第11話 師匠との討伐依頼

 魔法指導から数日、私たちの生活に少しの変化が訪れた。

 なんと、あれから師匠は度々私に魔法指導をしてくれるようになったのだ。

 居候させてもらっているお礼だとかで、私の魔法を見ては改善指導してくれている。


 そして、私は依頼を引き受けるために、数日ぶりにギルドに訪れた。


「すみませーん」

「あら、シルヴィアさん。今日はディーン君も一緒なのね」

「シシィさん。こんにちは」

「…こんにちは」


 私に声をかけてきてくれたのは職員の一人であるシシィさん。私より少し年上の女性だ。

 そして、シシィさんの言う通り、今日は師匠と一緒に来ている。


 頼まれた通り、師匠をギルドに連れていって冒険者登録をした。

 師匠は自分の名前をディーン・アーメルという偽名で登録した。

 最初はギルドの職員も師匠が冒険者になることに驚いていたけど、師匠の水と雷の魔法を見て納得した。

 十歳くらいなら近くの安全な森で薬草を採取したりするのが普通だけど、相手は師匠だ。そんなことはせず、私と一緒に依頼を引き受けている。


「今日はどんなのがいい?」

「ディーン君は何がいい?」

「シルヴィアに任せる」


 私に一任ですか。なら勝手に決めますよ。


「それじゃあ…最近あんまり討伐系の依頼していないから討伐の依頼を引き受けたいです」


 私が主に引き受ける依頼はこの前のような護衛やモンスターの討伐、鉱石採取などだ。

 最近はモンスター討伐あんまりしていないなって思ってたから久しぶりにしようと思う。


「モンスターね…。あっ! ならこれならどう?」

「これは…?」


 私たちに見せてきたのは王都から三つほど離れた小さな村からの依頼。


「昨日来た依頼なんだけど、畑を猪型のモンスターに荒らされて困っているらしいのよ。そのモンスターが頑丈で、火か雷の魔法じゃないと攻撃が通じにくいみたいで。ディーン君は雷使えるし、シルヴィアさんは両方使えるでしょう? どうかしら?」

「ちょっと見ていいですか?」

「どうぞ」


 シシィさんから依頼内容を見る。

 ここ数日、猪型の大型モンスターに畑を複数荒らされていて、このままでは収穫予定のものが全て食べられてしまうため、至急助けてほしいとのこと。引き受ける人は火か雷の魔法が使える冒険者で階級はシルバー以上が望ましいこと。私がシルバーだから大丈夫だろう。

 王都から三つ離れた村なら馬車で数時間で行ける距離だと思う。今日中には依頼達成できるかもしれない。


「わかりました。これにします」

「ありがとう、じゃあ書類作成してくるわ」

「お願いします」

「早速行くのか?」


 師匠が私に問いかけてくる。師匠と一緒にモンスターの討伐は初めてだ。


「うん、そうだよ」

「そうか」


 師匠はそれだけ言うとギルドを見渡す。

 まだ数回しか来ていないから珍しく感じるのかもしれない。


「お待たせ、これを渡してね。気を付けてね」

「はい、ありがとうございます」


 シシィさんにお礼を言ってギルドから出る。

 まずは馬車を探して村まで行かないと。




 ***




「さてと」


 村には数時間馬車で揺られてたどり着いた。

 近くの村人の女性に声をかける。


「すみません、カルヴァン・ギーヴさんっていう人はいますか? モンスターの討伐に来た冒険者のシルヴィア・エレインです」


 そう言って冒険者の証であるカードがついたペンダントを見せる。


「あら女性の冒険者さん? それに…」

「この子も冒険者しているんです」

「あら、そうなの?」


 疑問に思われる前に答えておく。


「わかったわ。案内するわ、ついて来て」

「はい」


 女性に頷いて後ろを歩いていく。

 子どもたちが「冒険者?」「うわっー!」「あの子も?」ってこそこそと話しているのが聞こえてくる。

 ミランダさんの息子も冒険者になりたいって言っていたし、人気なんだなぁって思う。

 たどり着いたのは他の村人の家より少し大きな家。


「村長、冒険者さんが来てくれました」


 村長からの依頼だったのか。

 村長だから六十代くらいかと思ったけど、会ったら四十代半ばの男性だった。


「本当か。初めまして、村長のカルヴァン・ギーヴです」

「冒険者のシルヴィア・エレインです。シルバーで、火と雷と光の魔法を使えます。この子も冒険者で、水と雷の魔法が使えます」

 

 そう言うとカードの裏を見せる。私の色は勿論シルバー。カードの裏には名前とどの属性が使えるかも記されている。

 冒険者カードに魔法を告げて依頼受理を伝えて書類を見せるとほっとした顔をする。


「そうなのですね、助かります。できれば今すぐにでも対処してもらいたいのですが…」

「勿論です。歩きながらでいいので、モンスターの特徴や被害について教えてくれませんか?」

「わかりました。では案内します」


 そしてカルヴァンさんの後ろをついていく。ちなみに師匠はだんまりだ。


「最初の被害から一週間経っていません。最初は荒らされてても一つだけで規模も小さかったのですが、翌日の二回目からは複数荒らされるようになって。人間の仕業ではないと思って村人たちで張り込んでいたら…」

