ボクっ娘アニス
◆ボクっ娘アニス
武具を見にきたのはたしかだ。高級品に手を出すつもりはなかったけど、とりあえず相場を調べるために、アトリエ・ハッピークラフトで品物を物色することにした。
剣や槍といったオーソドックスな武具以外にも、見たことのない形状の武器も多くあった。博物館にでも来ているようでわくわくした。
「ウチの店はドワーフの腕利き4人、あと経営者と、それからボクの6人でやってるにゃ」
「ここには君しかいないようだけど。工房の方にいるのかな?」
カウンターの奥は工房のようだった。
「んー、だいたい親方たちは不在にゃ。ボクが一人で店番してオーダーをとったり客引きしたりするにゃ!」
「店を空にしてたんだ……」
「い、いやにゃ? ここの武具は壁や棚に固定されてるし、万が一盗まれても高度な追跡魔法もかかってるにゃ……だから平気にゃ」
アニスの狼狽ぶりから察するに、店を空けるなと言われているんだろう。
「あそこまで強引に客引きするような店でもないんじゃないの?」
「そうですよ。こんな高級店、冷やかしでも入れません。ノルマがあるんですか?」
「ノルマなんてないにゃ。ここは口コミだけでも十分儲かってるしにゃ……」
「じゃあどうして?」
アニスはしょんぼりと耳も肩もしっぽも落として答えた。
「ボクが、立派な鍛治士になりたいんだ。みんなを見返したいんだ!」
あれ……「にゃ」はどこいったにゃ?
「ボクは故郷でも弱くて、何もできなくて、それでここの親方たちに拾われたんだ。助けられたからには働けと、でっち奉公の形で住まわせてもらってるんだ。でも鍛治の才能もぜんぜんで、腕を上げるためにたくさん鉄を打ちたいけど、お代をもらわないで武具を作っても材料を無駄にしてるだけだと大目玉食らうんだ。だから、お代をもらって、たくさん練習したくて……」
喋りながら尻すぼみになっていく声。ついには涙までこぼれた。
フェニが軽く手を上げる。
「質問です。あなたニャンニャン言わなくても喋れるんですか?」
「ハイ、キャラ作りなんです。ちょっとでもお客さんの印象に残ってほしくて……にゃ」
思わず抱き上げて撫でたくなった。さっきまでの大きな態度の後にこんなショボンとされて、強い庇護欲に駆られる。辛くても、頑張ってるんだな。
武器も打って欲しくなる。
「見返したい……だってさ、フェニ」
僕はフェニに目をやった。フェニも表情を軟化させていた。
「ロロル君、そんなに見つめられると、照れます」
(この子に武器を作ってもらおうよ、なんて言われたらヤバい。不遇の猫娘を助ける優しさに触れたらキュン死にしちゃう、やめて、死んじゃう)
言いたいことも言えないこんな世の中。
なんて言おうかと、結果見つめ続ける形に。なんて言おう、どうしよう。
「くぅっ!」
あっ! 時間切れでキュン死にさせてしまった!
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