第28話 領都マーキュリアスに到着すると 

アイゼンとアンドロイドのルナは第1級冒険者オーガストと別れたあと、魔術師ギルドに向かった。


そこでアイゼンは土属性初級魔法『石礫いしつぶて』を購入こうにゅうした。


魔術師ギルドを後にしたアイゼンとルナは、料理屋に向かった。


アイゼンとルナがテーブルに着くとルナが料理を注文した。


すぐに白身魚しろみざかなのフライと茶色いパンがはこばれてきた。


「ルナ。結局、オーガストさんとの戦いでうでは切られたの?」


「ええ。たしかに切られたわ。私が知る人間の限界げんかいはるかにえた速さだった。魔力による能力向上だと思うけど想定外だったわ。貴重きちょう経験けいけんだったわね」


「そうなんだ。俺、オーガストさんの剣が全く見えなかったよ。あれが最強なんだね。まだ本気を見せていないと言ってたけど」


「そうね。真実かどうかは分からないけど、魔道具を装備そうびして魔法を使った戦い方をしてくると予想されるわ。だとすると魔力の事をもっと知る必要があるわね」


「そうだね。剣の訓練くんれんをルナとやってるけど、あそこまで強くなれる気がしないよ」


「魔力をうまく使えた人間が到達とうたつできる領域りょういきなんだと思うわ。剣の技量ぎりょうだけではなく魔力のあつかいも強さの秘訣ひけつだね。強さと言えばアイゼンには魔盾の魔法があるじゃない」


「まあね。でも、範囲はんいが広すぎて気軽に使えないんだよね。一日一回だし。だから基本的な戦いの技術を上げて行かないと。魔力の操作そうさもね」


「アイゼンは強くなってるよ」


「ありがとう」


アイゼンは白身魚のフライを口に運んだ。


「そういえばさ。オーガストさんの魔剣の能力って、爆音がれた本人にだけ聞こえるんだよね」


「ええ。すさまじい音量だったわ」


「へえ。幻聴げんちょうの魔法なのかな。分からないけど」


「そうね。魔法は本当になぞ現象げんしょうを引き起こすわね」



アイゼンとルナが食事をしているとオーガストが料理屋に入ってきた。


オーガストは店内を見渡みわたすとアイゼンとルナを見つけた。


すると、アイゼンとルナがすわっているテーブルににやけながら近寄ってきて、何も言わずにテーブルに座った。


オーガストはむき身の魔剣をかべに立て掛けた。


奇遇きぐうだな。また会ったな」


「そうは見えなかったけど。ところでなんで剣の刃がむき出しなの?」


盗難防止とうなんぼうしだ。盗人が剣にれると爆音で卒倒そっとうするからな。それにすぐ戦えるだろ。さやとか面倒めんどうだし」


「持ち手にも効果こうかがあるの?」


「ああ。魔剣を所有するには資格が必要なんだ。俺様はえらばれた人間なんだよ。魔力をあやつれねえ奴はこの魔剣を持てねえ」


「そう」


「反応がうすいな。まあ、いいけどよ。腹減はらへった。お前ら、美味しそうなもん食ってんな。おーい。注文だ。ワインけした羊肉のし焼きと白身魚のフライとヨーグルトソースが掛かった塩漬けのニシンとローストポークのドライフルーツ掛け。あとエール」


