同窓会への招待状



◆同窓会への招待状



 僕はそれから、左手の指と左眼を失い、右太ももにも深い咬み傷を負った。


 通りすがりの行商のキャラバン、その護衛に助けられなければ間違いなく命を落としていただろう。

 死にかけで、荷物を何も持っていなかった僕を、彼らは同情すると共に、面倒事が舞い込んだと困惑もしていた。


 荷馬車の中で言われた。


「荷物に紛れて、王都には入れる。今日は祭りがあるから門番も忙しくてチェックがザツになる。なんせ王都はいろんな国に囲まれてる。だがな、入った後のことは自分で何とかしてくれ」


 なんでも、重傷人を連れて王都の門に行ったとなると、取り調べやら何やらで時間を食うし、最悪自分たちが疑われるかもしれない……ということだった。


 傷の痛みに耐えているうち、一行はいつのまにか王都の中に入ったらしい。


 路地裏で荷馬車が止まった。


「ここまでだ。病院は表通りを行けばすぐ。王都には【治療】のスキルを持ったクラフトもいるしな。ところで君は一体なんだってあんなところに?」

「僕も、クラフトなんです」


 素性を聞かれたので正直に答えた。すると彼らは憐れみの目を向けてきた。

 ああコイツは頭がイカれてるんだな……そんな冷たい眼差しだった。


「去年現れたクラフトの内の1人だって言うのかい? 名前は?」


 キャラバンのリーダーであろう老人が、僕に聞いた。僕は未だおさまらない傷の痛みに耐えながら、ハッキリと告げた。


「今和野一です」

「そうかそうかイマワノカズ君。じゃあスキルを見せてくれ。肉体の鍛錬の成果や、魔法でもない、クラフトだけに与えられた特別な力、スキルをね」

「スキルは……」


 【怨呪】


 まさか誰かを呪い殺して、で自分も死ぬわけにもいかない。


「できないんだろ? いいか? クラフトは最高の信仰対象である女神様に通ずるものだ。君がそんな嘘ばかりついてると、下手したら不信心だなんだと敬虔な信者の怒りを買うことになるかもしれない。いたずらにクラフトだなんて言わないことだな」


 この……ハズレスキルが!

 僕は自分のスキルを呪った。ああ、呪いは返ってくるんだっけか。ハズレは僕か。


「……ここまでありがとうございました」


 礼を述べ、立ち去ろうとする。が、ふと制服のポケットに入れていた生徒手帳を思い出した。積荷を見る限り、この世界では言語は日本語でも文字は見たことのないものだった。だから現世の言葉が書かれた手帳を見せれば、信じてもらえるのではと思った。


 結局、その考えもハズレだった。

 僕が手帳を出すと、彼らは目の色を変えた。


「そうか。なるほどね……」


 リーダーが仲間に無言で頷く。すると僕は若い男たちに容易く手帳を奪われ、再び荷馬車の中へと押し込まれた。


「まさか本当だとは思いもよらなかった。これは去年のクラフトたちの証明書だ。偽物は出回ったが、所詮は偽物。しかしこれはどうやら…………」


 彼は手帳をめくり、隅々まで目を通す。

 返してくれとも、僕は言えなかった。


「これは言わば今夜のクラフトたちの集会の招待状ってわけだ。高く売れるだろうし、いや集会は王城でやるから、君を利用して忍び込めればもっと良いことがあるかもしれないな」


 ワイバーンが出たのに、その後にも死にかけたのに、僕は全く学んでいなかった。

 ここは僕がいた日本とは違う。はるかに危険なところなんだ。


「安心してくれ。クラフトの情報も欲しいし、しばらくは生かしてやる。おれたちも生活が楽じゃないんだ。怨むなよ?」


 今すぐ呪ってやりたい。

 ほんの数時間前まで、異世界でスローライフを送れると夢想した自分がバカみたいだ。

 頭の中がぐちゃぐちゃに渦を巻き、この世あの世の全てを呪った。


「縛っとけ」


 目隠し、猿ぐつわをされ、そして荒縄で縛られた。

 自由を奪われても僕は呪うことをやめなかった。

 もうそれしかできない。


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