第163話【指定封印/閲覧不可】№11-03
「……ったく、バカ共が」
シュタイズたちが騒いでいるのを放置して、スカッテンがアーベントたちのところへやってくる。
「あいつら、そのままでいいんですか?」
「ああ、どうせこのあとに部下たちが救援代を取り立てるからな」
何を思ったのか、怪我を治したシュタイズたちは、その怪我を治すのに使った回復薬を渡したビィーに襲いかかろうとしていた。
しかし、そのまえにシュタイズたちを運んできた先生役のスカッテンの部下が、彼らを捕まえ、集会所へ連れて行く。
「さて、今回の件、おまえたちはどう思った?」
指導役として、アーベントたちと共に『魔境』に探索してくれるようになったスカッテンは、質問してくる。
これも、指導の一環なのだろう。
スカッテンの問いに、ズゥーハは、少し悩みながら答えた。
「どんなに強力な武器を持っていても、『魔獣』がどこにいるのか探知できないと、意味がないのだと思いました」
ズゥーハの答えに、スカッテンは満足げにうなづく。
「……私は、余裕が必要だなって。お金があるからって、考えなしに使うと、何かあったときに対処できなくなる」
ネッフは、救援代として、『魔聖具』の武器を取られようとしているスシュタンを冷めた目で見ながら言う。
「それもそうだな。特に、パーティーを組んだ時は、資金の管理が重要になる」
「私はーそうだねーいろいろ気にはなっているんだけどー」
ジュエンは、言葉を溜めて言う。
「あんな奴らのことよりも、ビィーたちだねー。ビィーたちが持っている『魔獣』の体って、レベル1や2じゃないよね? どんだけ強い『魔獣』を倒したんだろうねー」
「えっ?」
「置いていかれるなぁー。ねぇ、スカッテン先生。ビィーたちが倒した『魔獣』って、先生たちは倒せるの?」
ジュエンからの質問に、スカッテンは大きく息を吐く。
「また、答えにくいことを……どうだろうな。あいつ等が倒したのが『水の魔境』の『パドル・クラーケ』だったら……場所によるな。慎重に計画を建てて、有利な場所に誘い込む必要がある」
「へぇーそんな『魔獣』をビィーたちは簡単に倒したんだーすごーい」
「簡単って、そんなことわからないじゃない」
ズゥーハの指摘に、ジュエンは笑う。
「え? どう見ても簡単に倒しているでしょ、あれ。鎧には傷は入っているけど、体は大丈夫そうだし、それに……」
「最後はアーベントだ。どう思った?」
ジュエンの話を打ち切って、スカッテンはアーベントに聞いた。
アーベントは、大きく息を吸い込む。
「まずは、ビィーの慈悲深さですね。これまでの『魔獣』を倒した功績を自分のモノだと吹聴する奴らに対して、回復薬を配るなど……なんて優しいのだろうと。ただ、同時に、ビィーの優しさを勘違いして吠える奴らがうるさくて、感動が薄れたのは残念でした。本当に、あいつ等ずっと邪魔だったんですよね。一緒に行動していた時から。俺はビィーの技術を学びたかったのに、出てきた『魔獣』のことでギャイギャイ騒いで……っと。あんな奴らのことよりもビィーですよ。今日も身につけていた鎧をみましたが、汚れはあるのに他の人たちと違って傷はついていなかった。これだけで、その技術の高さがわかるというモノ。それに……」
「……は?」
ぺらぺらと早口で答えるアーベントに、スカッテンは呆気にとられる。
「……あ、違う。すみません、間違えました」
「あ、ああ……それならいいんだが……」
「……そういえば、ああいうアーベント久しぶりにみたね」
「アーベント、気に入ったことに対しては早口でものすごくしゃべる」
幼なじみ二人の評価を聞いて、スカッテンはもう一度アーベントをみる。
見た目は、無口で冷静そうな少年だが、意外な一面もあるものだ。
一方、アーベントは仕切り直すように、こほんとせきをする。
「あー、そうですね。素直に、スゴいと思いました。レベル5の『魔獣』を倒したのに、そこまでの消耗はしていないようですし、それに、確信したこともあります」
何とか、語りすぎないようにしているのか、ところどころ口をわざとらしく閉じている。
