第23話人に仇なす者の王

 オークやゴブリンなどの繁殖力の高い魔物は、時に人との間にも子をなす事は有名であるが、産まれてくる子のほぼ100%が魔物として産まれてくる。

 しかしここに突然変異で産まれた、1人のハーフゴブリンが居た。

 人に近い姿と知能を持ち、魔物の身体能力と魔力を有する、云わばハイブリッドゴブリンであった。

 そのハーフゴブリンは成長するとあっという間に、ゴブリンの群れを統べ王となった。

 ゴブリンの王は人との共存を望み、人への和平案を打ち出した。

 だがその願いは打ち砕かれた。

 人とゴブリンのハーフであろうと魔物は魔物と、和平交渉はあっさり拒絶され、こともあろうかその場で殺されそうになったので、ゴブリンの王は身を守る為に人を殺した。

 人を殺めたゴブリンの王には討伐隊が差し向けられ、抗戦はしたものの群れは壊滅、王も這う這うの体で逃げ出すのがやっとであった。

 半分は人であるのに、もう半分が魔物であることがそんなにも許せないのか。

 人と変わらぬ知能を持つが故に、人に愛着を持つが故に、王は魔物よりもさらに強く人を憎むようになった。


「誰か力を貸せ、魔物でも……悪魔でも構わん!」


 その言葉によって悪魔が現れ、王に取り憑いた。

 悪魔は人の魂を奪う為であったり、人を堕落させる為に人に力を貸す。

 人に人と認められなかったハーフゴブリンは、皮肉な事に悪魔には人と認められたのであった。


「我はこれから人に仇なす者となろう、人に仇なす者の王となろう!」


 ゴブリンの王は人に仇なす者の王となり、力を蓄え、その存在意義を示す為にヴォルフガング王都へ攻め込んだ。


 ☆☆☆


 ファーストこと不破明日斗は駆けていた、強い魔力の元へ。

 飛翔魔法は使えないので、身体強化の魔法で、邪悪な気配の魔力の元へ駆けていた。

 大切な人たちを危機にさらした諸悪の根源を打ち倒すために。


 ファーストが近付くにつれ彼の超人的な視力が、敵の輪郭を捉え出す。

 最初は人かと思った、だが輪郭こそ人型ではあるが爬虫類を思わせる硬そうな皮膚、歪に生えた牙、頭部には角、魔物である。

 それだけではない、遠い場所からも感じ取れていた、強大な魔力。

 ファーストは確信したこれは悪魔の持つ魔力であると。

 お互いの射程距離に入ろうかという辺りで、ファーストは足を止めダメ元で話し掛けてみた。


「貴方は何者ですか?何故僕たちの都を襲ったのでしょう?」


 魔物が答える。


「我は人に仇なす事こそが存在意義。故に人に仇なす者の王。人の子よソナタは悪魔の力を宿しているようだが、人に与するものであるならば我の敵。これ以上の問答は無用、人の身である事を、我と対峙した事を後悔しながら死に逝くがよい。」


 ファーストが応じる。


「お互いに存在している事だけで相容れない、という訳ですね。初めからそのつもりではありましたが、僕は人に仇なす者の存在を否定する!」


 ファーストが呪文を唱える。


『ヴォルフガングブリッジフォーリンダウン!』


 重力波が敵を襲った……はずだが王は何事も無かったかのような素振りである。


 ファーストが続けざまに詠唱する。


『かのコマドリを殺害したのは我にあるぞ!』


 無数の魔力の矢が王に向かって放たれるが、王の体に届く前に全て弾かれる。

 次の瞬間嫌な予感がしてファーストが体を移動する。

 ファーストの元居た場所に、紫色の液体のようなものが現れ、そのまま垂れ落ち地面を溶かす。


「あの〜もしかして無詠唱で魔法を使えたりするのでしょうか?」


 勘だけを頼りに王の魔法を避けながら、ファーストは考える。


「単純に魔力の強さでメフィストが負けているとは思いませんが、詠唱速度の差を何とかしないとヤバいかもですね。少し魔法を使えるようになったからといって、調子に乗っていた僕、もしかして大ピーンチ?」

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