第12話 お出かけ1
「今日は一緒にお出かけしようか」
「……一緒に?」
朝食を食べ終わって私がそう告げると師匠は復唱してきた。はい、お出かけです。
図書館を案内し、師匠を連れていって依頼をこなしたりしていて、師匠と一緒に住んで一ヵ月が過ぎた。
「そう。前言ったでしょう? 今度一緒にお出かけしようって」
「あれは本当だったのか……」
「とーうぜんっ! 図書館に行ったり、依頼引き受けで外には出たりするけどお出かけはしていないでしょう? ディーン君とお出かけしたいなぁって思ってたんだ」
師匠のことは前世の九年間でよく知っている。だけど三百年経っているのだ。知らないこともたくさんあるだろうから知っていきたい。
「……わかった」
「よし! じゃあ今日は王都を回ろうか」
師匠に王都を案内してあげよう。シロちゃんは悪いけどお留守番だ。
「お皿洗ったら早速行こうか。王都は広いから色々見て回ってお昼も外食しよっか」
「……わかった」
「うん」
そう言うとお皿を洗う。すると師匠も隣にやって来て洗ったお皿を拭いてくれる。
この前──魔法指導の日から師匠と一緒にお皿を洗って拭いている。
「手伝ってくれてありがとう」
「……別に」
相変わらず師匠との会話は長く続かない。
でも一緒に冒険者もして、以前より距離が近くなった気がする。
私と出会う以前はどんな生活をしていたんだろう。子ども姿で苦労したと思う。
だから、師匠にとってこの家が居心地のいい空間になってくれたらいいのになぁって思う。
シロちゃんはお留守番で、外行き用の服に着替える。
「シロちゃんいい子で待っててね」
「ニャッ」
シロちゃんの顎を撫でるとゴロゴロと鳴る。本当かわいい。猫じゃらし買おう。
「シルヴィア」
「あ、用意できた?」
師匠がリビングにやって来たため、シロち…ゃんの顎を撫でるのを止める。するとすりすりすり寄って来る。なんで猫ってこんなかわいいの?
「かわいい~、猫じゃらし買ってあげる!」
「…シルヴィアは猫が好きなのか?」
「犬も好きだよ。猫は飼ったことなかったからかわいくて」
レラの時代は大型犬を飼っていた。師匠が来る前、母様が寂しい私に買ってくれてかわいくてかわいくて大切に育てていた。
「ディーン君はどっちは? 犬派? 猫派?」
「……犬」
「シロちゃん飼っているのに?」
「前も言ったがその猫が勝手について来るんだ」
「ふぅ~ん。じゃあね、シロちゃん。お留守番お願いね」
「ニャッ!」
シロちゃんにそう言うと元気に返事してくれたので、師匠と一緒に外に出て、手を差し出す。
「……なんだこれ」
「手繋ごう。人がすごい多いからはぐれちゃうよ」
「はぐれない」
「かわいそうに……迷子になったら騎士団に保護されて私がお迎えに行かないといけないんだね……」
「…………」
ふふふ。師匠、私知っているんですよ。師匠の実年齢を。三百歳越えで迷子になるのは嫌でしょう?
