第2話 街
数秒ほど間が空いた。
「何言ってるんだ?」
ボスが呆れたように青年に向かって言った。
「本気なんだ、一目惚れだよ」
青年は真っ直ぐ、
「まあ、なんか、家を潰したのは悪かった、だがその話は簡単には飲めねえ」
父さんも話に参戦してきた。
「じゃあ分かった、バルサミ、あれだけは絶対に使うな?男の約束だ」
ボスは腕を組んでそう言った。どうやらこの青年はバルサミという名前のようだ。
「絶対に使わないさ、真剣だからね」
「ねえ、さっきからその使う使わないって言ってるのは何?」
母さんは
「ああ、俺のさっきの分身みたいな、それぞれが持ってる能力だな」
「ちなみに俺は肩を組んだ相手と仲良くなれる能力、戦闘には向いてないけれど」
「おお待て待て、よく分かんねえけど、とりあえずここはなんなんだ?」
父さんは手を二人の前に突き出して、話を止めた。
「どこって言われても難しいな、ああ、そういえば王の元に連れていくつもりだったんだ、バルサミも来るか?」
「もちろん行くよ」
「お前らもちゃんと着いて来いよ~」
「なんだかオシャレねえ」
まるでヨーロッパの街並みのような、カラフルで綺麗な建物がいくつも建てられている。
「あの城が俺たちの王が居るところだ」
小道を抜けると正面に大きな城が見えた。
「さあ、こっちだよ」
バルサミが
「…申し訳ない」
バルサミは少し落ち込んだ様子で、弾かれた手を触った。
それから沈黙が続き、歩いているうちに城の前まで来た。
「やあ、こいつらを今から王に会わせるつもりだが、まず顔だけ合わせたいんだが」
ボスは扉の横に立っていた紫色の髪の男に話しかけると、扉の前に紫色の円形の靄が現れた。
「はい」
男はそのまま横を通り過ぎて階段を下りていった。
「奇妙な四人組が突然街に現れたのですが、どうも悪いやつらじゃ無さそうなので連れてまいりました!」
ボスは靄に向かって敬礼をした、すると靄の中からゆっくりと老人の顔が浮かび上がってきた。
「こんにちは、皆さん、どこからここへ?」
とても優しい口調と笑顔で老人は語りかけてくる。
「どこからって言われてもなぁ、気づいたら居たっていうか」
「まあ、とりあえず入ってください」
老人はそのまま靄の中に消え、靄も消えた。
「王!失礼します!」
中に入ると、離れた真正面に赤い玉座に座ったさっきの老人がいた。服装はまさに王様って感じの豪華な服を着ていて、横に執事のような人が立っている。
僕たちは横一列に並んだ。
「あなたたちはこの街の人ではないようですが、既に能力は出ていますか?」
「また能力の話ね、多分出てないわ」
母さんは困った顔をして答えた。
「であればクノウさん、見てみてください」
王がそう言うと隣の執事らしき人がこっちに向かって歩いてきた。スーツ姿で王よりは若い。
「では、少し失礼します」
僕の目の前に立ったクノウさんは、僕のおでこにおでこを合わせてきた。
「ちょっ」
僕は驚いてとっさに離れた。
「すみません、動かないでいただけますか」
「あの、なんでおでこを合わせたんですか?」
「ああ、私の能力です、おでこを合わせた者が、どのような能力か知ることができるのです、完全サポート型ですね」
「はあ」
僕はよく分からないが、ひとまず元々立っていた所に戻った。
「それでは再度失礼…」
おでこをピタッと合わせてクノウさんは目を瞑っている。
「…なるほど、あなたはまだ出てないようだ」
クノウさんは僕から離れると、次は父さんの前に立った。
「…あなたもまだ出ていない」
父さんから離れると、一度僕たちが並んでいる正面に立った。
「女性の方は嫌でしたら嫌でよろしいのですが、確認させていただけますか?」
この人はとても紳士な人なのだろう。
「私は大丈夫だけど、
「私も大丈夫だよ」
「ありがとうございます、それでは失礼します」
まずクノウさんは母さんの前に立ち、おでこを合わせた。父さんが顔を手で覆っているが隙間からチラチラと様子を見ていた。少し嫉妬しているようだ。
「あなたもまだだ、ではそちらの方も」
最後に
「…ん!これは、この方だけ既に出ています」
クノウさんは驚いた様子で後ろに下がった。
「これは…毒ですね、しかも痺れるような」
毒…いつの間に
「なあクノウ、さっきから俺の手が痺れてるんだが、これはその毒か?」
後ろに立っていたバルサミがクノウに近づいていった。
「そうですね…これはその毒のようです、まだ発動条件は分かりませんが」
「多分手を弾かれた時に付いたんだな、なんかのスイッチに触れて発動したんだろうよ」
ボスもバルサミのいる方へ近づいた。
「私が先ほど能力を確認した時には痺れは来なかったですけどね」
「まあいずれ分かるだろうな」
「では、能力が確認できましたので、私はこれで」
クノウさんは玉座の横にある扉へ入っていった。
「それでは改めて、私はこの街の王です、まあそのまま王とでも呼んでください」
王は杖を突き、立ち上がって近くに来た。
「この世界のことを少し説明しましょう」
「まず、この世界では能力を持った人々が暮らしている、さっきのおでこを合わせたクノウのように、一人一人が違った特殊な能力を持っている」
「え、じゃあ私のこの痺れさせるってやつも?」
「そうだ、きっとあなた方全員何かしらは持っている、だが全員がすぐに能力が開花するとはならない…そうだ」
突然王は服のポケットから紙を取り出した。
「私の能力も言っておこうか、私は顔を合わせたことのある者の能力が一度だけ使えるといったものだ」
「その手の紙は?」
「これは能力の使い方をまとめた物だ、どうやって発動させるかが分からないと使えない、記憶力が衰えてしまったからメモっているんだ」
「少し話が脱線したが、君たちにどんな能力があるか知りたくてな、一日クノウをそちらに預けても良いか?」
「ん、あ、預けるって?」
母さんは眉をひそめて聞いた。
「その娘さんがいつ能力が出たか分からなかっただろ、だからそのトリガーを知っておきたい、能力は時には危険なものになるからな」
「だからその、預けるって?」
王と母さんは話が噛み合ってないようだ。
「ああ、すまない、一日そちらの家にクノウを泊まらせてほしい、もちろん荒らしたりはしない」
「泊まるって、うちまだ片付けも出来てないし…」
「ただ様子を見て能力がどういったタイミングで出るか調べさせてもらうだけだ、もちろん嫌なら断ってくれて構わない」
僕たちは輪になって話を始めた。
「どうする?お父さ…」
「いいんじゃないか?」
食い気味に答えた父さん。
「ま、言うと思った、二人はどう?嫌じゃない?」
「私は大丈夫、お兄ちゃんは?」
「大丈夫だよ、能力って何があるか分からないし」
「じゃ、決まりね」
母さんは顔を上げて王に向かって叫んだ。
「分かったわ!うちに一日泊めてあげる!でもまだ内装しっかり知らないから案内はできないわ!」
「本当にありがとう、クノウ、大丈夫と言ってくれたぞ」
王がさっきクノウさんが入って言った扉に向かって言った。
「すみません、恩に着ます」
すると扉の中からパジャマらしきものを着たクノウさんが出てきた。全身水玉のかわいらしい服だ。
「ギャップ凄いな…」
と
「お恥ずかしい、いつもこれなんです…あ、枕持って行ってもよろしいでしょうか」
「あ、どうぞ」
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