第149話【指定封印/閲覧不可】№12-01
◇調査対象:シュタイズ
シュタイズ・ウンターゲーブナ
14歳。
西の小さな領地を管理している上位貴族ウンターゲーブナの子息である彼は、11歳の時に母親といっしょに家から追い出されてしまった。
理由は、シュタイズのために『魔聖石』を用意できるほどウンターゲーブナ家に資金の余裕がなかったことと、シュタイズは知らないことだが、彼の母親の金遣いの荒さが原因だ。
追い出されたあとも、シュタイズの母親の金遣いの荒さは治ることはなく、体を壊してからも派手に遊び続け、シュタイズが13歳の時に息子を置いて息を引き取ってしまった。
それから、シュタイズはすぐに『日陰の迷い猫』に保護されたのだが、そこで、将来どう生きるのか希望を聞かれた。
何かを作る職人になるのか、農業をするのか、役所に勤めるのか……様々な選択肢を提示されて、シュタイズが選んだのは冒険者だった。
シュタイズが冒険者を選んだ理由は、一番『貴族』に返り咲ける可能性が高い職業だったからである。
シュタイズは、『貴族』という立場を諦めていなかったのだ。
13歳までは、病気の母親の世話(父親から送られてきた母親の世話をする少女や女性の管理など)があり、剣術などの修行は出来ていなかったが、母親が死んだ後は、『日陰の迷い猫』に保護されなくても、冒険者になるために行動するつもりだったのである。
冒険者になることを選んでから、シュタイズは様々なことを教えられた。
基本的な剣術から、魔聖法の基礎。
『魔境』や『魔獣』に関する様々な知識。
そういった勉強を一年間こなし、試験に合格したことで、シュタイズはようやくこの『島』に来ることが出来たのだ。
この、『日陰の迷い猫』が保有している島には『魔境』が6つもある。
その島で、実際に冒険者として活動し、優秀だと認められれば、なんと『魔聖石』が与えられ、貴族の証である『神財』を賜ることが出来るのだ。
そんな千載一遇ともいえる機会を逃さないために、シュタイズは島に来てから、さらに努力を続けた。
すると、これまでの総復習ともいうべき最初の30日間で、シュタイズは3位になることが出来たのだ。
次の30日間では、子供達を男女で分けて、『魔境』で行動することになった。
シュタイズは、男子の組である『光組』で、組長として活躍していたのだが、ある問題が発生した。
それは、組をわけてから10日が経過したころだ。
『島』に新しく子供達が2人やってきたのだ。
一人は、サロンと名乗るとても美しい少女で、元貴族であるシュタイズから見ても、感嘆するほどであり、ナナシィとモゥモという、こちらも貴族の子女に負けないほどに見目麗しい少女たちと並べても、遜色がないほどであった。
このサロンという少女については、問題はない。
むしろ、『島』に来てくれたことを喜ばしいとさえ思えるのだが、問題は、もう一人の子供、少年の方だった。
少年はビィーといい、小柄で、光組のスシュタンという少年と同じかそれよりも低いくらいの身長でしかなく、とても弱そうな見た目をしていた。
もっとも、弱いだけの少年ならば問題はなかった。
もともと、シュタイズたちは『魔聖石』をかけて、お互い競い合っている状況だ。
競争相手にならないような存在ならば、例えばスシュタンのようにてなずけてしまえばいいだけのことである。
しかし、このビィーという少年は、弱いだけではなかったのだ。
何を考えているのか、『魔境』の探索が始まると、いつの間にかいなくなっており、そして『魔獣』に襲われて戻ってくるのだ。
いや、正確にいえば、『魔獣』を引き連れて戻ってきており、その対処をシュタイズたちに任せて本人は震えているだけなのである。
『魔獣』は危険な存在で、例えもっとも弱いレベル1でも、平民ならば倒すのに5人は必要なのだ。
そんな危険な存在と、ビィーという少年が来てから、『魔境』にいく度に戦わなくてはいけなくなった。
足手まとい、という言葉が、これほどふさわしいモノはいないだろう。
もしくは、無能か、卑怯者か。
だからこそ、シュタイズは今、怒っていた。
場所は食堂の前の廊下。
そこには、ナナシィとモゥモ、サロンに……ビィーがいる。
「なんで! そんな奴と一緒に……! ナナシィさん! モゥモさん!」
2回目の成績発表で、足手まといの無能なビィーが1位になっていた。
どんなズルい手で1位になったのか分からない。
ただ、やはりビィーは卑怯者であり、許してはいけない存在であると、シュタイズは確信した。
なのに、そんなビィーと、シュタイズが目を付けていた美しい少女たちが行動を一緒にしようとしているのだ。
サロンは、まだわかる。
彼女はビィーと一緒にこの島に来たのだ。
もともと、知り合いなのだろう。
しかし、ナナシィとモゥモはわからない。
彼女たちは、前回の成績発表でシュタイズよりも成績のよかった優秀な少女達だ。
この島に来たときから、シュタイズは目をつけており、定期的に声をかけて、親交を深めていた。
ゆえに、彼女たちは当然、シュタイズと組むと思っていたし、そうするべきなのだ。
なぜなら、シュタイズもまた、優秀なのだから。
足手まといの無能なビィーと比べることさえ愚かなほどに、圧倒的に、シュタイズの方が彼女たちと行動をともにするべき存在なのだから。
「部屋を用意しています。詳しいことは、そちらでお話しませんか? ビィーさん」
なのに、豊かな心を感じさせる顔と体を持つナナシィは、笑顔でビィーを部屋に誘っている。
自分に向けられたわけではないのに、胸が高鳴るようなナナシィの笑顔に、心臓の音は怒りに変わった。
美しい少女たち3人は、あっという間にビィーの周りを取り囲む。
許せない。
その光景の中心にいる人物は、シュタイズのはずなのだ。
優秀な、元貴族のシュタイズのはずなのだ。
決して、ビィーのような無能で、雑魚な、卑怯者がそこにいていいはずがない。
「そいつは! 俺たちの邪魔をしていた足手まといだ! なんで、そいつと……!」
シュタイズの声は、少女たちに届かない。
ただ、見た目がいいだけの、平民の少女たちに。
貴族であり、優秀なシュタイズの声が、無視されている。
たかが、小さな足手まといの無能な雑魚の平民の男に。
「っ……ぁああああああああああああ!」
シュタイズは、怒りのあまりに剣を抜いた。
何匹も魔獣を斬り殺してきた、長剣だ。
この剣で、あの無礼者たちを、斬る。
そんな、とても簡単なことを、感情のままシュタイズは実行する。
ビィーのがら空きの小さな背中に向けて、剣を振り下ろした。
剣は、何の抵抗もなく床に突き刺さる。
「……がっ!?」
そして、シュタイズの体も、床にたたきつけられていた。
気がつけば、いつの間にかシュタイズの腕はとられ、動けないようにされている。
お茶とクッキーが載ったお盆を片手に持っている、ビィーに、だ。
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