第4話 前世の私
私、シルヴィア・エレインには前世の記憶がある。
どうして私が前世の記憶なんか持っているのかわからないけど、これは本当で今でもはっきりと覚えている。
前世の私はとある王国の王女だった。
レラ・セーラ。大陸の東部に位置する大国セーラ王国の第六王女として、私は生まれた。
金茶髪の髪に琥珀色の瞳の容姿で母似の容姿でそこそこ整っていたと思う。
父は国王、母は平民の侍女で父王がその美しさを気に入り、できたのが私。
母親が平民だから不遇だったと思ったでしょう? でも違った。
なぜなら私は“
愛し子は必ず体のどこかに聖痕が刻まれていて、どの国も喉から手が出る存在だ。
だって、愛し子が戦争に参加したら簡単に国を滅ぼせるからだ。
膨大な魔力を保有し、高威力の魔法をいくら使用しても平気な存在。
その脅威は内側に向かえば恐ろしいが、同時に国の最強の守護者でもある。
その恐ろしさに震え、愛し子を見つけても保護しない国もあり、そんな国は愛し子と魔法で契約を結び、力を頼らない代わりに攻め入らないという公平な盟約を交わしている。
逆に保護して魔法で契約を結べばいいのでは?と思うかもしれないが、かつて不条理にそんなことをした国は見事に他の愛し子たちの怒りを買って短期間の間に魔法の嵐で滅ぼされた。
そのため、それ以降は不条理な魔法の契約をしないのが暗黙の了解になっている。
さて、三百年前、私はその愛し子としてセーラ王国の第六王女として生まれた。
愛し子は誰がどんな条件で生まれるとは証明されていない。
しかし、誕生直後に愛し子として判明した私はそれはそれは父王から大切に育てられた。
国に敵意を向かないように、守護者になるように育てられた。
……でもまぁ、私の異母兄妹たちは父王と違う。
卑しい平民の血を引く私がどうして愛し子なのか、異母兄の即位時には反乱を起こすのでは?と随分と警戒されていた。
そんなつもりは全くなく、異母兄妹たちと仲良くしたかったけど、相手は怖がり結局仲良くなれなかった。
そんな私に純粋に優しく接してくれたのは、レラ時代の私の実母にセーラ王国の筆頭魔導師長の老師だった。
私が師匠と会うきっかけを作ってくれたのも老師で、老師が師匠の師匠──大師匠様に手紙を送り、年齢のせいであまり見ることができない私の魔法の指導を頼んだことで師匠と出会った。
師匠に大師匠様も私と同じ珍しい
師匠は男性なのに美人で、基本的に他人には冷たくて無愛想で、好き嫌いが激しい人だけど意外にも私の魔法の指導をしっかりしてくれた。
魔法を覚えて成功すると短い言葉で褒めてくれた。
それが嬉しくて嬉しくて師匠の後ろにいつもついて歩いていた。
『師匠、おはようございます!』
『師匠、今日は師匠の好きなスープ作ったよ!』
『師匠、ダンス上手に踊れるようになったんだ! 見て見て!』
『師匠、ヴァイオリン弾けるようになったよ! ちゃんと聴いてね!』
『師匠っ! 師匠ー!』
師匠のことを兄のように慕っていた私。
私の懐きっぷりにうっとおしがっていたけど、突き放すことはせずそんな師匠が大好きだった。
大師匠様は私たちを見て兄妹のようだと、私を子犬のようだと笑ってくれた。師匠はうんざりとした顔をしていたけど。
老師が死に、母様が亡くなって泣いていた時も無言で側にいてくれた無愛想だけど優しい師匠。
愛し子は寿命が長いと聞く。私の魔法指導が終わると師匠はいなくなると知っていたけど、それまでは一緒だと思っていた。
私たちは師弟関係だから例え離れてしまっても、手紙を送って文通くらいはできると思っていた。
そう、思っていたのに。
十六歳のある日のことだった。
『──大師匠様の元へ用事?』
『あぁ。急ぎの用らしい。…レラ、一人で大丈夫か?』
いつもなら聞いてこない師匠の問い。
父王が病死してまだ間もない頃。異母兄が王位を継いだばかりの頃だった。
異母兄が私を疎んでいることは師匠も知っていた。だから一応、保護者の自分がいないことに心配してくれたんだろう。
でも大師匠様からの急ぎの用事だ。私が引き留めるわけにはいかない。
『…大丈夫だよ、師匠。一応全属性使えるんだから! だから行ってきてよ! ねっ?』
『……はぁ、わかった。何かあれば連絡しろ』
『はーい!』
師匠を安心させたくて、不安はあったけど笑顔で見送った。
帰ってくるまで約一ヶ月。気を付けたらいいと思った。
母様を亡くしてからは食事は師匠としていたからか、一人の食事はこんなに寂しいんだと気付いた。
師匠の存在は私の中ではすごく大きいんだと知った。
そして夕食のあとのお茶の時間。
一人部屋にいた私は猛毒に倒れた。
なぜ。いつの間に。
もしかして──侍女の中に
私を疎んでいるのは今は国内に国王になった異母兄とその母親の王太后、その親類くらいだ。
ずっと健気に仕え続けていてくれた子ばっかりだったから油断していた。
息ができない。口の神経が動かない。苦しい。
愛し子は、確かに強い存在だ。
だけど、所詮人の子。
魔力が多くて、魔法に優れていても、体は人並みだ。
体がふらつく。多分即効性の猛毒だ。
即死レベルの量を盛ったな、と他人事のように思う。
下手に生きていると私が復讐&水魔法と光魔法で毒を浄化するからって容赦ないな。
ごめんなさい、師匠。せっかく時間をかけて私に魔法をたくさん教えてくれたのに無駄にして。どうか間抜けな弟子をお許し下さい。
申し訳ないけど、どうか私のことは忘れて幸せになってください──。
そして、私、レラ・セーラは十六歳という人生で幕をおろした。
……その後、三百年ぶりに転生した私はレラ・セーラとしての記憶を持ったままクリスタ王国アーネット公爵家の長女──シルヴィア・エレイン・アーネットとして生まれた。
今世は愛し子として誕生はせず、ただ人より多い魔力を持った令嬢として生まれた。
言葉を読めるようになってからアーネット公爵邸の図書室で前世の故郷であるセーラ王国のことを調べたら、私の死後二十年後には滅んでいたから驚いた。
異母兄たちは師匠のことは恐れていたけど、同時に敬ってもいたから師匠にはかなりの厚待遇を約束すると思っていた。
だけど史実を見たら去ったと考えるのが妥当だと考える。だって師匠がいたら敗戦なんかするはずないから。
しかし、セーラ王国は大国だ。それなのに二十年で滅ぶなんて意外だなと思った。
滅んだ理由は敗戦の繰り返しによる民衆のクーデターで、国王は処刑され、現在はセーラ共和国になっていることを知った。
前世の故郷を失い、今世でも故郷を奪われた私は旅をして、住み処を探した。
そして、いつしか三年という月日が過ぎていった──。
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