硝子色の瞳

犬屋小烏本部

第1話二人の時間

小さな少女が人形を抱えていた。綺麗な金髪のフランス人形だった。




少女は毎日人形と過ごし、人形と一緒に笑っていた。まるで姉妹のようにも感じる独特の雰囲気が二人の間にはあった。しかし、片方は人形だった。

少女は成長した。短かった髪と身長は伸び、大人の女性へと時間が変えた。彼女の腕の中には変わらないフランス人形が笑っていた。


嬉しいことも悲しかったことも、少女は全部人形へ語った。嬉しかった時も悲しい時も、人形は少女の隣に在り続けた。

夢を語った。こうなりたい、こうしたい。明日はこうなるのかな。

「ねえ、そうでしょ?」

少女はいつも人形にそう声をかけていた。


少女は恋をした。少年に、青年に恋をした。

夢を語る時よりも熱く蕩けた瞳で、少女は人形に恋を語った。告白することのできない弱気な少女。それでもいいんだよとただ恋話を受け止める人形。

少女の熱は次第に人形を変えていった。夢と恋の話は人形の中に小さな種をまいていった。それは誰にも気付かれない小さな小さな欠片だった。


少女は恋をした。そして、何度も失恋した。叶わなかった恋は少女に涙を流させた。

「まただめだった。でもいいんだ。きっとまた、素敵な出会いがある。

ねえ、そうでしょ?」

少女は恋だった話を人形にした。少女の瞳から流れた涙は、人形の頬を伝っていった。

二人は抱き締め合って涙を流した。




少女は大人になった。人形は人形のままだった。それでも二人は一緒にいた。

何度目かの少女の恋は叶い、花嫁となって実を成した。花嫁は椅子に座らせた人形に花束を添えた。

「今度はあなたの番よ。

ねえ、そうでしょ?」

少女は人形に笑って言った。人形は何も言わなかった。何も言わずに少女へ笑いかけた。




少女は大人になって、母親となった。幸せな家族に恵まれて、老いていった。

それを人形はじっと見つめていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る