第21話 神罰計画
「わっちらは……人間たちに使われることを至上の喜びとし、壊れるまで生涯を尽くす運命にあった。人間が新たな道具を発明する度に新たなる神が生まれる。そして神々は天界より、同胞たる道具たちが生涯を全うできるよう願っていた。しかし……八百万家のように道具を最後の最後まで大切にする人間たちも居る一方で……今のこの世界……わっちら道具に対する敬意が欠け過ぎている」
突然真面目な顔をして語り始めたコン。突然のことでどう反応していいか分からない一同だったが、とりあえずコンの言葉は遮らずに、全員が聞くことにして黙った。
そして、コンが指を鳴らすと、コンの瞳が光、リビングの壁に何かの画像が映し出された。
「これは何だか分かるか?」
そう問うコンによって映し出された画像。
それは、見渡す限り埋め尽くされたゴミの山。そしてそれをさらに追加していく大型トラック。山に重ねていくショベルカー。
「……産業廃棄物処理場……かしら?」
弥美がそう答えると、コンは頷いた。
「そうだ。愛全グループの世界各所にある工場。そのうちの一つの近辺にある処理場だ。毎年何百何千何万何億トン以上もの産廃が排出され、さらに一般家庭ゴミも含めたら……毎日毎秒死んでいくわっちらの同胞の数がどれだけか想像できるか?」
「………………………」
「わっちら道具は所詮使い捨て。それは理解している。だが……文明の進化と人口の増加……最近、わっちらに対する人間たちの扱いは最早神々とて看過できぬ状況。ゆえにわっちは考えた。もっと人間は、わっちらへのありがたみを思い直すべきだと」
コンの言葉からは、悲しみや怒りが滲み出ていた。そして同時にどこか憎しみのようなものが溢れ、何かを企んでいるのが見て取れる。
「待て、コンと言ったな! 先ほどから何を言っているのだ? 人間の我々に対する扱いは古来より仕方なき事。しかし、そうでない人間……八百万家のような方々も居る。ゆえに我々はそんな彼らに感謝の意を伝えるため、人間界に降り、そして運よく出会うことが出来たならば生涯を魂の果てまで捧げる。そのために生きるのではないのか?」
そのとき、コンの様子に自分たちの存在意義に対するズレを感じたのか、ブラシィが我慢できずにコンに問う。
だが、ブラシィの問いに対してコンは……
「そんなわけないであろう、この阿呆が」
「ッッ!!??」
「八百万家云々はただの口実。我ら天界の最高神を言い包めるのに使っただけ。わっちらが人間界に降りたつには、そういうロマンティックな設定にした方が、普段仕事をしないでグータラしている最高神も説得しやすいと思ったら案の定」
そのあまりにも予想外な真実に、ブラシィたちは言葉を失い立ち尽くしてしまった。
それは、神人たちも同じだった。
「神のランクは人間の世界の文明発展度に対する貢献度が高いほど高い。ウヌらのようにランクの低い神には知らされず、全てはわっちを含めたランクの高い神たちの間で計画したこと」
「そ、そんな……ら、ランクの高い神……だと!?」
「そう……『コンピュータ』……『テレビ』……『ラジオ』……『電話』……『飛行機』……『車』……『船』……『電気』……『半導体』……『原子力』……『爆弾』……『銃』……まぁ、他にもいろいろと居るが、そんな神たちなのだ」
上げられたものは、そのどれもが一つでも欠けていたら人間の文明の発達は無かったと言えるものばかり。
そして同時に脅威にもなりうるものもある。
「わっちと、そして今言った神々が協力し合えば……それらの運転や生産を全てをストップすることが出来る。そして同時に……『自由に使う』こともできる」
コンは人間たちの現代社会において不可欠なものに対してそう告げた。
もし、コンピュータが世界中で使えなくなったら? 飛行機や車などが使えなくなり、生産もできなくなったら?
もし、爆弾や銃などを……
「ちょ、ま、待ちたまえ、コン……さん。あまりにも壮大過ぎて私も着いていけないが……あ、あなたはテロでも起こす気ではないだろうな?」
汗をダラダラ流した父が震えるように尋ねると、コンは三日月のように吊り上がった邪悪な笑みを浮かべる。
「そ……そんな……」
「ふはははは、安心するがよい。八百万家だけは変わらず快適な生活を送れるようにしてやる。他の神々を覚醒させるには、八百万家の協力は必要不可欠だしな。まぁ、世界は荒れるが……問題あるまい」
問題ないわけがない。神が人間の社会を壊そうとしているのだ。
それがいったいどんな世界になるかなど想像もできないが、それがとてつもないことだというのは誰にだって分かった。
「……そんなこと……させ―――」
「おっと、動かない方がいいのだ、愛全の娘」
コンを今すぐにでも取り押さえようと弥美が一歩前へ踏み出そうとした瞬間、コンは手で制した。
「この計画全てのミソは、何があろうとわっちをこうして自由にできるように覚醒することが絶対条件だった。何故なら、他の神々と仮に再会できなくとも、わっちさえ居ればたいていのことが出来るからなのだ」
「なっ……ん……」
「例えば、わっちが今この左手の指をパチンと鳴らせば、全世界の愛全グループの工場を管理しているコンピュータが誤作動を起こして全ての生産をストップする」
「ッ!!??」
「なんなら、この右手を鳴らせば……全世界の核を発射させることもな」
コンの脅し。それは人の命云々どころか、この世界そのものをも人質に取った脅しであった。
そして、コンの脅しに屈しようが屈さなかろうがどちらにせよ……
「しかし、人間どころか世界そのものが滅びれば、わっちら神も死んでしまう。わっちらが求めるのは、人間の考え方の改善であって、滅亡ではない。全ての産業を一時ストップさせ、不便な原始時代に戻った時、人は初めて道具の大切さを思い出す。それが、わっちらの計画」
コンがこうして自由の身となった以上、世界の命運はコンの手に握られてしまったのだった。
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