第13話 お出かけ2
「ここは王都でも大きい本屋さん。教養の本や娯楽本、専門書とか色んなジャンルの本が揃ってるね」
「専門書…魔法に関する本もあるのか?」
「あるよ。こっちだよ」
師匠に魔法の専門書である魔導書を案内してあげる。ズラリと本が大量に並んでいる。
「何か読みたいのある?」
「…ある。…しばらく読んでてもいいか?」
「いいよ。私は娯楽本の方読んどいていい?」
広い本屋だけど、ここには人がたくさんいるから離れていても大丈夫だろう。
「わかった」
「じゃあね」
師匠と別れた後は娯楽本の方へ歩いて行く。
読むのは恋愛系の小説やファッション雑誌だ。
自身の恋愛には興味もない。だけど、こういうのは好きで読んでしまう。
イヴリンも読んでいるからお互いに好きな本を紹介したりもしている。
ファッション雑誌の方はこの秋冬のコーデが掲載されているので読んでいく。
「ディーン君。そろそろ出ようか」
本屋さんに来て約一時間。時間があればもっと読ませてあげたいが、雑貨屋さんにおいしいカフェも紹介したいからそろそろ行かないと。
「わかった」
「色々読めた?」
「ああ、ここはたくさん魔導書があるんだな」
「そうだね。また今度行ってもいいかもね」
そう言って本屋さんから出る。丁度お昼だしそろそろカフェにしよう。
「午後になったからカフェで昼食にしよっか。私の行きつけのカフェでもいい?」
「ああ」
そして着いたのはコーヒーがおいしいと評判のちょっとお高めのカフェ。パンにサンドイッチにホットドッグ、パスタにケーキが食べられて、コーヒー以外にも紅茶も飲める。
私はパスタとコーヒーを注文して、師匠はサンドイッチと紅茶を頼んだ。
「お待たせしました」
やって来たのはカルボナーラ。ここのカルボナーラは絶品で、家ではマネできない。
早速食べてみるとやっぱりおいしい!
「…おいしいのか?」
「おいしいよ。どうして?」
「顔が緩みきっている」
毒舌全開の師匠。やだ、顔が緩んでいるとは。気を付けないと。
「一口食べてみる?」
「…いや、いい」
「そう?」
絶品のおいしさに、女性には丁度いい量のカルボナーラはぺろりっと平らげてしまった。おいしかった、ごちそうさまでした。
師匠の方も丁度終わったようで、あとはドリンクを飲んで過ごす。
「今度はカルボナーラ食べてみたらどうかな。おいしいよ」
「…また行くのか?」
「え、嫌だった?」
師匠のまた発言にしょんぼりする。私は何度でも師匠を外に連れ出して健康優良児にするつもりですよ!
「……いや。……俺は、いていいのかって思ったからだ」
「え?」
師匠の言葉に驚く。
「……冒険者にはなって金銭を稼いでいるといっても、シルヴィアに迷惑をかけているのはわかっている。だから、いつまで──」
「ずっといてくれてもいいよ」
師匠の言葉を遮ってしまう。二回目だ。だけど伝えとかないと。
「し──ディーン君がいたいのならずっといていいよ。冒険者して頑張ってくれてるし、魔法指導してもらっているし」
「……そんなの大したことじゃない」
「それを判断するのは私だよ」
「……なんで、そんなにお人好しなんだ?」
「それは前も言ったけど、恩人に少し似ていて──」
「でも他人だ。それなのになんでそこまでしてくれるんだ?」
それは、貴方がたった一人、最後まで側にいてくれた人だからだよ。
前世では老師が亡くなり、次に母様が亡くなって、一人泣いていた私の側に黙って側にいてくれたから。
父王は確かに優しかった。私が望むものは与えてくれた。
でも、その目は私を道具として見ていると知っていた。
純粋に優しく接してくれたのは老師と母様だけで、二人が亡くなってからは師匠だけが本当の私を見せることができる人だった。
寂しがり屋の私の側にできるだけいてくれてどれだけ嬉しかったか。どれだけ救われたか。
私を救ってくれた師匠。
レラの生前言えなかったその言葉を言えたらどれだけいいか。
でも、言えない。だから──。
「……寂しかったんだと思う」
師匠が僅かに目を開けてこちらを見てくる。
「前、私は違う国から来たって言ったでしょう? …私ね、元は貴族のお嬢様だったんだ。婚約者もいたんだよ? だけど…義理の妹に取られて国外追放されたんだ。実母は死んでいるし、父は政略結婚の末に生まれた私を疎んでいるから、一人旅してたどり着いたのがこの国だったの」
ポツリポツリとシルヴィアの生い立ちを簡単に話していく。
「だから、一人転々としている君を、つい自分に重ねてしまったんだ。…それに、ディーン君との生活は思っていたよりも楽しくて。人と生活するのって楽しいんだなって思ったんだ」
レラのことはおくびにも出さすに話していく。
実際、師匠との生活は居心地よかった。楽しかったから。
それはレラの時も、シルヴィアの時も一緒だ。
「楽しさを教えてくれたのはディーン君だよ。だから、ディーン君がここにいたい間はいていいんだよ。迷惑じゃないから」
師匠の目をしっかりと見て話す。
師匠がいたい間はいていいんですよ。それが、前世…レラの時返せなかった恩返しだから。
「……昔の、記憶思い出させて…悪かった」
「別に、もう割りきっているからいいけどね。元婚約者なんて私のこと嫌っていて、私も大嫌いだったからね!」
こんなこと、故郷で言ってたら大問題だけどもう平民でここは他国。好きに言ってやる!
