した魔法である。
物理的な力技の魔法が多い魔法だ。
「はい、確認したよ。お疲れ様」
「ありがとう。じゃあね」
イヴリンに手を振って別れると入り口に佇む師匠の元へ行く。
「し…ディートハルト、お待たせ」
「終わったのか?」
「うん」
私が告げるとドアを開けてくれる。先に出よう。
あとから出た師匠が隣を歩いていく。
「ダンジョンはやっぱり報酬金がいいですね。深部だからかすごい貰いましたよ?」
「シルヴィア、敬語」
「あっ」
いけないいけない。つい敬語で話してしまう。レラの癖は中々消えない。
しかも、師匠の姿が大人の青年姿だからつい。
「んんっ…えっと、外食しない? 私、おいしいところ知ってるんだ」
「へぇ、ならいこうか」
「うんっ!」
久しぶりの外食。楽しみだなぁ。
そう思っていたら知っている人の後ろ姿を見つけた。
「あれ? ニコルさん!」
「? ああ、エレインさん、ディートハルトさん」
ニコリッとニコルさんが笑って振り返ってくれる。
「見回りですか?」
「いえ、今は休憩で駐屯所から戻っていたところでした」
「あ、すみません…!」
「気にしないでください。このあとは訓練で」
「曇り空なのにですか?」
今日の空は曇天で雨が降りそうだ。
「時には雨の中でも任務にとりかかる必要があるので。雨の中の訓練もあるんですよ」
「そうなんですね」
騎士は花形職だけど中身は大変そうだ。
しかも、王都配属の騎士だから実力は高いはずだ。
「こんにちは、ディートハルトさん」
「ああ」
「ちょっと」
師匠を睨む。挨拶くらいはしては? ニコルさんに失礼では?
「大丈夫ですよ。ディーン君と本当に似てますね。顔とか雰囲気とか」
「……」
ニコニコしながら話していく。ニコルさん、勘が鋭いのか師匠が珍しく無言になっている。
「ディートハルトさんも珍しい三属性なんですね。将来他国の人でも魔導師になれるようになれたらもっと国がよくなると思うんですが」
「そうですね…。そしたらもっと国も発展しそうですね」
魔導師だと魔法の研究もするし、他国の人間でも優秀な魔法使いが魔導師になれたらもっと魔法の研究が進むかもしれない。
「ニコルさんってディーン君にもニコニコしてましたけど、子どもに慣れてますか?」
「あ、俺…じゃなくて私の家、年の離れた弟が二人いるんですよ。それで敬語なんか使わずに普段会話してるからディーン君の時も気にしなかったんですよ」
なるほど。前から子どもに慣れていそうな気がすると思えば。
「小さい子どもは好きですし、だからディーン君もほっとけなくて」
「そうなんですね」
「そうだ、ディートハルトさん。今度一緒に飲みに行きませんか?」
「は?」
師匠がなんだいきなり?という目をしてニコルさんを見る。
「……俺と?」
「? はい」
ニコルさんが微笑みながら不思議そうに首を傾ける。一方の師匠はやや困惑気味だ。
「……なぜ?」
「なぜって、ディートハルトさんと仲良くなりたいからに決まってるじゃないですか。まだこの国に来たばかりでしょう? 知り合いも少ないのでは? 色んな場所案内しますよ」
「俺と……?」
師匠がぱちくりと目を瞬きをする。おおっ、きっとニコルさんの「仲良くなりたい」に驚いたんだろう。そして何気にニコルさん、ストレートに話していく。
愛し子はその特殊な立ち位置ゆえ、友人など作るのは難しい。
友人ができてもその友人たちは必ず自分を置いていく。愛し子にとっては中々苦痛だ。
だからニコルさんの言葉は長年愛し子であった師匠にとって珍しくて驚いてるんだろう。
もしや、ニコルさんと私は似た者同士かもしれないと考える。
世話焼きしたい性分なのかもしれない。私もレラの時、生活態度の悪い師匠の面倒をよく見ていたし。
「……わかった」
数秒の沈黙の末、師匠は口を開いた。
「よかった、じゃあ近いうちに連絡するよ。じゃあこれで」
「訓練頑張ってください」
「……怪我、するなよ」
「ありがとう、エレインさん、ディートハルトさん」
そしてニコルさんは手を振って去っていった。
「師匠が心配するなんて意外ですね」
師匠にこそっと告げる。そこは意外で少しびっくりした。
「…怪我はしない方がいいだろう。…それに、小さい時何かと心配してくれていたしな」
そう言う師匠の表情は少し柔らかく見える。…嬉しかったのかな。
クスリッと笑ってしまう。愛し子でなくなった人生を楽しんでくれそうだから。
一度目の私、レラは十六歳で呆気なく命を落とした。
だから二度目の人生はいっぱい楽しんでいきたい。
その隣には、大切で好きな人がいて。
じっと師匠の顔を見る。
「……なんだ?」
不思議そうにこちらを見る師匠。
そんな師匠に私は元気に答える。
「ううん、なんでもない。ご飯を食べに行こう! それで、帰りにシロちゃんの好きなの買って帰ろう!」
「…ふ、そうだな」
私の言葉に小さく笑った師匠と一緒にまた歩き出す。
私の帰る場所はキエフ王国。
そこで私は冒険者の活動をしながら大切な友人や好きな人の側で、これからも生きていく。
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