第162話【指定封印/閲覧不可】№11-02

「お、いたな」


「スカッテンさん!? なんで、ここに……」


「ん? そりゃあ、呼ばれたからだよ、アーベントに」


 スカッテンが、部屋の中を見回す。


「あー、もしかして、何の説明もしていないのか? アーベント」


「……そうですね。話そうと思っていたのですが、ちょっといろいろありまして」


 アーベントの視線が、泣いているネッフに向かう。


 その様子を見て、スカッテンも事情を察する。


「なるほど。けど、これからはこういう話の前に仲間で意見の共有はしておけ。揉める原因だからな」


「すみません」


「なんか、状況がよくわからないんだけど、話し合いの相手がスカッテンさんでいいのー?」


 ジュエンのどこか気の抜けた質問に、スカッテンが答える。


「そうだ。アーベントに呼ばれてな。内容は……『魔境』探索の指導を受けたい、というお願いごとだ」


 スカッテンが、ニヤリと笑う。


「指導って……どういうことよ。もう、指導の期間は終わったでしょう?」


 ズゥーハの疑問にアーベントが答える。


「実力が足りないと思ったからだ。だから、スカッテンさんに指導をお願いした」


「実力が足りないって、アーベントは、もう『魔獣』を何匹も倒しているんでしょう? なのに、足りないなんてこと……」


「倒していない」


 アーベントは、断言する。


「……え?」


「俺は、『魔獣』を倒していない」


 アーベントの答えに、ズゥーハは口をぽかんと開ける。


 一方、スカッテンは声を上げて笑った。


「ふはははっ!倒していないか。なるほど、お前はそう思ったんだな」


「ど、どういうことよ。光組は、100匹以上の『魔獣』を倒したんでしょう? アーベントが倒していないなんて……」


 ズゥーハはアーベントの実力を知っている。


 その剣の腕は、島にいる子供たちでも上位だろう。

 それは、すでに発表された順位からも証明されている。


 不思議そうに、アーベントを睨みつけているズゥーハの様子に、スカッテンは言う。


「説明してみろ、アーベント。お前のお仲間はよくわかっていないみたいだぞ? 仲間を納得させることが出来れば、次は俺の番だ」


「……わかりました」


 アーベントは、目頭に一度手をおくと、呼吸を整えて話し始める。


「……まず、さっきの光組が倒した100匹以上の『魔獣』の話だが……倒したのは、ビィーだ」


「え?」


 ズゥーハは明らかに驚いたように目を見開いている。


 一方、泣いているネッフはおいておくとして、ジュエンは特に反応はしなかった。


「ビィーって……でも、シュタイズは、ビィーは何もしていなかったって言っていたけど……」


「何もしていない? バカを言うな。何も知らないのはあいつ等だ」


 シュタイズの名前を出されたことで、まるで彼らに当たるようにアーベントはズゥーハに接してしまう。


「ご、ごめんなさい」


「いや、今のは俺が悪かった。えーっと……そうだな、ズゥーハたちも、『魔獣』を何匹かは倒したんだろ? どうやって倒した?」


「え、えーっと……」


「ナナシィとモゥモが『魔獣』の群を見つけて、私とサロンの『魔聖法』で攻撃して、残った奴らをみんなでボコボコ……って感じだったよー」


 ズゥーハの代わりに、ジュエンが答える。


「そ、そんな感じよ」


「……そうか。そのなかで、一番大切な役目ってなんだと思う?」


「それは……」


「そりゃ、ナナシィとモゥモがやってくれた『魔獣』の群を見つけることでしょ。次は、群を分断させた私たち……ね?」


「そ、そうね。私とネッフは、攻撃に参加しただけだから」


「つまりー?」


 ジュエンはズゥーハに笑いかけるが、彼女はただ戸惑うばかりだ。


「え、え?」


「アーベント、説明してやれ」


 まだわかってなさそうなズゥーハにアーベントは話す。


「『奥地』も解放されていない、この島の『魔境』では、『魔獣』には滅多に出会わない。生息はしているが、基本的に隠れているからだ。身を守るため。そして、獲物を狩るために。これは、最初の一ヶ月間の授業でも習っただろ?」


