第151話【指定封印/閲覧不可】№12-03
「遅かったな」
「お疲れさまです」
シュタイズが食堂に戻ると、すでに食事を終えたゼンカはのんびりとくつろいでおり、スシュタンはシュタイズが食べる分を用意してくれていた。
いつもよりも多い昼食に、シュタイズは軽くうなづく。
ちゃんと、ビィーの食事の分をシュタイズに分けているようだ。
「なんか、先生に連れていかれたんだって? 何をしたんだよ」
シュタイズがビィーとモメている時、ゼンカは用を足しており、スシュタンは昼食を頼んでいたので二人とも何が起きていたのか知らなかった。
「別に、どうでもいいでしょう。そんなことよりも、僕達だけですか?」
食堂にいる子供は、シュタイズとゼンカと、スシュタンの3人だけだった。
「はい。アーベントはズゥーハさんたちと一緒にどこかに行きました。おそらく、明日から彼らは組んで行動するでしょう。幼なじみなので」
スシュタンの説明に、ふと浮かんだ疑問をシュタイズは聞く。
「スシュタンも、彼らとは幼なじみだったのでは?」
「あんな孤児たちと幼なじみだなんて……彼らは、商売の取引先にいた子供達だっただけですよ。幼い頃は遊んだこともありますが……それだけです」
明らかに侮蔑の表情を浮かべて、スシュタンは笑う。
「ネッフは最下位ですしね……彼らと行動をともにする気はないですね」
元々、商人の生まれなだけあり、スシュタンは利益を元に行動の指針を決定することが多い。
「それより、僕達は、これからどうするんですか? 今、僕達以外は二つに分かれています。アーベント達の組と、ナナシィさん達の組と。どこかに混ざりますか?それとも、僕達だけで行動するか」
スシュタンの質問に、スープを一口飲んだシュタイズは、即答する。
「もちろん、僕達で組もう。ゼンカもそれでいいかい?」
「おう、俺は問題ないぜ」
冒険者の息子であるゼンカは、少々考えなしのところがあるが、その実力は確かだ。
からからと笑っているゼンカの横で、スシュタンは胸をなで下ろしている。
「よかったです。僕も、シュタイズたちと一緒に行動したいと思っていたので……足手まといもいないですからね」
ビィーのことを思い返してしまい、シュタイズは顔を険しくしてしまう。
「……どうかされましたか?」
「いや、なんでもない」
「そうですか……でも、一つ気になることがあります」
スシュタンは、少し申し訳なさそうに言う。
「……なんですか?」
「僕達3人だけでは、少ないのではないですか?その、『魔境』を探索するのには」
「ああん!? 何弱気な事を言っているんだよ、このメガネ!」
「ひぃ!? ごめんなさい!」
ゼンカが凄むと、スシュタンは身を縮ませる。
「……いや、スシュタンが心配になる気持ちはわかるよ。ここでは、『魔境』は基本的に4人以上で行動することを推奨されているからね」
「シュタイズも何言っているんだよ。俺たちは、これまでに『魔獣』を100匹以上倒してきているんだぜ!? 騎士が相手にするような、『魔獣』をだ! しかも、あの足手まといがいてな!3人でも十分だろ」
「ゼンカの言うとおりだけど……アーベントもいなくなるからね。心配にはなるだろう」
アーベントの名前を出されて、ゼンカは明らかに機嫌が悪くなった。
ゼンカは、アーベントを負けられない好敵手として見ているのだ。
「アーベントなんていなくても……」
「アーベントがいなくても、ゼンカがいれば安心だ。僕もそう思う。でも、それでも不安な点はある。だから、僕はこれを用意したんだ」
予想通り、ゼンカが文句を言い出しそうだったため、その口を閉ざすモノをシュタイズは取り出す。
それは、スカッテンから先ほど受け取った、3つの包み。
シュタイズは、その包みをとる。
