不終の痛み
◆
理屈は分からない。
僕の闇の中にぬくもりが広がった。
やわらかい。
うるおっていて、そしてやさしい。
死、って、こんなに気持ち良いものだったんだな。
こんななら、さっさと死ねばよかった。
だけどその安らぎはかき乱された。
「うわーーーーん! カズ君が死んじゃったー! そして私はやっぱり死ねなかったー! いっしょに死にたかった! いや死んだけどいっしょに荼毘にふされて埋葬されて転生して一卵性双生児とかになって母胎で抱き合っていっしょに産まれていっしょにまた死にたかったー!」
目が、開いた。
なんで生きてるんだ?
なんで僕は賢木さんに抱きしめられながら、涙を顔中に滴下されながら、たわわな胸のやわらかさに溺れているんだろう?
謎だ。一つ分かることは、このままだと彼女の涙とやわらかな胸で再度、死ぬっていう。
「あの、賢木さん……」
「はい! 生まれ変わっても君と出逢いたい、賢木藤美です! 2年C組19番、カズ君大好き17歳! 君にうっとり、ちょっとうっかり。スリーサイズは上から————」
「いやいやいや、そんなアイドルみたいな自己紹介はいいです!」
あ、スリーサイズきいてから止めればよかったかも。
「えっ、カズ君? なんで蘇生してるの……?」
「僕も分からない……」なんで君がそんなにキャラ変してるのかも。
「傷もぜんぶ治ってる……。嬉しいけど、どうして」
スキル【怨呪】は発動したはずだ。それは解る。感覚で。だけど発動したなら、賢木さんが死んだのなら、呪いは返ってくるはずだ。僕は死んだ。
でも、だけど、けれども僕は生き返った。
「賢木さんのスキルって」
「
終わらない罰、痛み…………。
彼女の能力は「回復」や「再生」等のプラスなものでなく、あくまで「痛み」なのだとしたら? 死ねずに苦しみ続ける、痛み。だから彼女は僕の呪いを受けても、「死という永続的な終わり」にたどり着けなかった。今も「生」の苦しみを味わい続けているということ。同じ報いを受けるはずの呪いのブーメラン。ただの「死の呪い」に「死ねずに苦しみ続ける」という効果が付与されてしまったのか? 死ぬだけだったら、呪いをかけられた賢木さんとイーブンにならない。不公平だからって。
僕は自分の仮説を話してみた。
「なるほど、ありえるかも知れません。体は痛みますか?」
「全く」どこも痛くない。
賢木さんは正気を取り戻したのか、真面目な思案顔になった。
でも何故か全身から僕へと発せられる好意がまざまざと、目に見えるようだった。
「今和野君は私と同じ不死身になったということですね」
不死身。
終わらない苦痛と捉えると、気分が沈みかけるけど、僕はある考えに至った。すると体の芯から喜びが噴き出してくる。思わず賢木さんの手をとっていた。
「ありがとう賢木さん!」
「ふぇっ?!」
顔を真っ赤にする賢木さんに僕は告げた。
「じゃあさ、僕は無限にあいつらを呪える力を手に入れたってことになるよね!」
「はわわわ……」
「これであいつらみんなに復讐できるよ!」
「今和野君、手を離してください」
「あっ」
いくらテンションが上がったからって、女の子の手を握っちゃうなんて。
僕は慌てて手を離した。
「ご、ごめんね!」
「いえ……あの、はい。いえ、今和野君から手を握ってもらえるなんて、
賢木さんはうろたえにうろたえまくっていた。
「そんな、嬉死ぬって……」
突飛な展開に忘れていたけど、そうだ、さっき賢木さんはありえないことに、この僕を好きだと言ったんだ。
こんな僕を、まさか…………ね。
「でも本当に感謝してるよ。賢木さんを傷つけたやつらも僕がみんな呪うよ! もう奴隷なんてしなくていいんだ! 僕が外へ連れ出すから!」
「やめてください……ホントに嬉死ぬ……」
賢木さんがふらりと後ろへ倒れかけた。慌てて抱き止める。息のふれあう至近距離で視線がぶつかった。
その瞬間、
「くぅっ!」
賢木さんが脱力した。
「え……? 賢木さん?」
名前を呼びかける。ゆすっても反応がない。
うそじゃん。
「………………死んだ?」
僕は賢木さんを、嬉死にさせてしまった。
どうやら彼女は僕のことが本当に好き…………らしい。
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