第2話一人の時間
人形にまかれた種は種のままだった。芽を出すことも枯れることもなく、ただ人形の中で眠っていた。
人形も中の種も、変わることをしなかった。
少女と人形の時間は長くは続かない。芽を出した命はいつかは枯れ果てる。
少女は人形の隣で老いて亡くなった。
残された家族は涙を流して別れを惜しんだ。それを人形は瞳に写していた。
やがて、人形は持ち主を失い売りに出されることとなった。
ガラスケースの中から人形は世界を見続けた。通り過ぎる人たち、移ろい行く季節の景色、興味深く自分を見つめる二つの瞳。
彼女は硝子の瞳で見続けた。
一人になってしまった彼女は、時折少女の笑顔を瞳に浮かび上がらせた。
少女が話した恋を写しながら、彼女は通り過ぎるだけの少年を見た。彼女は恋をしなかった。
恋を熱く語った少女を思い出し、彼女の硝子は水を帯びた。
彼女の中には心という種がまかれていた。たくさんの少女との思い出が、一緒にいることのできた時間が彼女の中にはまかれていた。
その種からは何が生まれるのだろう。
人形は笑っていた。
いつしか彼女の髪は伸び、美しかった金髪もくすんでいった。皮膚には皺が目立つようになった。
彼女は少女の人形の姿から、老婆の人形の姿へ変わってしまったのだ。ただ、硝子の瞳だけは変わらずきらめき続けていた。
ある朝、彼女は世界から姿を消した。
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