第22話 日常

 ゴールデンウィークを終えて再び登校となった日。

 放課後に浮かない顔で下校する様子の神人。それは弥美も同じだった。


「結局、旅行には行けなかったわね。皆には謝らないとね」

「うん。でも、それどころじゃなかったし……楽しめなかっただろうからね」

「ええ。あんなことがあったのだから……」


 あんなこと。それは、コンのことである。


「神人くん。それで、コンは?」

「うん……今は部屋でゴロゴロしながら、一日中自力ネットサーフィンしてる。ランクの高い神がなかなか見つからないみたいで……」

「そう」


 世界を混乱に導こうとするコンの計画。

 仮に邪魔をしようとしても、この世界そのものを滅ぼすことすらできるコンを力づくで止めることなど出来るはずもない。

 弥美もまた、実家を人質に取られたようなもので、結局何もできずに引き下がることしかできなかったのだった。


「弥美さん……」

「なに?」

「ごめん……俺が不用意にコンを覚醒させたりして……」


 悲しい表情で後悔と謝罪を口にする神人。

 そう、そもそも自分たち八百万家が神々を覚醒させることができるのが原因。

その所為で、弥美の家も、社会も、そしてこの世界すらも窮地に立たされてしまったのだ。

 謝って許されることではないとはいえ、神人にはそれしか言うことが出来なかった。

 一方で弥美は、隣に立つ神人の手を指の一本一本を絡めるようにギュっと握る。


「道具に対して敬意を欠いていた私たち人間の中で、神様から愛されるほど道具を大切にしてきたあなたが謝ることなど何もないわ。だって、あなたたち八百万家は何も間違っていないのだから」


 神人たちの所為ではない。

 人間を怒り、憎んだコンたち神々の中でも八百万家だけは「特別」と呼ばれるほど愛された一家。

 そんなものたちが間違っていることも、何よりも責任を感じることは無いと弥美は言う。


「そう、全ては私たち一人一人の人間の所為なのよ。それに、今、問題なのは誰の所為かというよりは……これからどうすればいいのか……」


 全ては一人一人の問題が積み重なってこうなった。

 とはいえ、誰かの所為にしたところで問題がどうなるわけでもない。

 問題なのは、どうすればいいのかだ。



「環境に配慮した産業廃棄物の扱い……3R……リデュース、リユース、リサイクルを推し進めること……既に地球上の課題として色々と議論されたり実践されているけど、その理想に追いつかないのが実情。仮に父を含め、政治家や各国首脳を巻き込んだところでコンを説得できるとは思えないし、何よりも世界がより混乱に陥るだけ」


「うん。話が大きすぎるもん……それに、神様がどうとかそんな話、世界中が信じるわけないしね……」



 あまりにも大きすぎる問題。

ただの高校生二人や、一般人の神人の両親に問題の打開策が思い浮かぶわけもなく、結局世界の未来に憂いて深いため息を吐くだけだった。


「休み明けから雨で気分が滅入るわね」

「うん。それに、結構ザーザーだね」

「ええ。梅雨入りにはまだ早いけれど……」


 色々と気が重いことが重なり、この強い雨に身を曝け出して全てを流してもらいたいという気持ちになる。


「それじゃあ、ここで。今日は習い事があるから寄り道できないから……」

「うん、また明日ね、弥美さん」

「ええ。神人くんも……男の子なんだから、マスターベーショ●するなとは言わないけれど、ほどほどにね」

「もっ!? んもう……」


 最後にそんな冗談を言いながら、弥美は切なそうに微笑みながら道を分かれて自宅の帰路へ着く。

 その背を見送りながら、神人は一人になって改めて溜息を吐きながら、自分たちに迫られる選択に頭を悩ませていた。

 確かに、現代の大量生産大量消費の世界、ゴミや産業廃棄物の増加による環境問題は世界全体の課題。

 そして、捨てられる物たちの神でもあるコンが人間に憤りを感じるのも無理はない。

 しかし、核や人間の産業社会を盾に、世界を脅してしまうのはどうなのかと。

 そこまでやる必要があるものなのか?

 一方で、そこまでやらなければ人間は変わらないということも、まだ学生の神人も何となくだが分かる。

 どちらが正しいのか? 流石にその答えまでは神人に分からない。


「あっ……着いちゃった。……はぁ……ただいま~……」

「おかえり~」


 一人ずっと考え事をしたまま、気づけば家にたどり着いてしまった。

 特に誰の出迎えもなかったが、それは別に珍しいことではない。

 とりあえず自室に戻って着替えてこようと思い、神人が部屋を開けたら、そこにはコンが神人の勉強机の椅子に座っていた。


「こ……コン」

「あ゛?」

「……さん」

「うむうむ。おかえりだな、ベイビー様。今日も勉学に勤しんだかの?」

「う、うん」


 いきなり悩みの種に会ってしまうとどうしても緊張してしまう。

 それに、自分の部屋なのにどうしてもリラックスできない。

 なぜなら……


「坊や様、おかえりなさい」

「おかえりー、あるじさま♪」

「マジ乙♪」


 ベッドの上をだらけながら占領している、アンファ、クーラ、そして今はドールまでいるのだから。


「坊や様。今日もお疲れ様です。どうです? 夕飯までに一回ぐらいオナ●ーでもされますか?」

「くししししし、あるじさますけべだから、いっかいだけじゃおわんないよ。でもいいよ? クーラのアソコまくらでぷにぷにしこしこしちゃおうよ♪」

「んじゃ、今日は4Pっしょ」


 ルゥは風呂場。ブラシィは食後。それぞれ時間帯や場所をはっきりさせて神人のオ●ニーを手伝うが、アンファに関しては別。

 神人が部屋でゴロゴロしたいと思えば、いつでも誘ってくる。更にクーラやドールまで加わったのだから、頻度も当然増えた。


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