第5話 三年後
キエフ王国・王都──。
王都の北東部にある冒険者ギルドには様々な冒険者が集まり賑わいを見せている。
食事を楽しむ者、依頼を頼む者、依頼達成を報告する者たちで溢れかえっている。
「はい、次の方どうぞ!」
ギルドの職員をしているイヴリン・ロミアスは笑顔で次の人に呼び掛ける。
「久しぶり、イヴリン」
イヴリンの名前を呼ぶ少女は胸まである金髪を揺らして彼女の前まで歩いてくる。
「あっ…! 久しぶり、シルヴィア!」
イヴリンの呼び掛けにシルヴィアは笑顔を浮かべた。
***
婚約破棄されてクリスタ王国から追放されて三年。
私はクリスタ王国から二つ離れたキエフ王国に流れ着き、冒険者になっていた。
前世が王女で、今世は公爵令嬢の私がどうお金を稼ぐかと色々考えた結果、冒険者になることにした。
家庭教師は身分証明書と紹介状が必要で国外追放された私には難しいと思い諦めたからだ。
それなら魔法の才能があるからこれを有意義に使えないかなと思い、冒険者登録をした。
ランクごとにホワイト・ブロンズ・シルバー・ゴールド・ブラックの五ランクにわかれていて、冒険者歴三年目の私はシルバーと比較的早く階級が上がっていて、そこそこ有名な冒険者になっている。
「シルヴィア、今日は依頼引き受け?」
「うん。何かいいのある?」
「ちょっと待ってねー」
イヴリンは冒険者になったばかりの私に色々と丁寧に教えてくれた優しくてかわいい女の子だ。
同じ年ということもあり、仲良くしていて、休日はたまに一緒に遊んでいる仲である。
「シルヴィアならここら辺がいいんじゃないかな?」
見せてくれた依頼は小規模のモンスターの討伐依頼や商人の護衛依頼、薬草採取護衛などだった。
単独で冒険者をしている私を気遣って大きな依頼ではなく、一日から数日で終わる依頼などを見せてくれるイヴリンはやっぱり優しい。
「うーん、この薬草採取の護衛はすぐ近くの森の?」
「ううん、こちらは隣町の森の方だね。数日かかるけど、少し奥に行きたいって言っているからその分報酬金は高いよ」
う~ん…お金に悩んでいるわけではないけどいい額なんだよね…。迷ってたら他の人にとられちゃうかもしれないし…よし!
「この薬草採取の護衛を引き受けるよ」
「わかった! じゃあ依頼人に伝える書類を作るから渡してね」
「うん」
少し奥に行ってイヴリンが書類作成をしてくれる。早速このあと依頼人の元に行こう。
「できたよ。これを見せてね」
「わかった」
依頼受理を伝える書類を見る。書類にはモンスターが出る可能性も伝えられていて、報酬金額も書いている。
「ありがとう」
「どう致しまして!」
にっこりと笑うイヴリンを見ていると癒される。
そしてギルドから去ろうとするとイヴリンから呼び止められた。なんだろう?