オーガストは近づいて来た店員に料理を注文した。


「あいよ」


しばらくして大量の料理が運ばれてきた。


「美味そうだぜ」


「大食いなのね」


「まあな。それにお前のおごりだしな」


「・・・。まあいいでしょう」


「やったぜ」


オーガストは一心不乱いっしんふらんに食べ始めた。


ひとつ目の皿を空にしたところでルナがオーガストに話しかけた。


「一つ聞きたいことがあるんだけど」


「なんだ? 彼女はいないぞ? 募集中ぼしゅうちゅうだ」


「あなた、私の腕を本気で切断せつだんしに来たけど、中級ポーションで腕はつながるの?」


「繋がらねえよ。生えても来ねえ。そんな便利べんりなもんじゃねえ。どっかに上級ポーションねえかなあ。早く開発しろってんだ」


「私がけなかったらどうするつもりだったのかしら」


「死にはしねえよ。中級ポーションだぞ」


「そう。誰もあなたと戦いたくないわけだわ」


「そんくらいの覚悟かくごがねえ奴は強くなんねえよ。そういやお前、『竜王の庭園ていえん』のゴーレムどもをたおしたそうだな」


「私たちだけではない。『レッドビーク』たちもいた」


「ちっ。あいつらは戦力になってなかったろ。俺様より弱ええし」


「あなたはなぜ行かなかったのかしら?」


「あいつらが占拠せんきょしてたからな。俺様だったら余裕よゆうだった」


人見知ひとみしりなのね」


「ちげえよ。俺様はパーティー『フロウ』のリーダーでクラン『ケンタウルス』のトップだぞ」


「そうだったわ。竜王の庭園には行くの?」


「さあね。知りたいか?」


興味きょうみないわ」


「ぎゃははっ。だろうな。そういやお前らセイジって言う冒険者を知ってっか? お前らと同じ黒髪の冒険者だそうだ」


「知らないわ」


「そうか。そいつはソロで『きりの森』っつうダンジョンを攻略こうりゃくし、しろの魔剣を手に入れたそうだ。その魔剣、俺に売ってくんねえかな」


「あなたならダンジョン攻略は可能なのでは」


「楽勝だけどよ。剣が依り代とは限らねえだろ。買ったほうが早い」


「そうだね」


アイゼンは二人のやり取りをだまって聞いていた。


(冒険者っぽく話せってルナに言ったのは俺だけど、他人には丁寧ていねいに話してっていうべきだったな。もうおそいけど)


すると、オーガストがアイゼンを見た。


「アイゼンは何でしゃべんねんだ? 人見知りか?」


「アイゼンはノドにポーションでは治癒ちゆできない面倒めんどう怪我けがっているの。そのせいで今は声が出せない」


ルナがオーガストの問いに答えた。


「ほーん。なるほどね。まあ、気を落とさずに頑張がんばれよ。ぎゃはは」


オーガストはアイゼンの方をバシバシたたいた。


アイゼンはうなずいた。


オーガストはエールを飲んだ後、ルナに言った。


「ふう。そうそう。マーキュリアスに向かうお前らのために護衛ごえいの依頼を受けといたから。感謝かんしゃしろ」


「どういうこと?」


「言ったとおりだ。まだ受けてないんだろ? 俺様って親切だよなあ。ここに依頼主いらいぬしがやってくるから挨拶あいさつしとけ」


丁度ちょうどその時、商人の男が店に入ってきた。


商人は店内を見渡すとオーガストを見つけテーブルにやってきた。


「オーガストさん。こんにちは。そして初めまして『女神』の皆様。私が依頼主であるマグノリア商会のアンドレイともうします。まさか第1級の冒険者に護衛をしていただけるとは光栄こうえいきわみ。よろしくお願いします。オーガスト殿どのには日ごろからお世話になっておりまして、急に店に顔を出されて何事かと身構みがまえましたら『女神』様を紹介しょうかいしていただいたのですよ」


「そう。他の冒険者は?」


「二組の冒険者パーティーがいます。ただ『女神』様の足手あしでまといにならないかと心配です」


オーガストが料理を食べながら口をはさんだ。


「心配すんな。『女神』が全部やってくれっから」


「おお。さすが『女神』様。今は高位の冒険者が不在でしてオーガスト殿の提案ていあんはまさにわたりにふねでございました。王国東部はあまり豊かではなく街の開発がおくれているうえ、盗賊が多いので少々心配だったのですよ」


「大船に乗ったようなもんだ。お前は荷馬車にばしゃててもいいぞ」


「それもそうですな。冗談じょうだんでございます。はっはっは。では、明日の早朝に城門でお待ちしております。荷馬車が10台の隊商たいしょうでございます。第1級に護衛してもらえるのならと荷馬車を増やしたかったのですが、無理でした。急でしたのでね。残念です。ルナ様、護衛のリーダーをしていただけませんか」


