第2章 第2話【かわいい…】
「真木君ーー!HR長引いちゃって、待たせてごめん〜」
放課後となり、とりあえず正門で待っていると、息を切らせた聖那が話しかけてきた。
別クラスと言う事もあって授業の合間に会うことはなかったけど、昼休みには図書室で談笑しながら昼食を摂ったりと、いつもよりは充実した時間を過ごせた気がする。
聖那を待つがてら、ちゃんと一人の時間も取れたし最高だ。
「いい時間を過ごせたよ。」
「相変わらずなんだね〜」
俺にとって一人の時間がどれだけ大事なのかを一番知ってくれてるのは、聖那だと思う。
と言うのも、中学生の時に学級委員の会議で休み時間を全て奪われた時、異常に体調を崩した俺を保健室まで連れて行ってくれて話を聞いてくれたのが聖那だったから。
スクールカースト上位にいる女子からの告白を「そう言うのよく分からなくて…ごめん。」と答えてから、すれ違う女子生徒全員に「なんで振ったの?」「あの子学校に来なくなったんだけど、どうしてくれるの?」「最低。」など悪い事はしてないはずなのに、散々な言われようだった。それが学級委員になって間もない頃。
ちょうどその時に聖那が話を聞いてくれたから、俺はなんとかここまで生きてこれている。
多分だけど、その事を知ってるのは本当に聖那だけだと思う。
「で、どこ行くの?」
俺がなんとなく話題を振ってみると、聖那はふふふと清楚に笑った。
「気になる?」
「うん。こう言うの初めてだし。」
そもそも、デートなんて今までした事がない。どこで何をしてどんな話をすればいいのか分からなさすぎる。
「内緒かな〜!絶対に楽しいから期待してるがよい!」
このキャラのブレ具合は、本当に期待してていいのかもしれない。
ある程度の予想を立てると、ショッピングモールで映画観たり服を見て回ったりが漫画アニメではよく見るデート。
でも、俺が漫画アニメの知識しかない事を聖那は知ってるから、変えてきそうではある。
そんな事を考えつつ聖那となんでもない話をしながら歩き続ける事数十分、辿り着いたのは最近できたスポーツ特化型のテーマパークだった。
「俺、高校に入ってから全く運動してないけど…」
中学生の頃はサッカー部で部活青春まっしぐらだったけど、四月からは全くもって運動をしていない。
「でしょ?だから来たんだよ〜」
左手の人差し指を立てて満面の笑みを浮かべる聖那だけど──
「聖那って運動神経壊滅的じゃなかったっけ?」
「あっうーん…よし、レッツゴー!」
すっかり忘れていたらしい。
「聖那ってたまにおばかになるよね。」
「真木君と一緒にいるとおかしくなっちゃうみたいだね…」
好きな人と一緒にいるとおかしくなるって事か。
それで言うと、学園祭で聖那と二人になった時の俺は明らかにおかしかった。と言う事は…いや、まだ早いか。
「まあ、ママっぽくなる方が変なくらい話してるし、そのくらいがいいか。」
あの一件以来、聖那とは他の人には言えないくらいの悩みを相談し合う仲になり、そう言う積み重ねがあって俺が聖那に抱く安心感に繋がる。
それこそ聖那がママと呼ばれる事に若干の抵抗がある事とか、人間関係のドロっとした悩みとか、当時聖那が抱えてた病気の話とか、あまり人に話せない話をしてくれていた。
でも、だからこそ。聖那からの告白は結愛や里帆の告白よりも特別に感じた。
まだ好きについての知識は少ないけど、俺のほぼ全てを知った上で特別な感情を持ってくれる聖那は、俺にとっても重要な存在なんだろう。
「いつでもママになってあげまちゅよ?」
俺の頭をポンポンと叩きながらそう言う聖那だけど、正直言うとおぎゃりそうにはなる。
だって、最推しと瓜二つの人が俺の事を好いていて、頭をポンポンしてくれてるんだぞ?正気でいられるわけがない。
「遠慮しておきます。」
俺の返事に聖那は顔をムスッとさせる。
「保健室では私の膝でぐっすり寝てたのに!」
当然だけど、その時の俺は意識が薄すぎてサッカーボールでも枕だと思い込んで寝てたと思う。
「あれは、聖那がわざわざ膝に俺の頭を乗せたんでしょ?」
「ちゃんと枕に寝かせたけど、うなされてたから膝枕をしてあげたら赤ちゃんみたいに寝たんだよ?」
「子供じゃあるまいし、そんな事ある訳ないでしょーよ。」
「寝返りうってうつ伏せになった時は焦ったんだよ?体育の直後だったし……」
「作り話は程々にしてよ…なんか俺が変態みたいになるじゃん。」
「男の子は変態なくらいがかわいいなーってなるんだよ?」
「かわいくなくていいし!」
「まあ、真木君は変態じゃなくてもかわいいんだけどね〜」
「かわいくないって…」
「そーゆーとこだぞぉ?」
「そう言う事ばっか言うなら帰るよ?」
「しょうがないなぁ〜」
