第64話

「あれ・・・・・・」


フレッドが執務室へと着くが居るはずのシドの姿は見えなかった。


「シドはどうした?」


同じ執務室勤務の文官が横を通ったので声をかけた。


「シド様なら、先程陛下の側近に呼ばれて王の間へと向かいました。てっきりフレッド様も一緒かと思っていましたが・・・・・・」


文官は首を傾げた。


「陛下に?」


フレッドは何も聞いていないことに眉をひそめた。


「私も行ってくる」


フレッドは無意識に足早に王の間へと急いだ。


「陛下!」


フレッドは門番が止めるのを振り切って扉を開くなり声をかける。


「おお、来るのが早かったな。まぁフレッドは呼んでないが」


国王は狼狽える兵士に問題ないと手を振りフレッドと二人っきりになる。


フレッドは二人になると口調を崩した。


「父上、シドはどうしたんですか?呼び出したとお聞きしましたが?」


「ん?ああいま、お使いを頼んでいる」


「お使い?」


フレッドは国王である父親を見つめた。


「そう怖い顔するな、すぐに来るからお前も待っていろ」


「それよりもしなきゃならない事が沢山あるんですけどねぇ」


国王はまぁまぁとフレッドをなだめた。







シドは腑に落ちない気持ちのままフレッド王子の部屋へと向かった。


もし部屋でロレッタ様と居るなら話をして、一緒にいてもらおうと思っていたが部屋に着くとエミリーとお茶を飲んでる姿に落胆する。


なんであの人はこんな時に一緒に居ないんだ!


「シド様、どうなさいました?」


ロレッタは渋い顔のシドに近づくと顔を覗き込んだ。


「いえ、ロレッタ様すみませんが国王がお呼びです。一緒に来ていただけますか?」


「国王陛下が?わ、わかりましたすぐに向かいます」


ロレッタがエミリーを見つめると声をかけた。


「エミリーさん、陛下にお会いするのに身だしなみを整えてくださいますか?」


「ロレッタ様の頼みでしたら喜んでと言いたいところですが・・・・・・シド様、陛下はどのような御用なのでしょう」


エミリーが心配そうにシドに聞いてきた。


「すみませんが私からは何も言えません。それよりも王子はどこに?」


「シド様を探しに向かいましたよ、私にロレッタ様といるようにと」


くそ、入れ違いか・・・・・・


シドは眉をひそめた。


エミリーは気が進まなかったがロレッタを綺麗に着飾る。


「どうかお気をつけて・・・・・・」


そう言ってロレッタを見送った。


「ロレッタ様、申し訳ありませんが私はもうひとつ用がありまして、護衛の兵士と王の間に向かっていただけますか?」


「は、はい」


ロレッタは不安そうに頷いた。


「何か?」


ロレッタの浮かない顔にシドが声をかけた。


「い、いえ、フレッド様も、エミリーさんにシド様がいないのは緊張するなと・・・・・・」


「そうですか・・・・・・ロレッタ様、ひとつだけいいですか」


シドは立ち止まってロレッタを見つめる。


シドのいつになく真剣な姿にロレッタは頷いた。


「フレッド様はロレッタ様の事を本当に大切になさっております」


「は、はい?」


ロレッタは何の話だと思いつつ頬を赤くした。

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