「わかりました」


「ありがとうございます。第1級のルナ様ならば冒険者たちを容易たやすくまとめることが出来るでしょう」


「この街の冒険者は俺様が教育してっから、こき使っていいぞ。ぎゃはは」


「あなたではないから適切てきせつに指示するわ」


「さすがルナ様。では私はこれにて失礼します」


依頼主のアンドレイは店に帰っていった。


オーガストはあっというまに料理を食べ切った。


「んじゃ。俺様も帰る。ごちそうさん。白の大地で会ったらお返しにおごってやんよ」


「それはどうも。期待きたいはしないわ」


「ぎゃはは」


オーガストは店を出て行った。


「はあ。勝手に依頼を決められちゃったね」


ことわる?」


「いや。受けようか。どうせ行かなくちゃいけないんだし」


アイゼンとルナも店を出るとそのまま宿屋に向かった。





翌朝、アイゼンとルナは城門に向かうと、すでに隊商と護衛の冒険者たちがいた。


依頼主のアンドレイが護衛に参加する二組の冒険者パ-ティーのリーダー二人を引き連れて、アイゼンとルナの所にやってきた。


「おはようございます。女神様」


「おはようございます」


ルナが返事をし、アイゼンは軽く会釈えしゃくを返した。


「こちらが女神様と共に護衛をしていただく冒険者パーティー『ダーク グリーン』のエンリケさん。『ダーク グリーン』は20人の大所帯おおじょたいのパーティーです。もう一人が冒険者パーティー『ライト グリーン』のカーターさん。こちらは10人組ですな」


「『ダーク グリーン』のリーダーをやってるエンリケだ。第1級と仕事ができるなんて光栄こうえいだ。よろしくな。全面的に指示を聞く」


「『ライト グリーン』のリーダー、カーターだ。同じく何でも協力させてもらうぜ。よろしくな」


「よろしく。我々は冒険者パーティー『女神』。私はルナ。彼はアイゼン」


挨拶あいさつが終わったところでアンドレイが隊商の予定を話し出した。


「次の街までは日がれる前に着きます。今日はそこで休みます。では出発しましょう」


依頼主のアンドレイが荷馬車の先頭せんとうに向かった。


ルナがエンリケとカーターに指示を出した。


「女神が先頭を行きます。『ダーク グリーン』は荷馬車の2台めから6台目までを。『ライト グリーン』は7台目から最後尾さいこうびまでの場所で護衛をお願い。編成へんせいまかせます」


「わかった」」


隊商はディープブルーの街をはなれ、領都マーキュリアスに向かった。


ディープブルーはワーブラー領の西端に位置している。


ワーブラー領はアルケド王国の北東にある東西に長い領地で北で海に面している。


ワーブラー領の東側は湿地帯しっちたいが広がり、河川や多くの湖が点在てんざいしている。


アルケド王国の東部にはワーブラー領、マーキュリアス領、シャルトルーズ領があり、30年前にほろんだエクリュベージ王国と国境こっきょうを接している。


アルケド王国とエクリュベージ王国との国境には魔獣の侵入しんにゅうふせぐために長城が造られている。


ワーブラー領のディープブルーからマーキュリアス領の領都マーキュリアスまで街道が南東に通っており、まようことなくたどり着くことが出来る。


距離はおよそ350キロメートルだ。




日が暮れる前に隊商は『フレッシュ ウォーター』の街に到着とうちゃくした。


フレッシュ ウォーターの街は七つの湖に囲まれている。


街の東には一番大きな湖があり、その湖に浮かぶ島に街の代官だいかんが住む要塞ようさいのような居城きょじょうが建てられている。


先頭を歩くルナに御者席ぎょしゃせきに座るアンドレイが声を掛けて来た。


「この街から先は領都マーキュリアスの近くまで町や村はありませんので、野宿のために造られた広場でまることになります。この街でゆっくりお休みください。野営やえいの道具や食事は我々が用意いたしますのでご心配なく」