「しょうがなくない」
「じゃあ、サッカー教えてよ!」
「しょうがないなぁ〜」
「はい!コーチ!」
途中、ちょっと本気でムカついたけど、気付いたら普通の流れっぽく聖那とサッカーをする事になった。
このテーマパークは何種類ものスポーツができるコートが無数にあり、一組につき一コートが貸し出しされている。
「二人でサッカーって寂しくない?」
サッカーは十一人でやるスポーツだし、試合中は三対三の連続だから、三人は欲しいんだけど……
「私はめっちゃ楽しいけど、つまらないかな……」
二人でボールをパスし合うだけのサッカーだから、まあ面白くはない。
でも──
「ボールの止め方も蹴り方も面白すぎてやばいね。」
片足を上げた状態でボールを待ち、真上からボールを潰すようにトラップをしたり、たまにミスってガクッと体勢を崩してからチョコチョコと走ってボールを取りに行く。
足を後ろに引くと言う事を知らないから、居合斬りみたいになってるし、たまに何故かボールを置いた方の足と逆の足を前に出してよく分からなくなっている。
「か、からかわないでよ…運動音痴なのは知ってるでしょ?」
ボールを手で持つ時は絶対に両手だし謎に肘を伸ばしてるし、ボールを置く時はちゃんと膝を曲げて置いている。
「ごめん。でも、なんかめっちゃかわいくて──プハハッ」
思わず吹き出してしまい、聖那はちょっと不貞腐れてるのか、頬を膨らませた顔を赤くして目を合わせてくれなくなった。
それなのにボールは返してくるのはなんなんだろう…
「ごめんって、ちゃんと教えるから。」
下手だと思われるのが嫌いなのかもと思って近寄ってそう言ってみたけど、聖那はもごもごと何かを言うだけで、何も聞き取れない。
「足痛めたとか?」
「ちがう…」
変わらずもごもごとしてはいるけど、徐々に聞き取りやすくなってくる。
「飽きたとか?」
「違くて…」
何度も質問をしていくうちに、ようやくしっかりと聞き取れるようになった。
「体調悪くなったとか?」
「違くて!」
急に俺の方を向いてしっかりと目が合い、何故か聖那の目は潤んでいて、聖那はすぐに俯く。
「きゅ、急にかわいいとか言わないでよ……」
もごもごとはしていたけど、ギリギリ聞き取れるくらいだった。
「でも、思った時に正直に言えって言われたから…なんかごめん。」
確かに聖那からそう言われたと記憶してるんだけど、間違えて記憶してたりすんのか?
「い、言ったけど…真木君にそう言う事言われるとこうなっちゃうから……」
記憶違いではなかったらしい。
「思っても言わない方がいいって事?」
「そうじゃなくて…う゛ぅぅぅぅぅぅ!!あ゛ぁぁぁぁぁぁぁぁぁああ!!!」
ついに、聖那が頭を抱えて壊れてしまった…
とりあえず地面に座らせて水も飲ませたけど、ずっと奇声を上げている。
「救急車呼んだ方がいい?気持ち悪いとか?」
「呼ばなくて大丈夫、葛藤してるところだからちょっと待ってて!」
急に元に戻ったと思ったら、再び「ん゛んんんんんんん」とか「くあぁぁぁぁぁ」とか、普段の聖那からは想像もつかない程の奇声が連発される。
そのまま数分が経過して、ついに聖那の奇声が止んだ。
「ど、どう?」
「うん。大丈夫。もう覚悟を決めたから。」
「覚悟…?」
「そう。真木君にかわいいと言われる覚悟がね!」
「と、言いますと……」
奇声がなくなっただけで、やっぱりずっとおかしい。
「そ、その…私の事を…か、かわいいって思った時は──かわいいって言ってください……!」
聖那はそう言いきった瞬間にしゃがみこみ、顔を手で覆って「言っちゃった…」と連呼している。
「わ、分かった。かわいいって思ったらかわいいって言う。でも、ストレスになったりしない?」
かわいいのたった一言であの聖那がこんなになるなら、相当なストレスがかかるはず……だと思う。
「真木君にかわいいなんて言われたら、ストレスなんて全部吹っ飛ぶ!もっと好きになる!だから…もっと言って──うぎゃぁぁぁぁぁあああ!!!!!」
明らかに莫大なストレスかけてるように見えるけど、本当に大丈夫なのか…?でも本人がそう言ってるし、大丈夫なのか。
「分かったけど、なんでそんなに奇声あげてるの…?」
「嬉しい!恥ずかしい!もっと言ってほしい!照れる!好き!大好き!結婚したい!が全部出てきて──あっえっと、その……バカ!」
テンパってる聖那はいつもと違いすぎて──
「かわいい…」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああ!!!!!!」
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