 こくこくと、ズゥーハは頷いた。


「たとえば、光組が何匹も倒したことになっている『デッドワズ』もそうだ。『デッドワズ』は、基本的に後ろから獲物の首を刈り取る習性がある。だから、レベル1の『魔獣』に指定されている。逆にいえば、正面から堂々と一匹ずつ戦うことが出来れば、『デッドワズ』はそんなに強くないんだ……普通の武器を持った子供でも倒せるくらいに」


 ここまで言ったところで、ズゥーハも気がついたようだ。


 口を閉ざして、息を飲んでいる。



「……ビィーはいつも俺たちがいるところにまで、『魔獣』を連れてきてくれていた。正面から、堂々と。群から引き離して、一匹や二匹ずつ。ここまでお膳立てされたら、倒せないレベル1の『魔獣』はいない……いや、そんなの『魔獣』じゃない」


 レベル1の『魔獣』を倒すのに、平民では武器をもった平民が5人必要になる。


 これは、森などで『魔獣』が身を隠している時を前提としている。

 

 逆にいえば、平地で正面から一匹ずつ戦うなら、『魔獣』などという指定はされていないだろう。


 それほどまでに、背後から奇襲されるのと、正面から戦うのでは、危険度は違うのだ。


「だから、俺は『魔獣』を倒していない。倒したのは、ビィーだ」


 ここまで話して、アーベントは一度息を整えた。


「俺は、自分の実力はまだ弱いと思っている。このまま、『魔獣』を倒したと慢心して行動すれば、必ず痛い目に遭う」


「シュタイズ達とか、絶対にそうだよねー。アイツらだけなら、『デットワズ』にも勝てないでしょ。高そうな武器を買っているみたいだけど、そもそもマトモに探索できるかなー」


 ジュエンが合いの手を入れる。


 シュタイズ達に対して、相当印象が悪いようだ。


「じゃあ、指導って……」


「スカッテンさんには、『魔獣』の探知方法を指導してもらいたいと思っている。指導料は払わないといけないが、ビィーのように、『魔獣』を見つけられるようになろうと真似してみたけど、全く出来なかった。ズゥーハは出来るか?」


「へ? いや、私は……」


「ズゥーハちゃんも、ネッフちゃんも無理無理だね。もちろん私も。さっきも言ったけど、『魔獣』を見つけたのはナナシィとモゥモだからー」


 ジュエンはそこで言葉を区切って、スカッテンをみる。


「っていうか、さっきの成績発表の順位。『魔獣』を見つけることができる順番だったりするのかなー?」


 成績発表では、ビィー、ナナシィ、モゥモが高評価だった。


「それも大きな要因の一つだな」


「へー……大きな要因かぁー……でも、一番じゃないんでしょー?例えば……一位になっても、一位になる必要がない、とか。上位の子たちは」


 ジュエンの指摘に、スカッテンの眉が動く。


「……これ以上の詮索はするな」


「うーん。じゃあ、かわりに指導はしてもらえますー?私が余計な事を調べる暇がないくらいにー」


 いつの間にか、ジュエンがスカッテンと交渉していた。


 アーベントは、ジュエンとスカッテンをそれぞれみる。


「幼なじみ組に混ぜてもらうんだし、これくらいはしないとねー」


「探って、何をしたいんだ?」


「別にーただ、玉の輿に乗れるかなって目をつけていた野郎共が思ったよりもくだらない男だったから、慎重になっているだけー」


 えへへとジュエンは笑う。


「で、どうなのかなー先生役のスカッテンさんー?」


「……これまでのアーベントの話で、状況は理解したか?」


ズゥーハも、ネッフもこくこくと頷いている。


「なら、指導はしてやろう」


 スカッテンは、頭をかいた。


「まぁ、元々、こういうのは想定していた。というか、言っただろ? 指摘があったって。『冒険者として重要な能力が足りていないモノがいる』ってな。だから、先生役として、指導を求めるなら、教えるさ」


「……その指摘をしたのは、誰ですか?」


アーベントの質問に、スカッテンは少し悩んでから答えた。


「……ビィーだ」











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