「あ、待って! シルヴィア!」
「?」
「今度の休日二人でどこかに遊びに行かない?」
なんと。遊びのお誘いだった。
久しぶりのイヴリンとの遊び。え、そんなの決まっている。
「勿論! 行こう!」
「じゃあまた連絡するね!」
手を振ってギルドをあとにした。
***
「まさかシルヴィアさんが依頼引き受けくれるなんて。安心だよ」
「パウルさん、油断は禁物ですよ」
「そうだけど、シルヴィアさんって三年目でシルバーでしょう? うちの息子も冒険者になるってはしゃいでいて大変なのよ」
「今五歳でしたか? ミランダさんも大変ですね」
依頼人である薬師の夫婦であるパウルさんとミランダさんと話しながら森を進んでいく。
以前、一回依頼を引き受けて、その時モンスターが襲ってきたけど炎で燃やし尽くしたことで私の力を買ってくれている夫婦だ。
「今回はどんな薬作るんですか?」
「今回は傷薬を作ろうと思ってね。この奥にある薬草の方が質がいいからほしかったんだ」
パウルさんが私の質問に答えてくれる。傷薬か。確かに大切な薬だ。
「ではしっかりと護衛させて頂きます!」
「ははっ、頼もしいよ」
「お願いね、シルヴィアさん」
「はい!」
二人の採取の邪魔にならないようにしながら辺りを警戒すると、大きな虫の形をしたモンスターが三体現れた。
「下がってください! 火よ、集え。炎になって我が敵を焼きたまえ!」
火の詠唱をして、炎で虫型モンスターを焼く。
「シルヴィアさん! 上にも!」
ミランダさんの声に素早く反応し木の上にいる猿型のモンスターを一体見つける。
私の方に飛んできたので火の鎖で拘束してから倒した。
「他は…大丈夫そうですね」
辺りを見渡しながら確認する。うん、大丈夫そう。
「助かったよ、シルヴィアさん」
「ありがとうございます。もう少し奥に行きますか?」
パウルさんとミランダさんに尋ねる。モンスターは現れても頻繁には現れないからだ。
「うーん…そうね……」
「…じゃあ、もう少しだけ行ってもいいかい? 薬草は腐らないから一気に採っておきたいと考えているんだ」
「お任せください。護衛はしっかりしますよ」
パウルさんとミランダさんの言葉に快諾し、その後も一緒に奥に進んでいきながら薬草採取の護衛をした。
それからも度々モンスターが襲ってきたが魔法で倒していき、はや数時間が経過した。
「ここでちょっと採取したら帰ろうと思います」
「わかりました。どうぞゆっくりで構いませんよ」
「ありがとう」
そしてそこで採取を始める。
「……あら?」
「ミランダさん?」
振り返るとミランダさんが奥の方を見つめている。
「ミランダ、どうかしたのか?」
「パウル、シルヴィアさん、あれって……」
ミランダさんが指を伸ばす方を見ると人が倒れていた。
「大変だ! 人が倒れている!」
「パウルさん!」
走っていくパウルさんを追って私とミランダさんも走る。
「ああ、子どもじゃないか…! 僕、大丈夫かい?」
パウルさんが深くフードを被っている男の子(僕と言っていることから)に声をかける。
パウルさんがフードを取ったので、私とミランダさんも顔を覗いてみるけど──その姿に息を止めてしまった。
「──えっ?」
男の子の髪は全てを染めてしまいそうな黒髪だった。そして、きれいな顔立ちの子どもだった。
年齢は十歳くらいで、一瞬、小さい師匠と錯覚するほどだった。
「シルヴィアさん、光魔法でなんとかできませんか?」
「あっ…そうですね」
パウルさんに言われて、意識を戻す。よく見ると、所々怪我をしている。治してあげよう。
「光よ、集え──我が魔力と引き換えに、この者を癒したまえ」
男の子の額に指を差して回復魔法を唱えてみる。
すると淡い白い光が男の子を覆う。
「うっ…」
「僕? 大丈夫?」
男の子に声をかける。するとゆっくりと瞼を開ける。
「──えっ?」
その瞳は
黒髪に、珍しい青紫の瞳──師匠の色だ。
顔も師匠そっくりで、こんな偶然がある? 師匠の子ども? ならどうしてこんな森の奥で一人倒れているの?
「っ…」
男の子は僅かに目を開けたものの、閉じて意識を失う。
「と、とりあえず、医者に見せよう」
「そ、そうね」
「シルヴィアさん、戻りましょう。…シルヴィアさん?」
「! は、はい。そうしましょう。心配ですから」
「はい」
パウルさんの声に呼び戻されて歩こうとするとニャッ、と鳴き声がした。
「猫…?」
鳴き声の方を見ると首に鈴を付けた白猫がニャッ、と鳴いた。この男の子の猫…?
「お前もおいで」
手を伸ばすと顔をうずめてくるのでゆっくりと抱っこする。白い毛に大きな青色の瞳をした猫だ。
パウルさんが男の子を背負うので、パウルさんが採集していた薬草を私とミランダさんで持って戻った。
…どうして。師匠にそっくりの子どもがここにいるの…?
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