第150話【指定封印/閲覧不可】№12-02

「……さすがに、剣を持って暴れるのはダメだろ」


 ビィーが、淡々とシュタイズの頭上で言う。

 片手で腕を押さえ、背中を踏みつけながら。


「なっ……おまっ……なんで……離せ! 殺してやる!」


 ビィーが何をしたのかわからないが、ビィーのような弱者が頭上で偉そうにしていることは気に入らない。


 だが、シュタイズの怒りを聞いても、ビィーの表情は何も変わらなかった。


「……殺意を簡単に口にするなよ、バカが」


「偉そうにしゃべるな! 雑魚のくせに! 無能のくせに!この……卑怯者が!」


「おい、何をしている」


 シュタイズのところに、島にいる先生の中で最も偉いスカッテンがやってくる。


 スシュタンは、ビィーとシュタイズの様子を見て、状況を察したようだ。


「あー……ビィー。悪いが、その手を離してくれないか?」


 スカッテンに言われて、ビィーはシュタイズを解放した。


「スカッテンさん! 早くコイツを追い出してくれ! コイツ、卑怯な手で、僕を……」


 ビィーに押さえつけられていた腕を庇いながら、シュタイズはビィーを島から追い出すようにシュタイズに進言する。


「『魔獣』を引き連れてくれるだけでなくて、僕に襲いかかって……コイツは、危険だ! 早く追い出さないと……!」


「……シュタイズはこっちに来い。話をしよう」


 スカッテンは、目を細めていた。


「話よりも、まずはビィーを」


「いいから、こい!」


 スカッテンが、なぜかシュタイズの服の襟をつかんだ。


「な、なにをするんですか! 僕じゃなくて、ビィーを……!」


「ほかの奴らは、解散。昼飯でも食っていろ」


 シュタイズの言葉を聞かずに、スカッテンはずるずるとシュタイズを引きずって集会所まで連れて行った。




「……落ち着いたか?」


 集会所まで引きずられ、イスに座らされたシュタイズは、変わらずにスカッテンを睨みつけていたが、さすがに頭は少し冷えていた。


「一回、深呼吸しろ」


 スカッテンの言うとおり、息を吐き、息を吸って、気分を整える。


「……ご迷惑を、おかけしました」


「そうだな。成績発表の後は荒れる者も多いが、剣を抜くのはやりすぎだ」


「……はい」


 ビィーがどのような卑怯な手を使ったのかわからないが、武器を取りだした以上、シュタイズの方が分が悪い。


 そのくらいの事は理解出来る程度に落ち着いたシュタイズに、スカッテンは呆れと安堵を半分ずつ混ぜたような息を吐く。


「幸い、けが人は出なかったから、今回の事は不問にしてやる。だが、次は島から出て行ってもらう。いいな?」


「わかり……ました」


自分の非を認め、了承したシュタイズだったが、しかし、納得できない部分はある。


「……ビィーは?」


「なんだ?」


「ビィーには、何もないんでしょうか? あの足手まとい……ビィーは、僕達に何度も『魔獣』をけしかけて……危険な目にあわせました。さっきも、何か卑怯な手をつかって、僕を……彼に、何か処罰を!」


 当然の、真っ当な要求をしたシュタイズに、しかしスカッテンが見せたのは、不思議なモノをみるような目だった。


「おまえ……まさか、本当に気がついていないのか?」


「何を、ですか?」


 シュタイズの質問に、スカッテンはなぜか天井を見上げた。


 何度か、言葉を転がすように口を動かしたあと、諦めたように目を閉じる。


「もう、いい。話は終わりだ」


「ビィーの処罰は……」


「ビィーを処罰するなら、先におまえだ。剣を抜いて暴れたんだ。何か言える資格があると思うのか?」


「っ……! でも、ビィーは……」


「いいから、ビィーのことでもう口を出すな。行動もするな。次何かあれば、島から出すと言っただろ?」


「ですが……」


「はぁ……ああ、そういえば、昨日おまえが注文していたモノが届いたぞ。偶然、近くの港に在庫があったそうだ」


 しつこく食らいついてくるシュタイズの対応に、わかりやすく疲れを見せたスカッテンは、わざとらしく手を打つ。


 そして、席を立つと、集会所の奥にある部屋に入っていき、3つの布に包まれた品物を取り出した。


「お、おお」


 それを見た瞬間、シュタイズはビィーのことなど忘れてしまう。


 それさえあれば、ビィーのことなど些事にすぎないのだ。


「これを持って、さっさと行け……使える機会があるといいな」


 スカッテンの、最後の小さなつぶやきを聞かず、シュタイズは大人しく集会所から出て行った。

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