第159話【指定封印/閲覧不可】№12-05

「なんだよ、いるじゃねーか。最後の最後で見つかるなんて、運がいいんじゃねーの?」


「そうですね」


 ゼンカとシュタイズは、『デッドワズ』を見て嬉しそうに笑う。


 その横では、スシュタンが大怪我を負っているのだが、彼らは心配していなかった。


 あの程度の怪我、シュタイズ達が持っている回復薬でも、飲んで数日経てば治るだろう。


 その程度の怪我を見ても動揺しない程度には、彼らは冒険者だった。


「『デッドワズ』は一匹ですか。本当は群が良かったんですけどね。6匹以上の」


「ははは、まぁ、一匹でもいたから良かっただろ」


 ゼンカもシュタイズも、武器を構える。


『魔聖具』である、『剛雷の剣』と『炎の斧』。


 これらの武器があれば、『デッドワズ』など簡単に倒せる。


 そう、ゼンカもシュタイズも考えていた。


「メガネ! 離れて回復薬でも飲んでいろ! いくぜ! シュタイズ!」


「……ええ!」


 ゼンカのかけ声を合図にして、シュタイズとゼンカは『デッドワズ』に向かって駆けだした。


『デッドワズ』など、シュタイズたちはもう100匹以上倒している。


 強力な武器も持っている。


 苦戦する予感なんて、まったくなかった。


 負けるどころか、怪我をするなんて、思ってもいなかった。


 というか、彼らは考えていなかった。


 何もわかっていなかった。


「後ろだ! バカ!」


 突然、どこからか声が聞こえた。


 その声に、ゼンカもシュタイズもなんとか反応した。


 後ろだ、と言われたので見ようと思ったのだ。


 おかけで、首が落とされずにすんだ。


 シュタイズの首があった位置。


 今は、シュタイズの左肩がある位置に、斬撃が走る。


 シュタイズの肩が切れる。


「え……?」


 肩を切ったのは、もう一匹のデッドワズだった。


「ギギギ!」


「……な、これ、は」


 振り返り、シュタイズは驚愕で動けなくなる。


 それはそうだろう。


 シュタイズの背後には、『デッドワズ』があと3匹はいたのだ。


「うおおおお!? 痛てえええええ!?」


 ゼンカは背中を切られており、痛みに絶叫してた。


「ゼン……ぐぁ!?」


 声を上げたゼンカに気を取られている間に、シュタイズは左足に衝撃をうけて倒れてしまう。


 同時に、太股からおびただしい量の血が流れた。


 スシュタンの腕を切った『デッドワズ』が、シュタイズの死角から攻撃してきたのだ。


「な……くぅっ!?」


 シュタイズは起きあがろうとする。


 が、出来なかった。


 起きあがろうと地面に付けた手に別の『デッドワズ』が噛みついていたのだ。


「こ、の……ネズミが! 僕が誰だか……ぐぅっ!?」


 武器を振るおうとした手に、さらに別の『デッドワズ』が噛みつく。


「こ……ぐぅっ! な、僕は……このっ……『剛ら……ひぃっ! やめっ……!やめろ! 来るなっ!」


 次々に、『デッドワズ』がシュタイズの肉体を抉っていく。


「うぁあああああああああああ!?」


 生きながら体を食われる恐怖に、シュタイズは泣き、叫んだ。


 しかしその時間は長くは続かなかった。


 子供たちの安否を確認するために『魔境』の入り口近くで待機していた先生役の冒険者に、シュタイズたちは助けられたからだ(後ろを警戒するように叫んだのも彼らである)。






「後方の警戒も出来ないなんて、これまで何をやっていたんだ?『デッドワズ』みたいな群れで行動する『魔獣』が一匹だけ現れたら、後ろに注意するのは基本だろうに」


「いいから、さっさと運ぶぞ。拠点には連絡したか?」


「ああ、『風の遠声』で伝えている」


 血塗れになったシュタイズたちを、先生役の冒険者たちが荷台に乗せて運ぶ。


 安物の回復薬で応急処置はしているが、このままではシュタイズたちに命はないだろう。


 3人とも『デッドワズ』に全身を切り刻まれたのだ。


 体に欠損がないだけで、奇跡である。


(……なぜだ、なぜだ、なぜ僕たちが、『デッドワズ』ごときに……)


 怪我の痛みで意識が朦朧としながらも、シュタイズの思考は怒りで満ちていた。


(わからない、わからない……)


 荷台が拠点にたどり着く。


 アーベントや、ナナシィ、スカッテンなど、いろいろな人物の姿をシュタイズは確認する。


 そのなかには、もちろんビィーもいた。


(……なんだ、その目は)


 倒れているシュタイズを、ビィーが見ている。


 悲しそうな目だ。


 その目に、シュタイズは怒りを抑えられなかった。


(ビィーごときが、僕をそんな目で見るんじゃない!)


 シュタイズは、沸き上がる怒りを抑えることができなかった。


 起きあがろうとするが、しかし、シュタイズの体は動かない。


 せめて、文句でも言おうとシュタイズが口を開きかけると、彼の視線を遮るように一人の男がやってきた。


「『デッドワズ』にやられたらしいな」


 スカッテンだ。


 シュタイズを文字通り見下しているような目で見ている。


(こいつも……僕を……)


 ビィーのときと同様、怒りがこみ上げてくるが、スカッテンは一応先生であり、優秀な冒険者だ。


 冷静に、怒りを抑えて、シュタイズは言う。


「早く……治してくれ……」


 そんなシュタイズの懇願に、スカッテンは見下した目のまま答える。


「治療するのはいいが、金はあるのか?」


 スカッテンの答えは、シュタイズにとって困難の始まりだった。

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