PV稼ぎの美辞麗句

第154話 ナナシィ達の実力

　一方、炎の壁の向こうでは、もう一匹の『リスコウアッフ』と、モゥモが戦っていた。

「キャルルル！」

　小型のナイフのような爪を振り回す『リスコウアッフ』の攻撃を、モゥモは見事に避けていく。

　しかし、『リスコウアッフ』の本当の武器は爪ではない。

「キャル！！」

　大振りしてきた『リスコウアッフ』の爪を後ろに下がって避けたモゥモに、長いしっぽが襲いかかる。

　強靱なしっぽによる攻撃。

　それが『リスコウアッフ』の本当の驚異であり、彼らがレベル2の『魔獣』である理由だ。

　人の頭をスイカの様に一撃で砕くことさえ出来るしっぽの一撃は、モゥモの頭部に迫り……しかし、届くことはなかった。

「しっぽが危ないことくらい、知っている」

　モゥモは、二本の短剣を『リスコウアッフ』のしっぽに深々と刺していた。

　短剣を刺すことで、盾の代わりにしっぽの攻撃を受けたのだ。

「ギャ……ギャァルウウ！」

　大事なしっぽに刃を刺されて、『リスコウアッフ』は逆上する。

「怒った獣は怖いけど……動きは単調になる」

　振りかぶり、振り下ろされた『リスコウアッフ』の爪。

　その爪を、最小限の動きでモゥモは避ける。

「ガャ！？」

　腕に、短剣を突き刺すというおまけ付きで。

「どんどん、削る」

　モゥモの手には、さらに二本、短剣が握られていた。

「ギャルルウ！」

『リスコウアッフ』はモゥモに攻撃をしかけるが、そのたびに体に短剣が刺さっていく。

　そして、体に十数本の短剣が刺さった頃、『リスコウアッフ』の動きは目に見えて遅くなった。

「ギャルウウ！」

　それでも、『リスコウアッフ』は攻撃をやめない。

　もはや、ただ抱きつくだけのような『リスコウアッフ』の攻撃を、モゥモは大きく避けた。

「やぁあああああ！」

「ギャ！？」

　モゥモの背後から、トドメの準備をしていたナナシィの攻撃を当てるために。

　大きく、力強く振り下ろされたナナシィの薙刀は、『リスコウアッフ』の脳天を割った。

　完全に『リスコウアッフ』の死亡を確認した二人は、すぐにサロタープの元へ向かう。

「お待たせしました！」

「待ちましたわ！」

　盾と『魔聖法』を使い、『リスコウアッフ』の猛攻に耐えていたサロタープは、肩で大きく息をするほどに疲れていたが、目立った怪我はなかった。

「キャルル……」

　一方、サロタープと戦っていた『リスコウアッフ』には、全身に細かいやけどが出来ている。

「モゥモ、トドメ」

「わかった」

「やぁああああ！」

　ナナシィは薙刀を『リスコウアッフ』に向けて振り下ろす。

　猿のような魔獣である『リスコウアッフ』はその見た目のとおり、素早い動きを得意としている。

　そのため、たとえ全身に細かいやけどがあっても、ナナシィの薙刀など簡単に避けてしまう。

「キャルルル！」

　そして、攻撃をしてきたモノは、お得意のしっぽでの反撃が待っているのだ。

　もちろん、しっぽでの攻撃こそが、『リスコウアッフ』の本命であることを、ナナシィも知っている。

　ゆえに、ナナシィは薙刀から手を離した。

「……ギィ！？」

『リスコウアッフ』のしっぽが、地面に落ちる。

「ふぅー」

　切り落としたのは、ナナシィの剣だ。

　薙刀から手を離したナナシィは、腰に下げてた剣に持ち替えたのである。

「剣はあまり、得意ではないのですが……」

　ナナシィは、しっぽを切り落とされて、痛みに暴れているリスコウアッフに剣を向ける。

「注意を引くことはできます」

「ギッ！？」

　しっぽを切り落としたナナシィに、『リスコウアッフ』が最大限の警戒を払っている隙に、背後からモゥモが『リスコウアッフ』の脳天に短剣を突き刺す。

『リスコウアッフ』は自分に何が起きたのか知る間もなく、そのまま地面に倒れて、息絶えた。

『……マジかよ』

　レベル2の『魔獣』2匹を、たったの3人で倒してしまったサロタープたちに、ビジイクレイトは唖然としてしまった。

『見事なモノだね。サロタープも一人であの猿を押さえていたが、一番は……』

『モゥモ』

『ナナシィ』

　マメとビジイクレイトで、意見が違った。

『ん？　何を言っているんだい？　猿の攻撃を避けながら短剣を何本も突き刺していた彼女が一番だっただろう』

『いや、一撃で『リスコウアッフ』に致命傷を与えていたナナシィだろ、さっきの戦いのMVPは。『魔獣』との戦いで一番危険なのは、トドメを刺すときだ。指示を出していたのも彼女だし、一匹目の『リスコウアッフ』の頭を叩き斬ったあの一撃は、完璧であることに疑いはなく……』

『トドメなら、二匹目の猿にモゥモも刺しただろう？ならば……』

『いやいや、二匹目はサロタープが削っていたから。その点も加味するとやっぱりナナシィが……』

『というか、主よ』

『なんだい、マメよ』

『偉そうに解説とかMVPとか決めているが、逆MVPは間違いなく主だ、という自覚はあるかい？』

『もちろん』

『リスコウアッフ』とサロタープたちとの激闘があった草原から、遙かに離れた木の後ろで、ビジイクレイトははっきりと答える。

『……なんて曇りのない目。こんなのが主だなんて、恥ずかしい』

『へへ……』

『なんで主が照れるんだい』

　そんな会話をしながら、ビジイクレイトはサロタープの元へと向かう。

『猿たちを押しつけたくせに、普通にその被害者の元に向かうなんて、どんな神経をしているんだい』

『いや、でもなるべくサロタープたちの近くにいないと、別の『魔獣』が襲ってきたら危ないし……』

『神経ではなく、常識を疑うべきだったか』

　マメが大きく息を吐くが、ビジイクレイトだって死にたくはないのである。

『そんなこと言ってもな、ここは『魔境』だぞ？　どこに『魔獣』がいるのかわからないんだから……あ、『デッドワズ』』

　ビジイクレイトは、草原に空いていた穴から顔を出した『デッドワズ』と目があう。

「……こんにちわ」

「ギィ！」

「襲ってきたぁあああ！？」

　ビジイクレイトは、全速力でサロタープたちの元へ向かう。

「……またですわ！？」

「本当に、こんな……」

「あ、あははは」

　ビジイクレイトが連れてきた『デッドワズ』に流石のサロタープたちも顔がひきつっている。

　結局、ビジイクレイトたちは……というか、サロタープたちは、ビジイクレイトが連れてくる『魔獣』と一日中戦うことになり、ボロボロになりながら拠点へ帰るのだった。