「わかりました」


隊商は城壁に囲まれたフレッシュ ウォーターの街に入り、全員で食事をませ宿屋にまった。



早朝、隊商は領都マーキュリアスに向かって出発した。


アルケド王国東部には広範囲こうはんいに森が広がっており、隊商は森の中を通る街道を進んでいた。


フレッシュ ウォーターの街を出発して数日は何事もなく順調じゅんちょうに進んでいた。


隊商が街道を進んでいると森の中にそびえる岩山を通りぎた。


そのころ、森の中では弓矢がさった血だらけの魔鹿が森の中を疾走しっそうしていた。


魔鹿の背後には5体の魔獣がいた。


魔鹿はその魔獣から逃げていた。


ルナは魔獣たちの接近せっきん感知かんちした。


ルナは手を上げて荷馬車に停止ていし合図あいずを出し声を掛けた。


「荷馬車は停止をしてください」


隊商がゆっくりと停止ていしした。


「護衛のリーダー。集まって」


ルナが護衛の冒険者たちのリーダーをあつめた。


「こちらに魔獣が接近して来てるわ。それに盗賊たちも。盗賊たちはこの先の森にひそんでいるわ。魔獣が我々を蹂躙じゅうりんした後、おそってくるつもりのようね」


「なにっ」

「どうしたらいいんだ」


「我々が魔獣を対処たいしょする。皆さんは我々が魔獣を攻撃をしたら前に移動し、荷馬車のかげかくれて、盗賊たちにいつでも攻撃できるようにそなえていて。盗賊の数人が弓を持っているので注意ちゅういを」


「わかった」」


二人は指示を伝えるため自身の冒険者パーティーの所に向かった。


ルナとアイゼンは護衛たちから離れ、森に近づいた。


「アイゼン、近づいてくる魔獣たちの中心に向かって魔盾の魔法『君臨くんりん』の発動はつどうをおねがい」


「わかった」


アイゼンは魔盾をかまえた。


合図あいずを出すので準備を」


アイゼンは詠唱えいしょう開始かいしした。


すると、木々の間を走る一頭の巨大な鹿が見え、その後ろに犬の頭部をした黄色いうろこの巨大なトカゲが確認かくにんできた。


大トカゲの魔獣がケガをした魔鹿をっているようだ。


巨大な魔鹿よりさらに大きいトカゲが先をあらそうように魔鹿をねらっていた。


護衛の冒険者たちも木々の隙間すきまから魔鹿と巨大なトカゲの姿が確認できた。


「あれは、ミャラだ。するどい歯とつめを持つ獰猛どうもうなトカゲの魔獣だっ」


護衛の冒険者たちが口々にさけんだ。


大トカゲに追われた魔鹿は真っすぐに、隊商に向かって突撃とつげきしてきた。


「アイゼン。発動を」


「わかった。『君臨くんりんする者。灼熱しゃくねつから守護しゅごし、閃光せんこうさえぎる者。すべてが燃え上がる大地。そのすべてをてつかせるたて』」


詠唱が終わると、森の中を走る魔獣たちの中心で極寒ごっかん吹雪ふぶきれた。


吹雪が止むと3つの氷柱が出現しており、すぐに爆散ばくさんした。


森の中に無数の氷のかたまりが飛び散り、魔獣たちをおそった。


ルナが魔獣たちの中にんでいった。


ルナはまだいきのある魔獣たちを宝槍でとどめをしていった。


その時、盗賊たちが大声を上げながら姿を現したが、予期よきせぬ状況じょうきょう戸惑とまどっていた。


「なんで魔獣たちが全滅ぜんめつしてんだっ」


準備をして待ちかまえていた冒険者たちが盗賊たちの襲い掛かった。


アイゼンもその中にいた。


(買ったばかりの魔法を食らえ。『石礫いしつぶて』)