「だから義妹には感謝してるくらいだよ! だから気にしないでね」
明るくそう言うと、師匠は目を細めて小さく笑う。え、何。めっちゃレアじゃない??
「お前…明るいな」
「まぁちょっとやそっとじゃへこたれない性格かなって思ってるよ」
「くっ…そういうの、本当…レ──……」
「……? ディーン君?」
急に言葉を止める師匠に声をかける。どうしたんだろう。
「……いや、何もない。……なら、もう少し世話になる」
「…? うん」
どうしたんだろう…一瞬、泣きそうな顔に見えた気がした。
***
その後は雑貨屋さんや小物屋さんなどにも回り、あっという間に夕方になってしまった。
「夕方になったし、あとは買い物だけして帰ろうか」
「ああ」
果物屋さんのおばさんには会いに行かないといけないし、パン屋さんも行かないといけない。野菜は家にまだあるから少しだけ買って、お肉を買おう。
そう考えていると後ろから声をかけられた。
「エレインさん? ディートハルト君?」
「あ、ニコルさん!」
後ろにいたのはニコルさんだった。今日も騎士の服を着ている。
師匠を引き取ったことでニコルさんとは顔見知りになり、王都を歩いていると度々会うので挨拶をしている。
「こんにちは」
挨拶しながら会釈すると、師匠も小さく会釈する。
「こんにちは、今日は二人で買い物を?」
「はい。あとは買い物だけして帰る予定で。ニコルさんはまだ勤務ですか?」
「残念ながら。今日は夜までなんです」
「騎士は大変ですね」
和やかに会話していく。
「ディートハルト君。元気かい?」
「……元気だ」
「こら、ダメでしょう。敬語で話さないと」
師匠、年齢は貴方の方がはるかに上なのはわかっていますけど、今は年下に見えるんですよ。
しかし、師匠は顔を逸らして言うこと聞かない。むむっ、難しい。
「別にいいですよ。元気そうならよかった」
「本当、すみません」
ニコルさんに頭を下げる。すると師匠が私を睨んでくる。無視だ。
ニコルさんは優しく再び気にしない、と言ってくれる。ありがとうございます。
「それでは、お気をつけて」
「はい、ありがとうございます」
会釈して別れると、師匠の方を見ると顔を逸らしてきた。
「…はぁ。ディーン君」
本当は家に帰って渡そうと思ったけど、ここで渡そう。なんだかんだ、私は師匠に甘い気がする。
バックの中身を漁って師匠に渡す。
「はい、プレゼント」
「………は?」
は?と言う師匠を無視して、師匠の手のひらにそれを置く。
置いたのは緑と白が混じった石のついたストラップだ。
「さっき小物屋さんで見つけたの。おまじないがかけられてて、健康になれるんだって。はい、あげる」
そしてニッコリと笑う。さぁ、受けとるんだ。
「……まじないなんて、信じてるのか?」
「そんなに信じてないけど、あったらいいなって思うよ。いいから受け取って。返すのはダメだよ」
「………ありがと」
そして師匠はストラップをポケットに入れた。受け取ってくれるようで何より。
「どういたしまして」
そして私たちは買い物をしに歩き始めた。
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