「確信?」
「はい。ビィーは、『間引き』をしている」
「あー……しているだろうね、たぶん」
アーベントの意見を、ジュエンは肯定した。
「『間引き』って?」
よくわかっていないズゥーハは、アーベントに聞く。
「この島の『魔境』にいる『魔獣』の数を減らしているんだよ。探索している間に、こっそりと。だから、ビィーたちが探索したあとの『魔境』に行くと、『魔獣』の数が少ない」
今回、シュタイズたちはビィーたちが探索してからもっとも期間のあいた『木の魔境』に向かって、『魔獣』に襲われている。
「……そのとおりだ」
アーベントの予想を、スカッテンは肯定する。
「知っての通り、『魔境』にいる『魔獣』は10日前後でその生息数を元に戻す。この島にある『魔境』は奥地を開放していないから元に戻っても大した数じゃないが、普通に探索すれば、一度は出会うくらいの数にはなる。だから、通常は子供たちが訓練をする間は、先生役の冒険者が『間引き』をしているんだ」
「え……」
ズゥーハとネッフは驚いた顔をしている。
「アーベントとジュエンは気づいていたか」
「まぁねー。子供だけで『魔境』を探索させるなんて、普通はしないし、何かしているかなって思っていたよー」
「ビィーが来る前は、『魔境』を探索しても一度も『魔獣』に会えなかったので。でも、先生たちが『間引き』をしていたのは、ビィーが来るまで、ですよね?」
「ああ、ビィーが来てから、俺たちは『間引き』をしていない。別の仕事もあるからな……」
そういって、スカッテンは波止場がある方角に目を向けていた。
「スカッテンさん?」
「いや、何でもない。そろそろ戻るか。ああ、その前に、今回の探索の報酬をもらおうか」
アーベントは、スカッテンに袋を渡す。
その中には、4つの『魔石』が入っていた。
「俺への報酬は、『魔境』の探索で入手した『魔石』の半分。こうすれば、俺はおまえたちに『魔獣』を倒してもらうために探知の方法を含め、指導する必要がある。よく考えたもんだ」
この報酬を提案したジュエンは、のんきそうに笑っていた。
「で、どうする? 最初は10日間の指導を希望していたが……」
アーベントは、確認するようにズゥーハたちを見る。
少女たちは、何も言わずにうなづいた。
「継続して、ご指導いただいてもよろしいですか? 今日、シュタイズたちも襲われたし……ビィーは、もっと倒しているんですよね?」
ビィーたちではなく、ビィー一人の『魔獣』の討伐数をアーベントは聞いている。
そもそも、『魔獣』の多くは群を形成している。
それなのに、一匹だけを連れてくるということは、ビィーは他の『魔獣』を倒していると考えるのが自然だろう。
「……正確な数は俺も知らないが……1000匹以上は倒しているだろうな、この30日で」
スカッテンの出した数字は、アーベントの予想を超えていなかったのだろう。
むしろ、その目に輝きが満ちているようである。
「ああ……やっぱり、ビィーはスゴい。俺たちに『魔獣』と戦う機会を与えてくれただけじゃなくて、影では自分も『魔獣』を倒し、そのことを一切誇らない。悟らせない。そもそも、どうやって倒しているんだろう。剣? 『魔聖法』? どれも使っているところは見たことがないけど……でも、体技はスゴいから、剣なのかな? ああ、どんな剣を使うんだろう。手合わせをしたいけど、いつも断られて……」
「よし、飯を食いにくいか」
「スカッテンさんがもう、順応している」
「アーベントも、慣れたからこういう反応を見せるようになったのかもね」
「お腹空いたー」
ぺらぺらとしゃべるアーベントを連れて、スカッテンたちは食堂へ向かう。
結局、アーベントたちはこの30日間、スカッテンに指導してもらうことになる。
結果として、彼らは自分たちだけでも『魔獣』を探知し、戦えるようになり、最終日にはスカッテンの助けが無くても、彼らだけでレベル2の『魔獣』の群を倒せるほどに成長するのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます