第2章 第1話【似てる】
学園祭も終わって十一月となり、段々と寒さも増していく季節となった。
「彰人!」
「彰人君!」
「真木君〜」
学園祭が終わって初めての登校だけど、危惧していた通りの展開になりそうだった。
聞き覚えのありすぎる三つの声が何かを言い合いながらこちらに迫ってくるのが分かる。
「私たち、自分の気持ちを叶えるにはまず彰人に好きって気持ちを知ってもらわないとと思ったの!」
「だから、今日から基本は四人で一緒にいようって話になったんだ。私がお弁当作るから、購買にも行かなくていいからね!」
「だけど、それだけじゃもったいない気もするから、登下校は一週間毎に交代で一人ずつやろうってなったの。それで今週は私なの!」
どうやら、俺への相談もなしにその話は行われ、終わっていたらしい。
「俺に自由はないの?」
俺は、一日に十分は一人で自由な時間がほしいんだけど、その時間が奪われそうで怖い。
「彰人の事が大好きな三人で決めたんだよ?もちろんあるに決まってるじゃん!」
「そうそう。私がどれだけ最愛の彰人君の事を知ってるのか、侮ってもらっちゃ困るよ。」
「ママは真木君の事なら全てお見通しって事よ!」
一を聞くと必ず三以上で返ってくるこのシステム、まじで疲れそう…
好きって気持ちを教えてくれるってのはありがたいけど、別に三人一緒じゃなくても良くないか?
「その一週間毎に交代ってやつ、全部に使えないの?」
俺が提案すると、三人共難しい顔で固まってしまった。
「い、いいけどさ…」
「もし、その一週間で他二人を好きになっちゃったらって思うと……」
「私はクラスが違うからどちらでもあまり変わらないし、二人次第かな。」
我ながら王様気取りで気持ち悪くなりそうだけど、精神衛生の面を考えると言っておかなきゃいけなさそうだな…
「正直に言うと、三人を同時に相手にすると多分ぶっ壊れちゃうと思う。友達ともあんまり多くは話さないし。」
ゲーム大好きだし漫画大好きだけど、こう見えてよく遊びに誘われてゲーセンとか映画とか行ってたし、それなりに友達はいる。
でも、本当に興味がある事とか振られた話にしか参加しないから、話すのは苦手。
そんな俺がこの三人を相手に持つのは、せいぜい三十分程度だろうな……
「じゃあ、そうしよっか!」
「だね。彰人君には健康でいてもらいたいし、他二人との違いも出しやすくなるしね。」
「うん!じゃあ、登下校も私だったし今週は私でいいかな?」
取り敢えず一安心したけど、一難去ってまた一難。
「赤ちゃんの頃から彰人と一緒に生きてきた私が一番最初じゃない?」
「私はクイーンを取ったの。せめて結愛ちゃんよりは先じゃないと。ねぇ、途中で逃げ出したかわいい結愛ちゃん?」
「うーん…私はキスとかしちゃったし最後でもいい……かな」
ドヤ顔の結愛を睨み付ける里帆、それを抱きかかえてると思わせて見下ろしている聖那。
ドロドロ展開ってやつ…?これ、最終的に俺が選ばされるやつじゃない?まじで嫌なんだけど……
「私は逃げたんじゃなくて、クイーンって言う称号がないと告白もできないような薄い気持ちじゃないんですぅ!」
「彰人君への愛情だけで家事も勉強も頑張ってきた私に負けたのは結愛ちゃんでしょ?しかも、最終結果発表直前に棄権して。」
「「あと、キス魔は黙ってて!」」
「まあまあ、あんまり真木君の前でそう言うのは…落ち着いて話し合おうよ……」
明らかに子供な結愛を実績でねじ伏せる里帆、完全にママな聖那。
最初の一週間は聖那でいいかな。聖那以外の選択肢無いしな。うん。
「今週は聖那でいいんじゃない?」
俺の提案に、今度は結愛と里帆が唖然として固まり、聖那がごめんねと謝りながら俺の隣に来た。
なんか、俺様系の人に見えるかもしれないけど、あくまで自己防衛のための選択であって、決してそう言うのはない。
取り敢えず今週は基本聖那と行動する事になったんだけど、根本的に意味が分からない事に今気付いてしまった。
遅すぎた……
「真木君はどんな人をかわいいとか綺麗って思う?」
固まっていた二人を置いて歩き始めた瞬間に聖那が話題を振ってきた。
「漫画とかアニメ以外で思った事ないかもしれない。」
学園祭の時と違って、今日は脳に溶けるような声ではない。聖那とのこの感覚が久しぶりすぎて懐かしくはなるる。
でも、好きと言われた以上はそれに対して真剣にならないといけない……って言われてるしあまり言わないでおこう。
「そっかー。大半の人は一ノ瀬さんがかわいくて、水瀬さんが綺麗って思うんだよ。まずはここからかな〜」
やっぱり、聖那は落ち着くししっかりと好きについて教えてくれそうだ。
「よく二次元と三次元を一緒にするなって言われるけど、その辺は一緒でいいって事?」
「そうそう!でも、シチュエーションとかは一緒にしちゃだめだよ?って言いたいところだけど、この状況はアニメそのものだね…」
「本当にそう…俺、そんなに気に入られる人じゃないと思うんだけどね。」
好きって言う気持ちはよく分からないけど、漠然と良く思われてるって思うと悪い気はしない。
ただ、疲れる…
「まあ、好きって気持ちが分かれば、真木君自身の良さも見つかると思うよ?」
「そう言うものなのか。」
俺なんてありふれた人間だと思うけど、聖那が言うなら間違いないんだろう。