中から出てきたのは美しい輝きを放つ、黄色の長剣と、赤色の斧と、緑色の弓だった。
「こ、これは……」
「なんだ、これ?」
スシュタンは、シュタイズが取り出したモノを見て、すぐにその正体に気がつき、ゼンカが不思議そうに見つめる。
そんな予想通りの反応を見せた二人に、シュタイズは自慢げに言う。
「これは、『魔聖具』の武器ですよ。僕達がこの30日間で手に入れた『魔石』を使って購入しました。『剛雷の剣』『炎の斧』『風の弓』これがあれば、僕達3人だけでも、何も問題はない。そうでしょう?」
この『魔聖具』は、これまでに『光組』が倒したレベル1の『魔獣』126体とレベル2の『魔獣』、『リスコウアッフ』の『魔石』を使って入手したモノである。
正確には『剛雷の剣』にレベル1の『魔石』を40個とレベル2の『魔石』。
『炎の斧』と『風の弓』には、それぞれレベル1の『魔石』が20個必要だった。
おかげで、シュタイズが持っている『魔石』は半分以下になってしまったが、『魔聖石』を手に入れて貴族に戻るためならば、惜しくはない。
シュタイズから『魔聖具』を受け取り、ゼンカもスシュタンも興奮で目を輝かせあとに、嬉しそうに頬をゆるめている。
「さて……今日は、その『魔聖具』の性能を確認したあと、休みましょうか。明日からの『魔境』探索は、きっとすばらしいモノになるでしょう」
シュタイズの言葉を、ゼンカとスシュタンは力強く頷いて肯定した。
そうして、彼らは明日からの『魔境』探索を楽しみにしながら、一日を過ごすのだった。
次の日、3人だけでの『魔境』探索を終えて、シュタイズ達は拠点の食堂で夕食を楽しんでいた。
天気も良いので、外に用意されているテラスで、だ。
「今日は楽勝だったな、もう一回『魔境』に行けるくらいだ」
「そうですね。体がどこも痛くない。こんなの、久しぶりですよ」
「ええ、本当に。この調子でこれからも頑張りましょう」
3人で笑いながら、これまでの夕食とは違い、お金を払ったことによって質と量が増えた料理を次々と食べていく。
アーベントがいないことは不安ではあったが、案の定、ビィーがいなくなったことで、シュタイズ達の『魔境』探索は何の危険も感じないほどに、順調だった。
美味しくなった食事と、快適になった『魔境』探索にシュタイズ達がご機嫌になっていると、拠点に一組の子供達が帰ってくる。
「つ、疲れましたわぁ……」
「うう……お風呂に入りたい」
「さすがに、死ぬかと思った」
彼女たちの身につけている装備は無惨と言えるほどにボロボロに汚れ、傷ついていた。
彼女たち自身も、美しい顔に汚れがついており、疲れ切った表情がはっきりと現れていた。
「いやぁ、今日はお疲れさまでした」
そんな少女達の中で、一人だけ汚れていない少年が、にこにこと笑いながら彼女達に声をかけている。
足手まといの少年。無能で雑魚で卑怯者の少年。
ビィーだ。
シュタイズが危惧したとおり、忠告したとおり、ナナシィ達はビィーが逃げて、連れてきた『魔獣』を相手にして、大変な目にあったようだ。
「……ビィーがいなくてよかった」
ナナシィ達の惨状を見て、スシュタンは胸をなで下ろす。
「ちっ、何へらへら笑っているんだよ、あの足手まといが」
汚れておらず、笑っているビィーを見て、ゼンカは舌打ちをした。
「まぁまぁ、彼らのことなんて気にする必要はないでしょう。自業自得。人の忠告も聞かない、愚かな者たちのことなど、考えるだけ無駄ですよ」
ナナシィ達と、ビィーを見て、シュタイズは満足そうに笑みを浮かべる。
そんな彼らの脇では、傷一つ無い3つの『魔聖具』がキラキラと光を反射させているのだった。
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