「モンスター、だったと」

「はい。しかも、大きくて。魔法を使っても騎士様や冒険者のように魔法をきちんと学んでいないため効果はあまりなくて…。火と雷は比較的効果あったため、火と雷が使える冒険者に依頼したんです」

「なるほど。被害の時間帯は?」

「夜間ですが、住み処は見つけています。近づけば襲いかかってくるので、遠くから見張っているだけです」


 住み処がわかっているならあとは退治だけか。すぐにできそうだ。


「わかりました。じゃあ早速退治しますね」

「お願いします」


 カルヴァンさんの後ろを歩いていくこと約三十分。

 村から離れた山の洞窟にたどり着き、見張りの男性に声をかける。


「どうかい?」

「村長。さっきまで寝ていたんですが、起き上がりました」

「奪ったものを食べるつもりかもな。なくなったらまた荒らしに来るはずだ。シルヴィアさん、よろしいですか?」

「わかりました。近づいたら襲いに来るんですよね。なら、離れといてください。山の中で仕留めるので」

「わかりました」


 カルヴァンさんたちに告げて深呼吸をする。よし、やろう。


「ディーン君、行くよ。…だけ、使うんだよ」

「…わかってる」


 後半は小声で師匠に念入りに言うと、歩く音を控え、洞窟の方へ歩き出しながら脳内で使う魔法をイメージして火の魔法を唱える。


「火よ、集え。敵を囲いたまえ」


 するとボゥッと火の渦が発生し、猪型のモンスターを囲む。

 モンスターは驚いた顔をして、こちらを見て叫び声をあげて、大きな体を横に振ると火の威力を弱めた。


「風の魔法を使うモンスター、か」


 モンスターの中には稀に魔法を使う種類もいる。ならさっさと退治しないと厄介だ。


「雷よ、集え。麻痺させたまえ」


 暴れるモンスターを抑えようと雷魔法で雷撃を与えるも叫び声をあげてこちらへ突撃してくる。仕方ない…!


「ディーン君!」

「雷よ、集え──我が敵を焼きたまえ」


 師匠を呼んだと同時に師匠がモンスターに指を差して小さく、魔法を唱えた。

 すると、他人から見てもわかる高威力の素早い雷撃をモンスターに向けて放った。

 大きな体では避けることもできず、モンスターは雷撃に直撃して黒焦げになって大きな音を立てて倒れた。

 黒焦げになったモンスターからはパチパチッと音が鳴っていてその威力が窺える。

 容赦なく、そして瞬殺した師匠にカルヴァンさんは口を開いていた。私も一緒だった。

 一方の師匠はケロッとしていた。

 魔力が少ない状態でも師匠はやはり桁外れだった。




 ***




 村長から依頼達成のサインを頂き、再び辻馬車に乗ってギルドに戻る。


「あっ! シルヴィア! ディーン君も!」

「イヴリン。今日は夕方から?」


 ギルドに入ったら朝にはいなかったイヴリンがいた。


「そうだよ。依頼達成の報告?」

「うん、これ」


 依頼達成のサインをイヴリンに見せる。


「あっ、この依頼引き受けてくれたんだね。ディーン君もお疲れ様」


 ニコリッと笑うイヴリンに言われて師匠はこくりと頷くだけだった。実はシャイですか?

 チラッと掲示板に貼られている依頼書を見ていく。モンスターの討伐がそこそこある。


「討伐系が多いね」

「そうなんだよね。でも“結界師”のおかげでモンスターがまだ大人しいから結界師様には感謝しないとね」

「そうだね」


 キエフ王国に私の故郷であるクリスタ王国にも“結界師”という役職がある。

 結界師は優秀な光魔法の使い手が担っていて、光魔法の結界の力によってモンスターの力を弱体化している。

 結界師のおかげでモンスターの数が多くても騎士や冒険者の活躍で国内の安全が保たれている。

 キエフ王国の結界師はまだ三十代の男性なのでまだ代替わりは先だろう。


「そういえば、シルヴィアはクリスタ王国出身だよね?」

「うん。そうだけど、どうしたの?」


 イヴリンが突然私の出身国を聞いてくる。イヴリンには出会って最初の頃に私の出身を話していた。


「結界師の話をしてたら思い出したんだけど、クリスタ王国で新しい結界師の選定の儀があるみたいだよ」

「へぇ…そうなんだ」


 クリスタ王国の結界師は八十代を迎える女性だった。確かに、年齢を考えたらそろそろ交代すべきだ。

 選定の儀は一、二ヶ月あれば決まるはずだ。


 フランツ王子や義妹のブリジットたちは嫌いだったけど、国民は関係ない。私はもう戻らないけど、新しい結界師を決めるのなら国民も安心だろう。


「確認したよ」

「ありがとう。じゃあまたね」

「バイバイ」


 確認してくれたイヴリンに感謝を述べて、彼女に手を振って別れた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る