盗賊たちに向かって複数の小石がはなたれた。


「ぎゃっ。痛ええっ」」」」

「ぐっ。魔法使いがいるぞっ」

「お前らあわてんなっ。むかてっ」


「ぎゃーっ。お頭っ。冒険者の数が多いっ」

「ぎゃーっ」」」「ぐわっ」」」」


いつの間にかルナも合流しており、冒険者たちを助けながら盗賊たちを無力化していた。


後手ごてに回った盗賊たちは冒険者たちに一方的に壊滅かいめつさせられた。


冒険者のリーダーたちがルナの所にやってきた。


「お疲れ様。けが人は?」


「いや、いねえ。さすが第1級だ。手際てぎわがいいな」

「ああ。まったくだ。こっちも怪我人けがにんは出なかったぞ」

「相棒の魔法もすごかったな。さすがルナさんと一緒いっしょにいるだけある」

「そうだな。魔道具の盾なんだろうな」


「あなたたちの能力も高かったわよ」


「へへっ。ありがとよ」

期待きたい裏切うらぎらないようにするよ」


二人は護衛の場所にもどっていった。


隊商は出発した。



隊商は野営地やえいち到着とうちゃくすると10台の荷馬車でかこいを作り、その中でテントをったり食事の準備など野営の準備を始めた。


ルナが冒険者たちに声を掛けた。


「冒険者の皆さん集まって」


すぐに冒険者たちが集合した。


「私たちが最初に見回りをするので、皆さんは食事をませて。その後、二人一組で夜の見張みはりを交代こうたいで行ってちょうだい。順番は各パーティーにまかせるわ」


「わかった」」


何事もなく朝をむかえた隊商は、日の出と共に出発した。




数日後、隊商は領都マーキュリアスに近い街『ライト ブルー』にたどり着いた。


アンドレイが街の説明を始めた。


「この街は領都マーキュリアスの北西にあります。領都まで目の前ですね。領都の南西には第2都市ディール グリーンがあります。人口は1万人ほどですね」


「そうですか」


城壁の近くには多くの路上生活者が座っていた。


そのライト ブルーの街は小さく、あまり豊かではなかった。


御覧ごらんの様に東部は路上ギルド員の数が非常に多いです。王国東部には30年前にほろんだ国からの難民なんみんが多く流入しており、森の中に勝手に村を作ったりしています」


「それは大変ですね」


「ええ。王国も何とかしたいと思っているようで東部開発を進めているのですが、この領地は森深く開発がなかなか進んでいません」


隊商は街で一泊し、早朝に領都マーキュリアスに向けて出発した。


広大な森の中にきざまれた道を進んでいると領都マーキュリアスの姿が見えて来た。


森の中にある領都マーキュリアスは堅牢けんろうな城壁で囲まれた巨大な街だ。


城壁に隊商が近づていくと、街の外側の城壁に沿って粗末そまつ素材そざいで作られた小さな建物が乱立らんりつしてた。


街の中に入り切れなかった路上生活者が街の外で多数生活しているようだ。


隊商は北門から領都の中に入った。


領都には18か所の城門が設置されている。


領都の周辺にはいくつもの湖が点在し、城壁に囲まれた街の中を川が横断おうだんしている。


隊商は石畳の大通りを通り、街の中心に向かった。


大通り周辺は4階建ての石造りの建物が立てられており、それ以外は2階建ての石造りの建物が密集みっしゅうして建てられていた。


街の中心には広場があり、そこには竜神教会、冒険者ギルド、そして赤煉瓦あかれんがで造られた役所が建っており、それらを中心にして街が形成されていた。


隊商は中央通りに建つ依頼主の店に向かった。


しばらくして隊商はマグノリア商会の店の前に着いた。


依頼主のアンドレイが冒険者たちの前に立った。


「冒険者の皆様、ここまでの護衛ご苦労様でした。何度も魔獣や盗賊に遭遇そうぐうしましたが、皆様のおかげで無事に領都マーキュリアスにたどり着けました。『女神』のお二人とはここでお別れとなります。女神のお二人には大変助けられました。流石第1級です。しかもルナ様はこれから白の大地の魔獣の退治に向かわれるそうです。王国のため、そして国民のために命がけで戦って頂けることに感謝を。ルナ様、アイゼン様にご武運を」


