第20話 パソコンの神
パソコンの神・コン。そう名乗った神は、まだ食事時だというのに構わず、テーブルの上に乗っていたディッシュと料理をどかして、ドカッとテーブルの上で胡坐をかいた。
短いスカートの下から白い紐上の下着が見えて、父と神人が思わず目を見開いてしまうが、母と弥美が同時に咳ばらいをして二人は姿勢を正した。
そして改めて、現れた新たなる神に尋ねる。
「えっと、コン……だったよね?」
すると、コンはニタリと笑みを浮かべて神人を見下す。
「おい、ベイビー様よ。いかに八百万の次代当主とはいえ、わっちに呼び捨てはどうかと思うぞ?」
「えっ……あの……」
「わっちにあまり不快な態度を取るでないぞ? もしわっちを怒らせたら、ウヌの個人情報もウヌのパソコン内のデータフォルダの中身も全て世の中に拡散するぞ?」
「んなっ!? えっ、ええええっ!?」
他の神たちと違い、まるで八百万家を敬う様子がまるでない慇懃無礼の様子。どこかこれまでの神たちと違う様子に、神人たちも戸惑うしかなかった。
「それで……コン……さん?」
「なんだ? ご当主よ」
「あ~……さっきの話で、今日届いたものは全てあなたからの贈り物とのことでしたが……」
「ウム、そうだぞ? 嬉しかったか? ウヌらご当主もベイビー様も、助平だという情報を入手できたので、喜びそうなのを贈った。奥方には便利な電化製品や雑貨をテキトーに贈った」
そう、部屋いっぱいに積み上げられた段ボールの数々。更にはその中身の全てが神である可能性が高い。
それらすべては、先ほどコンからの贈り物とのことだったが……
「贈ったって……あなた、今さっき覚醒したのにどうやって……」
「ウム。わっちは人型になれずとも、自身で勝手にネット上の情報を入手したり操作できたりするのでな。ある家電量販品店でモニター用としてコンセントを入れられた瞬間、わっちは欲しい情報を全て入手し、更には無断で店員や業者にメールを送り、調べたこの八百万家の住所にわっちを送るように手続した。土産と一緒にな」
「い、家を調べた……」
「ウム。わっちの能力なら容易い。今ならあらゆる情報をパソコンで管理している。各役所から全世界に存在する八百万家の住所を探した。まぁ、つい最近掃除機の神が覚醒した状態でコンセントを刺されていたので、その波動をキャッチしたからおおよその場所は分かっていたからな」
これまで他の神たちはホームセンターや百円ショップなどで偶然出会った者たちばかりだというのに、このコンに関してはここまで自力でここまでたどり着いた。
その他の神たちとは明らかなる異端な力に、神人たちは思わず戦慄した。
「土産も嬉しかろう? 電化製品や日用品とオナ●ー用品……八百万家は現金を贈るよりも、これらが一番喜ぶという事前調べだったんだがのう」
「えっ!? こ、これって、そういう意味で……」
「ご当主様もパソコンのフォルダ内に隠しているアダルト動画の類は、制服着た黒ギャル系が多かったので、ドールはピッタリだと思った」
「って、ちょおおおいっ!? そそ、そんなことまで!?」
「ふははははは、まぁ恥ずかしがるでない。これからわっちら家族同然で過ごすのだ。隠し事はないほうがよいのだ。それにそのおかげで……」
そのとき、コンが流し目で怪しく弥美を見た。
「わっちが八百万家のパソコンを調べたおかげで……外からそこの小娘の手によってハッキングされていることも……なによりも、ベイビー様が……愛全家の娘と付き合っていることが分かったのだから」
「「ッッ!!??」」
弥美の手で八百万家のパソコンがハッキングされている。そういえば、先ほどそんなことをサラッと言っていたことを思い出して、神人は弥美を見た。
すると、弥美は神妙な顔をしてコンを睨み返した。
「まぁ、将来の妻なのだから、彼氏のパソコンの中のアダルト動画がどのような趣向なのか知る必要はあったわけだけれど……私が愛全家だと何か問題があるのかしら?」
ハッキングしたことはむしろ「何が悪い?」と開き直る様子の弥美に神人は絶句してしまうが、弥美にとっての問題はそこではなく、むしろコンが口にした弥美の家についてだった。
「問題あるぞ。世界屈指の総合複合産業・愛全グループ。戦闘機からチューインガムまでこの星のあらゆる物に関わっている巨大産業……そこの令嬢が、よもやただのリサイクルショップの倅にゾッコンとは、あまりにも不自然すぎるのだ」
「あら、男と女の間に恋が生じるのは自然な流れでしょう? そして、その流れは神であろうとも覆すことは出来ないの。それともあなたも、ブラシィたちのように私と敵対するつもりかしら?」
コンの、どこか含みのある挑発的な言葉に対して、弥美は涼しい顔で返す。相手を優位に立たせないように余裕の態度を崩さない。
だが、弥美の返しに対してコンは……
「ああ、敵対する。ウヌというよりは……愛全グループを始めとするこの世界の産業社会に対してな」
「……はっ?」
それは、あまりにも漠然として意味の分からない言葉だった。
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