復讐! 今和野飛ばし
◆復讐! 今和野飛ばし
「どう? ゲームをするのは」
僕はもう一度提案するが、何も返事がないのでそのまま続ける。
「今和野飛ばし、よくやってたよね」
「イマワノとばし……? あっ! お前、今和野一!」
3人ともようやく僕が誰なのが分かったようだ。
「やっと思い出したか。そう、僕に飛び蹴りして、僕がぶっ飛んだ距離を競うあのゲームだよ。ほら、僕はここに立つから。僕を一番蹴り飛ばせなかった選手だけ呪い殺すよ。まずは誰からだ?」
僕は両手を広げて挑発する。
「お……、オレがやる」
「岸野クン! トップキッカーありがとう。さぁ」
「おっ…………りゃあ!」
彼は軽く助走をつけて、僕にドロップキックをかました。
ぶっ飛ぶ体。痛みはもちろんある。でもゲームだと思うとそれも一興。
「さすがだね。脚自慢だけある。20メートルってところかな?」
僕は立ち上がり、記録のために地面に槍で線を引く。
あれ? そういえば、『刃物を使ったら手が溶ける呪い』があったはずだけど、僕の手は無事だった。
なるほど、死んだら一旦呪いも解けるのか。でも賢木さんの【不終の痛み】の効果は消えていない。死なせない呪いだから、死んだとこで【不終の痛み】は解けないのか。
気持ちが高まって呪いの効力もろくにたしかめず腕を溶かしてしまったけど、治ってよかった。危うく復讐が始まったそばから終わるとこだった。
「続けよう。次に蹴るのは?」
「俺だ!」
「オッケー、樫木クン。さぁ」
「地の果てまで飛ばしてやるよ……」
彼は僕の横に立った。回し蹴りで飛ばすようだ。
「いくぜ……、グッ! 痛ぇぇ! 何しやがる国島!」
蹴りの瞬間、国島が樫木の脚を刃物で斬った。
そのせいで蹴りは最弱。僕はよろけて数歩あとずさっただった。
「国島クン、よくもう一本の手も使ったね」
彼には『刃物を使ったら手が溶ける呪い』がかかっているはずだった。でも彼の手は溶けない。僕が一度死んだから相手の呪いも解けた。そんなこと知らないはずなのに、国島、すごい覚悟じゃないか。
「国島殺す、殺す殺す……」
「お前は黙って見てろ、ハハ!」
「おい奴隷! ルール違反だろうが!」
「立場をわきまえろ」
僕は口答えしてきた樫木の脚を槍で浅く刺した。悲鳴。
国島はかなり遠くまで離れた。助走のつもりなのか、はたまた……。
「実はね、彼には『逃げたら脚がもげる呪い』もかけているんだよ」
僕が呟くと、岸野と樫木はニヤリと笑った。やっぱり2人も、そう思ってるのか。
「まぁ、そしたら樫木クンがビリで死ぬことになるけどね」
樫木の顔が凍りついた。
「や、やつが不戦敗には……?」
「それとは別だね」
念のため2人にも『逃げたら脚がもげる呪い』をかけておいた。
なんだろう……? スキルを使うのにも体力を使うようで、疲れが押し寄せてくる。
案の定、国島は逃げた。
踵を返したその瞬間、脚がもげた。もがいているのが遠くに見える。
僕は耐えがたい疲労に膝をついた。
「あれれ、なんだろう……」
そんな僕を岸野と樫木はなんとも言えない顔で見下ろしていた。考えが手に取るように分かる。
殺せるだろうか?
しかしまた生き返るのか?
逃げようか?
しかし俺たちにも呪いがかけられていたら?
なんてとこだろう。
「じゃあ負けは樫木クンだね。死のペナルティだ」
「やめてください……!」
終わりだよ。
【怨呪】
闇が樫木にまとわりついた。
そして、死んだ。
あっけなく。
僕も、死ぬ。
目が覚める。倒れた状態から岸野を見上げた。
「こんな状態で言うのも威厳がないけど、おめでとう岸野クン」
岸野は動かなかった。自分がどうすればいいのか分からないのだろう。
僕の方はと言うと、視界が霞み意識が遠くなってきていた。スキルを使いすぎた反動なのか?
不死身になったけど、僕一個人の体力や精神力が上がったわけじゃないのか。非日常の連続、殺し合いによるストレスが僕を苛んでいるんだ。いや単純に、MP切れなんてこともあり得るかもしれない。
ちょっと動けないな……どうしたものか?
「そうだオレ……帰るよ、逃げるんじゃなくて、今日はもう帰るから……」
言い訳めいたセリフを吐いて、岸野は錆びたロボットのモーションで動き出した。
逃げる……ではない。帰る……か。
言葉遊びめいたやりとりも重要になるらしい。岸野は僕に背を向けて歩き出したが、脚はもげなかった。
「いいえ、あなたは逃げてるんですよ? 岸野さん」
賢木さんの声だった。
樫木のサーベルを手に立っていた。微笑みを湛えた表情で、言葉をつむぐ。
「あなたはね、今和野君から逃げてるんです」
「違う、オレは家に帰ってるんだ!」
「いいえ、逃げてるんです。彼から、そして————」
賢木さんはサーベルを振るった。
ボトボト、と、僕の目の前に岸野の指が数本降ってきた。
「私からも逃げる。そうですね?」
「違う! オレはぁ!」
岸野が言い切る前に、彼の脚はもげた。
「ほら」
賢木さんが顔をほころばせた。そしてサーベルをもう一度振り下ろした。
耳鳴りがする。
気付くと彼女の笑顔がすぐそこにあった。
「殺されたって付き従います。死が、2人を別つまで」
死なないくせに。
ジョークのつもりなのかな?
僕は笑って応えた。
疲れ切って、瞼が落ちる。
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