「ありがとう。隊商の皆さん、冒険者の皆さんが無事に誰一人欠けることなくディープブルーの街に戻ることを願っています」


「ありがとうございます」


アイゼンとルナは隊商の護衛を終え、その場を離れた。



アイゼンとルナは料理屋に向かった。


アイゼンとルナが料理屋に入るとルナが料理を注文した。


食事が運ばれて来てアイゼンが食べようとしたところ、見知らぬ女性がやってきた。


その女性は背が高くげ茶色の髪の毛で、服装から見るに裕福ゆうふくそうな地元の女性のように見えた。


「こんにちは。アイゼンさん。ルナさん。少しお時間いいかしら」


その女性はアイゼンの出身国である八島の言葉で話しかけて来た。


「っ!?」


アイゼンはびっくりして食事の手が止まった。


「はい。なんでしょう。あなたは人間ではないわね」


「ええ。あなたと同じアンドロイドです。私は八島所属の現地駐在員げんちちゅうざいいんのカレンと申します。一昔前、八島で『神隠かみかくし』が頻発ひんぱつした時代があり、世界各地に飛ばされた八島住民を保護するために我々アンドロイドが派遣はけんされました。アイゼンは久しぶりの事例です。現在は各国の調査のために活動しております。アイゼンにはアンドロイドのルナがいましたので今まで接触はひかえていました。同時期にアイゼンの他にもここに飛ばされた人物がいますが、その方にも接触はしておりません。その人物に関して『女神』にとある提案ていあんをするために会いに来ました。その人物の名はセイジと言います。セイジに会ってただきたい。間もなくこの街にやってきます」


「なぜあなたが接触しないの?」


ルナがカレンに聞いた。


「セイジは特殊とくしゅ状況じょうきょうに置かれています。そのせいで慎重しんちょう対応たいおうせざるをえません」


「私たちが接触せっしょくしてもいいの?」


「はい。セイジもあなた方も冒険者ですから」


言葉がわかるアイゼンだったが状況について行けず、二人のやり取りをただながめていた。


「それでセイジに接触して何をすればいいのかしら」


「セイジも八島出身者ですが、彼はそのこと知りませんので、そのことは秘密ひみつにしてください。また彼は異世界出身で異世界からこちらの世界に来たと思っています。セイジは実際に異世界から来ています。その彼に八島に帰るためのヒントを与えて欲しいのです。東に巨人がいると。この世界の事を知りたければその巨人に会えと。帰るかどうかはセイジが決めることですが、セイジにそう伝えてください。その巨人は巨大な質量を持つ女性のアンドロイドです。彼女の名前は佐那さな。彼女の名前もアンドロイドだという事もセイジには秘密でお願いします」


アイゼンは異世界という言葉に反応した。


(異世界? 異世界があるのか)


「わかったわ。それだけなの?」


「もう一つはルナに対する提案です。私たちがつながっているアンドロイド専用ネットワークに加入しませんか?」


「ネットワークですか。確かにここにはないですね。なぜあなたは繋がっているのですか?」


「現在製造が中止されているアンドロイドですが、今も動いているアンドロイドが情報の交換こうかん共有きょうゆうをするために独自で作ったネットワークです。アップデート情報もあります。我々のネットワークに加入していただければ、情報やスキルを自由に使っていただいて構いません。質問もどうぞ。佐那さなもアンドロイド専用ネットワークに入っています」


「なるほど」


「あなたは初期型のアンドロイドで使用できる能力も初期設定のままです。我々の仲間になれとはいいません。ネットワークに加入すればあなたにとって有益な情報がいつでも手に入りますよ。加入するかどうかは契約者であるアイゼンと相談そうだんしてください」