ちょっと意地悪だけど、こうでもしないと師匠は従ってくれないのをここ一ヵ月で学びました。
「……わかった」
「じゃあ、手繋ごうか」
師匠と手を繋ぐ。小さくてかわいい。レラの時は王女だったから一度も手なんて繋げなかったんだよね。
「どこか行きたいところとかある?」
「……知らない場所だから、シルヴィアが案内してくれ」
「じゃあ案内するね」
まずは家の近くの市場でも案内しようかな。その後は本屋さんに雑貨屋さん、屋台にカフェも見せてあげたい。
「じゃあまずは市場見せてあげる」
二十分ほど歩いていると市場が見えてくる。
午前中だけど、市場はいつでも賑やかだ。
新鮮な野菜にお魚、瑞々しい果物が並んでいて、果物を加工したフルーツジュースもある。
その隣には屋台もあり、串揚げや揚げ物料理、他国の料理まで販売している。
「あら、シルヴィアちゃん! 今日も依頼の引き受け? ……あら、その子は誰?」
「おばさん。今日はお出かけしに来たんだ。この子は色々あって今面倒見てるの」
果物売りのおばさんに声をかけられて答える。市場とギルドは方角が異なるし、師匠とお買い物したことないから知らないのかもしれない。
「あらっ! きれいな子! ならシルヴィアちゃん狙ってる子に教えてあげないとねぇー」
「いいよ、おばさん。そんなの」
「シルヴィアちゃん別嬪なのに勿体ないわよー?」
「あははっ、おばさん持ち上げるの上手だね」
おばさんは話上手でいい人だけど、こうして人の恋愛に協力しようとするから少し困る。
「いいんです、私結婚願望ないから」
「まだ十九歳なのに枯れてるわねぇ」
「いいですよ。今では独身女性もちらほらいるじゃないですか」
そう言っても若いのに勿体ない、というおばさん。親切心なのはわかるが……。
「今日はこの子に王都案内してるんです。まだ案内しないといけないから失礼しますね。あとで果物買いますね!」
「あら、なら行ってらっしゃい! でも買いに来るのは約束よ!」
「勿論!」
そしておばさんに手を振って離れていく。
おばさんは枯れてると言うけど、正直……恋愛には興味ない。
父の裏切りを間近で見てきたし、婚約者の裏切りも味わったし、結婚に対する期待はなくなった。
だからか、交際も興味ないからこの国に来てから告白されたことあるけど断った。
「おや、シルヴィアちゃん。今日は買い物?」
「シルヴィアちゃん! いい魚入ったんだよ! 見ておいでよ!」
「シルヴィアちゃん、今日は人連れてるんだね。親戚の子?」
「シルヴィアちゃん! 出来立ての揚げ物はどうだい?」
「シルヴィアちゃん! 今日は暑いね、ジュースはどう?」
あっちこっちに声をかけられて応答していく。
別に私が人気者ってわけではない。市場の人たちはみんな面倒見がよく、馴染みの客だからだ。他のお客さんにも声をかけている。
「……シルヴィアは、人気者なんだな」
「人気者じゃないよ。ここの人はみんな明るくて気さくなの。馴染み客だしね」
ここに誤解している人がいる。違いますよ、師匠。
でも、師匠が青年の姿ならおばさん方が喜びそうだ。師匠きれいだし。
「あ! ここのフルーツジュースおいしいんだよ? 飲んでみない?」
「……飲んでみる」
「うん!」
「おや、シルヴィアちゃん。何? 弟?」
フルーツジュースのおじさんが師匠を見ながら尋ねてくる。
「遠い親戚の子で、今面倒見てるの。おじさん、ジュースちょうだい。私は……ミックスジュース! ディーン君は?」
「俺は…パインの」
「ミックスとパインだね。シルヴィアちゃん、三百ピグだよ!」
「はーい」
師匠を、引き取った経緯を話すのは少し面倒なため、ギルドでも頼んで合わしてもらって遠縁の子設定にしている。
そう言うとおじさんは「そうかい」と言って納得する。
おじさんに合計言われて財布からお金を出す。あ、丁度ぴったりあった。
おじさんにお金を渡すと新鮮な瑞々しいフルーツを目の前で加工してくれてジュースにしてくれる。この目の前でフルーツを加工してくれるのがいいんだよね。すごくおいしそうに見えるんだよね。
「…………」
師匠も初めて見る光景なのか、じっと見ている。なんかかわいく感じる。子どもの姿だからかな?
おじさんからジュースを貰って飲んでみる。うん、冷たくて、甘くておいしい!
歩きながら飲んでいって、隣を歩く師匠に聞いてみる。
「どう?」
「おいしい」
即答。おいしいのならよかった。
今度家でフルーツジュース作ってみようかな。
「ここがいつもパンを買っているパン屋さん。食パンにロールパンだけじゃなくて、甘いパンやちょっと辛いパンもあっておいしいんだ」
「たくさん並んでいるな」
お店の外から見るけど、ガラスには豊富な種類のパンが並んでいておいしそう。ここも帰り寄っていこう。
「ここも帰り寄ろうか」
「わかった」
「ここの道抜けたら次は本屋さんとかがあるんだ。行ってみようか」
そして、次はそちらに足を進めた。
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