打つべし、猫パンチ!



◆打つべし、猫パンチ!



 強いスキルは既にある。だからアニスに武器を作ってもらうのは、駅前のギター弾きを応援するようなそんな気持ちだった。


「じゃあアニスちゃんに武器を注文しようかな」


 そう言うと彼女は飛び跳ねて喜んだ。


「まいどあり! ありがとうございますにゃ! と、ところでお連れさんは大丈夫ですかにゃ?」


 僕は死んでる最中のフェニを抱きしめたまま答える。


「日常茶飯事だから気にしないで」


 死んでるとはまさか言えないけど。


「ところでロロ兄?」

「なに?」ロロ兄という呼び方にいくらか照れる。

「どんな武具をご所望ですかにゃん?」

「あははっ、アニスちゃん。もう僕らに『にゃん』は必要ないよ。そんなの付けなくたって、もう僕は君のこと忘れないから」

「にゃッ!?」


 毛並みに負けないくらい赤く頬を染めるアニス。

 フェニから生気を感じた。


「はっ! ロロル君の口説き文句がきこえた気が」

「く、口説き文句にゃ?! ロロ兄はタラシなのかにゃ!?」


 蘇生したフェニと、ほっぺをふくらませるアニス。


「ふんっ、にゃ! はやく要望を言うにゃ! 鉄は熱いウチにってやつにゃ! ボクのこの情熱を冷まさないうちにはやく言うにゃ!」

「要望かぁ」

「ちなみににゃ、武器の形状は指定できないからご了承くださいにゃ。武器種以外の条件からボクがインスピレーションで芸術品を仕上げるにゃ! それ即ちクラフトにゃ!」


 クラフトの単語にどきっとするフェニと僕。


「うーん」復讐に使用する武器だから。「じゃあ、痛みを与えるの重視で」

「こっっわ」


 にゃんも忘れて素で恐怖するアニス。たしかに怖い要望ではある。


「私は、扱い易い物でお願いします」フェニがぽつりと言う。


「うけたまわったにゃ!」


 アニスは真剣な眼差しで僕とフェニの周りをウロウロした。軽い足取りだ。リズム感もあって、もはや踊っているようだった。


「ロロ兄はもしかして、闇属性のマナの感受性が高いにゃ?」

「闇属性のマナ?」

「はいにゃ。闇色の綺麗な黒髪ですにゃ」

「分からない……です」


 日本人由来の黒髪だろう。


「マナ適性のテストは未経験かにゃ? ふうむ、うんうん、にゃんにゃん……。そしてフェニ姉は、はいはいはい、にゃんにゃん……」


「どうですか?」

(私、インスピレーションとか宣う芸術家気取りちょっと苦手なんですよね)


「そうなの?!」

 思わず僕が声に出してつっこんでしまった。


「いえ……」


 でもフェニからはなんとなくだけど、照れ……のようなマナを感じた。照れ隠しだったと信じよう。僕の勘に過ぎないけど、アニスは良い感性を持っている気がする。


「マナの感受性がどの属性に高いかで素材が変わるにゃ。同じ素材でも、どんなマナを多く吸ってるか、なども関わるにゃ。クライアントのマナ適性を見定めるのは武具作りにおいて重要なプロセスにゃ!」


 マナの適性で素材が変わるのか。だから陳列された武器の刀身の色が様々なんだな。


「よしっ、決まったにゃ! さっそくとりかかるにゃ!」

「出来上がるのにどれぐらいかかるかな?」

「心配ご無用にゃ! ボクの品は『安い早い巧い!』が評判にゃ!」


 高級武具屋が、チェーンの牛丼屋に思えた。

 途端に不安の波が押し寄せる。

 見学させてもらうことにした。


 工房内には大釜があった。アニスがスイッチをいじると、一瞬で炎が燃え上がる。ガスコンロだって一瞬だけど、やっぱり魔法は良い。すごいなぁ。


 アニスは腰の両側に下げていたグローブをはめる。猫の手のグローブだ。


「これから忙しくなるにゃ」


 猫の手も借りたいってか。はははっ、やばい、なぜかボクサー然としたフットワークのアニスに不安がおさまらないや。


「いくにゃ…………必殺————」


 必殺技を鉄や鉱石に使うのは間違っている。

 アニスが十分に熱せられた素材を火から出し、宙に放り投げた。


「【鍛治踊りダンシングスミス】!! にゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃ!!」


 アニスが素材に連続猫パンチを浴びせる。どうやら標的は3つあって、火に出したり入れたりしながら、パンチの嵐。リズミカルな破裂音、衝突音、トン、チン、カン! それは音楽のようで、アニスはさながら踊り子だった。


「なんか私、ソシャゲのガチャのミニムービーを見てるみたいです」

「チュートリアルガチャ引き直し無限キャンペーンだといいね」


 音が止んだ。

 息の上がったアニスが、そばにあった鉄槌を二、三度打ち鳴らす。


「K.O.だにゃ」


 ゴングじゃなくて鉄を打て。

 完成品の刃物が3つ、台に置かれた。


「お待ちどおさまにゃ! ささっ、手にとってご覧あれにゃ!」

「無理ですよ。こんな熱いの持てません」

「それもそうだにゃ!」


 フェニの言葉にアニスは頷いてグローブをはめた手で完成品を持って頭上へ掲げた。その際、偽胸に腕が当たった。ぽーんっ。サロペットから2つのゴム毬が飛び出す。そのせいで服の肩紐がズレて落ちる。結果、嘘偽りのないアニスの上半身が露わになった。


「いやーーーーーん!」


 最初に外で聞いたのは演技。こっちが本物の悲鳴。

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