「うん、後さ。私って真木君にはどう見えてる?」
横を歩いていた聖那が突然俺の前に立ち、少し俯きながらの言葉だった。
「どう見えてるって言うのは、具体的にどう…?」
自分でも、何を聞いてるのか全く理解できない。
「か、かわいいとか綺麗とか…ほ、ほら、私よくママって言われるでしょ?だからちょっと不安で……」
なるほど、所謂言霊ってやつで実年齢より老けて見えてるかもしれないって言う不安か。
それで言うと──
「綺麗だし、話してるとかわいいかも?でも、やっぱり何よりも落ち着くかな。たまに赤ちゃんになりそうになるけど。」
「ほ、本当に?」
「うん。まだよく分かってないけど、嘘じゃないよ。」
正直に言うと、俺の最推しキャラと見た目がそっくりで、アニメ化された時に声が聖那と違いすぎて慣れるのに時間がかかったくらいだ。
ブラウンのボブカットで、垂れ目でウェリントン型メガネの黒いフレームから角度によって見え隠れする目尻の下にあるホクロ、比較的細めだけど少しむちっとしてるところ。
全てが最推しキャラと似ている。
性格については、ママと呼ばれるだけあるなと思う時もあれば、結愛と変わらないなと思う時もあって、その結愛がかわいいなら聖那もかわいいって事だよな。
「あ、ありがとう…面と向かって言われると恥ずかしいなあ〜でも、そう言うのは思った時に正直に言うものだから、ちゃんと覚えておいてね?」
聖那は顔を背け、赤く染めた顔を手でパタパタと仰ぐ。
よくママって呼ばれてるけど、こう言うところを多く見てきたから、多分ちゃんと女子なんだろうなと思ってる。
でも、好きについて直接教えるんじゃなくて、基礎中の基礎だけを教えてくれている辺りは、まじでママだね。
「今日の放課後って時間ある?」
「部活もやってないし、ずっと暇だよ。」
「じゃあ、デートと行きましょうか!」
「ほ、ほお。分かった。」
少し前までデートは両想いの人がする物だと思ってたけど、漫画とかアニメを見ているうちにそうでもないらしいって事を学んだ。
────────────────────
「あの二人、なんか距離近くない?」
「さすが、抜け駆けしてキスしただけある。」
「キスは、まだこの協定を結ぶ前だったけど、よりによって私の目の前で馬乗りになってたんだよ?」
「え…してたの?」
「服着てたし大丈夫だと思うけど…二人とも顔真っ赤で息切らしてたし、ちょ、ちょっとくらいあったかもしれない……」
「ふーん。まあ彰人君が誰としてても、私が全て上回るしいっか。」
「里帆ちゃんはもうご経験が!?」
「初めてもその後も、彰人君としかしないって決めてるの。結愛ちゃんはそうじゃない可能性が頭にあるって事なのね?ふーん。」
「ち、違くて……」
多分私は、顔もスタイルも家事も夜も、全部里帆ちゃんに負けてると思う。性格も押し引きも大胆さもお淑やかさも、聖那ちゃんに負けてると思う。
でも、二人より勝ってると思える事が二つある。
彰人への気持ちの大きさと彰人に関する知識。これだけは誰にも負けない。
「てか。あの二人、本当に距離近くない?」
そう言う里帆ちゃんの目は、憎しみを詰めに詰めたような圧で、気のせいかもしれないけど紫色のオーラを纏ってるように見える…
確かに近いけど、今にも腕に抱きつきそうなくらい近いけど、こんな距離は中学生の時の学級委員を見ていれば普通にも思える。
整列移動の時に先頭を歩く学級委員の真後ろにいたから、二人の仲の良さもよく知ってる。
もちろん、聖那ちゃんが彰人の最推しキャラに似てる事も。
「ねえ結愛ちゃん?」
抑揚のない声で話しかけてくる里帆ちゃんは、本当に怖すぎた。
銀髪で日焼けぜろで顔立ち綺麗で、おっぱい大きくて身体細くて、普段クールな絶対的美人の里帆ちゃんがちょっとヤンデレ気味って…ズルすぎない?
行動の全てが彰人を思っての行動で、何もかも彰人に繋げて頑張れる人が私なんかを相手にしてくれるのかな…
「は、はい……?」
「一週間に一度だけならキスをしてもいい。ってルールを追加しない?結婚する上で、そう言う相性は大事って聞くし好きになってもらうためにも大事じゃない?」
ものすごく悪役的な提案だったし、かなり魅力的に感じたけど、彰人の事を思うと──
「でも、あくまで彰人に好きって気持ちを知ってもらう事が先だから、そう言うのはこの協定が終わってからにしない?」
里帆ちゃんとか聖那ちゃんと毎週キスするような人生を送っちゃうと、貞操観念とか色々ぶっ壊れちゃいそうだし。
「それもそうか。彰人君と結婚するのは私だし、まあいいや。」
突然クールになるのも怖すぎる…
「そう言えば、来週はどっちの番にするの?」
何気なくした質問だったけど、これがまた里帆ちゃんのトリガーを引くことになっちゃった。
「もちろん私でしょ。生徒選挙を途中で逃げ出した結愛ちゃんに選択権が与えられるはずないでしょ。」
「でも──」
「なに?言い訳?言い訳なら彰人君の目の前でしてくれない?」
里帆ちゃんの言い分がご最もすぎて何も言い返せなくなって、顔を手で仰いだり笑顔で見つめあったり、聖那ちゃんが自分の肩を彰人にぶつけたり彰人の頭を撫でたりしているところを見せつけられながら、学園に到着した。
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