「そうね。こちらから質問しても?」


「どうぞ」


「この地域には私やあなた以外に稼働かどうしているアンドロイドはいるの?」


「ええ。八島以外のアンドロイドも複数体確認しております。その方々には接触しないことをおすすめします」


「なぜそのアンドロイドの契約者をさそわないの?」


「その方々の行動に共感きょうかんできず、価値観かちかんが違うからです。この地域でアンドロイドを使っている契約者とはあいいれません」


「そう」


「出来ればルナがアンドロイドとは知られないように行動した方がいいでしょう。そのアンドロイドの契約者からねらわれる可能性が高いです」


「なぜアンドロイドをねらうの?」


「その者たちは古代魔法文明、すなわち八島のような白砂システムを維持いじしている国をさがしています。ギルドカードのような基礎的な情報ではなくもっと高度な情報を欲しています。この地域にも白砂システムは存在しますが、表立って行動をしない主義のようです。古代竜たちによる被害ひがいが大きかったことが関係しているのでしょう。王国の上層部とはかかわりを持っていますが、人間社会の発展はってんを急いではいないようです。何やら動いてはいるようなので、いずれあなたたちと出会うことがあるかもしれませんね」


「なるほど」


「あなたがネットワークに加入するしないに関わらず、セイジには接触していただき伝言を伝えていただきたい。場所や時期は問いません」


「わかった。ネットワーク加入については契約者であるアイゼンと相談するわ」


「それでかまいません。これを」


カレンはテーブルに透明とうめいな玉を置いた。


「この玉を取り込むとネットワークに加入できます」


ルナはビー玉のような透明なかたまりを受け取った。


「セイジの能力について説明せつめいします。彼は様々な能力を持っていますが、その中でも強力なのがテレポートです。セイジがルナを見て逃げる可能性もあるので見失わないよう気を付けてください」


「どういう意味ですか」


透明とうめい結界けっかい展開てんかいします。物理防壁ぶつりぼうへきですね。それ以外にも様々な魔法を使います。くわしく知りたい場合はネットワークにセイジの情報をせていますので調べてください」


「加入した場合は利用させてもらうわ」


「それからアイゼンが地元じもと洞窟どうくつから持ち去った宝槍について持ち主から情報提供があります」


アイゼンはびくっと体をふるわせた。


「宝槍の名は『大師たいしの槍』。本来は長短不揃ちょうたんふぞろいの2本1組の槍です。アイゼンが持ち去った槍は長い方で、短槍は別の所に保管されています。見たところ長槍が短くなっていますが」


「私が戦闘で破壊はかいさせてしまった」


「そうですか。『大師の槍』には4つの能力がありますが、一つだけ教えてもいいそうです。能力名は『大師講吹雪だいしこうふぶき。一人目。北颪きたおろし』。能力を発動するといちじるしい天候てんこうの急変が起こり、対象を極寒ごっかんの風と吹雪ふぶきおそいます」


やっと落ち着いてきたアイゼンが会話に入った。


「おお。すごいですね。あの。家族や住職じゅうしょくに元気だと伝えることは出来ますか?」


「はい。心配にはおよびません。アイゼンが外国に転移てんい行方不明ゆくえふめいになったことはすぐに感知かんちしており、両親や住職に知らされております。アイゼンの関係者にはアイゼンの状況を『神隠し』にあった瞬間からリアルタイムで情報提供しております。安心して帰国してください」


「そうなんだ。心配かけちゃってるな。でも情報が伝わってるから安心か。ん? 俺のやっていたことすべてが筒抜つつぬけってことか。ライブ配信もやってんのかな。はあ。まいったな。そういえば、ここの白砂システムと接続できないんですけど」


「ここにも白砂システム管理者がいますが、世界崩壊後からそれぞれが独自に発展をげ、八島の白砂システムとは互換性ごかんせいがなくなっています。おたがいがあゆみ寄ればすぐに接続することは出来るはずですが、戦略せんりゃくの方向性が違うため今だ実現していません」


「そうなんだ」


「話は以上です。では失礼いたします」


カレンは店の外に歩いて行った。


セイジは注文していた塩漬け豚のすね肉を煮込にこんだ料理に手を付けた。


えてる」

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