第2章 第3話【恋する乙女:ママの場合】
「喉がいだい……」
スポーツのテーマパークを存分に満喫して帰路についた。
「明らかに叫びすぎだったもん。」
聖那はどのスポーツをやってもカクカク動いていて、あまりにもかわいすぎた。
知識のない俺でも、言いすぎるのは良くないと思って躊躇する場面はいくつもあったけど、それでも思わず漏れてしまう事があった。
「だ、誰のせいだと思ってるの?」
声量を落として話す聖那の声が、子供を寝かしつけるママすぎるのは置いといて
「俺のせいなの!?思ったら言ってって言われたから言ってるのに?」
「す、好きを知ればこの気持ち分かるから…絶対叫ぶから!」
「そう言うものなの?」
「そう!好きの気持ちは全てを越えるんだから!」
聖那は俺の肩に手を置いて大きく頷く。
そこからも談笑をしながら歩き、帰宅した。
久しぶりに身体を動かして汗をかいて、かなり疲れたけど最高に楽しかった。聖那も楽しかったって言ってたし、いい日を過ごせた。
聖那とももう三年くらいの仲だけど、こうして一緒に遊ぶのは初めてだったし、意外すぎる一面も見れた。
『明日は真木君にお弁当作って行くから覚悟するように!』
『ありがたいけど、無理ない程度にしてね?』
『お気遣いありがと!』
寝る前にそんなメッセージのやり取りをして、今日は終わった。
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今日はいい日すぎたなー!真木君にいっぱいかわいいって言われちゃったし!やっぱり真木君の事が大好きだ!思わず結婚したいとかも言っちゃったけど、真木君ならあんまり記憶に残らないかな〜。
そんな事を考えながらお風呂に入ってると、真木君の「めっちゃかわいくて」が無限にリピートされるようになってしまった。
「は、恥ずかしい!」
脳内の声なんて誰にも聞かれないけど、聞かれないからこそとてつもなく恥ずかしくなる。
「で、でも…恋する女の子は妄想くらいする…よね!」
真木君に好きと言う気持ちを教えようって協定を結んだのはいいけど、私は恋なんて真木君が初めてだから、実はよく分かってない。
中学校に入るまでは肺の病気で入退院と手術の繰り返しで、まともに学校に行けてなかった。
だから、普通に生活ができるようになって中学校に通う年齢になって、学区外のところに通った。高校デビューならぬ中学デビュー的な?
入院中に読んでた漫画の影響で、中学校では生徒会か学級委員になりたいと思ってたから、とりあえず学級委員になってみた。
「真木彰人です。これからよろしくお願いします。」
「な、七草聖那です…お、お願いします……」
一年生の時、同じクラスの男子学級委員になったのが真木君だった。
当時の私は引っ込み思案で、髪もボサボサで、かわいいなんて誰からも言われなかったし、話しかけても逃げられる事が多かった。
だけど、真木君はそんな私に沢山話しかけてくれたし、連絡先の交換もしてくれた。
私が特別だと思ってた訳じゃないけど、その優しさが嬉しすぎた。
でも、体育祭の準備や会議で多忙だったある日、真木君が倒れてしまった。
非力な私がサッカー部主力の男の子を背負えるはずもなく、先生が保健室まで運んでくれた。
「うぅ……」
保健室のベッドで寝かせたはいいけど、真木君はずっとうなされていて、手を握る事しかできないのが辛かった。
そんな時に、保健室の先生から声がかかった。
「膝枕してあげてください。落ち着くと思いますよ。」
どんな理由なのかは分からないけど、言われるがままに膝枕をしたら、真木君はぐっすりと眠った。
寝顔がかわいくて、ほっぺをツンツンしたり耳たぶを触ったりしていた。
「睡眠不足で暑さにやられちゃっただけだから、安心して見守っててください。」
そう言って保健室の先生は保健室から出て行ってしまった。
保健室で二人きり、しかも真木君は私の膝の上で寝ている。
何を思ったのか、私は真木君にキスをしていた。
それと同時に真木君が寝返りをうって、うつ伏せになってしまった。
「あっえっと…うぅ……」
キスしたのがバレたのかもとも思ったし、体育の後だから臭くないかなとも思ったし、髪の毛と鼻息がくすぐったくて、思わず声を出しそうになったけど、ちゃんと寝かさなきゃいけないし膝枕がバレるのも怖かったから、なんとか抑えた。
多分、この時にはもう真木君の事が好きだったんだと思う。じゃなきゃキスなんてしないし。
だけど、せっかくできた人生初めての友達が離れていってしまうかもしれないと考えたら、それを伝えるなんて事はできなかった。
真木君が深く眠って、膝枕をやめて普通の枕に戻して真木君の手を握っていたら、いつの間にか私も寝てしまっていた。
完全下校のチャイムで目を覚ますと、真木君がベッドの上に座って私を見つめていた。
「あっ、ち、違くて……」
嫌われた。友達がいなくなった。どうしよう。
一瞬のうちに、最悪の想定をして何を言われても大丈夫なように準備をした。
「心配かけてごめん。あと、ありがとう。」
真木君から発せられたのは、予想外すぎる言葉だった。
唖然としていると、真木君が再び口を開いた。
「うなされてたところを落ち着かせてくれてたって、保健室の先生から聞いた。最近全然寝れなかったけど、七草さんのおかげでめっちゃ寝れた。ありがとう。」
抑揚がないから本当にそう思ってくれてるのかは分からないけど、だとしても。あんまり仲良くない私に手を握られてるのに引かないでくれる真木君が好きになった。
「あ、ありがとう…!」
「そこはどういたしましてでしょ」
そう笑いあってから、私達は色んな悩みを打ち明け合う仲になった。
真木君は何も悪くないのに避けられていた事、本当はサッカーがあまり好きじゃない事、家庭環境が複雑な事、幼馴染がだらしなさすぎて困ってる事とか、色んな話を聞いた。
その積み重ねがあって、私も真木君に色んな事を話して信頼関係が築かれていった。
私がママと呼ばれるようになったのは、実は私を唯一ママと呼んでない真木君だったりする。
何事にも無関心なイメージの強い真木君が、私と話す時楽しそうだったとか、喋る量が多いとかで、真木君のママと呼ばれるようになったのが最初だった。
私には理解ができない理由だったけど、ママと呼ばれているうちに頼られる事の嬉しさを知って、理由を気にする事がなくなった。
そして今日、そんな私の人生において必要不可欠な存在で、命の恩人とも言える真木君に。大好きな真木君にかわいいと言われた。
「うっひょぉぉぉぉぉおお!!!!」
よし、明日のお弁当も頑張っちゃうぞー!おー!
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