第148話 行動する仲間

 じー……


「…………あの」


 じじー……


「…………その」


 じじじー……


「………………一つ、食べますか?」


「いいんですか!?」


 じーっという効果音が本当に流れそうなほど、ビジイクレイトが持っていたクッキーに視線をおくっていたナナシィが、喜びはしゃいで飛び跳ねる。


『おおう、揺れておる、揺れておる』


 どこが、とは言わないが、ジスプレッサに匹敵するほどの豊かな部分が、ビジイクレイトの目の前で踊っていた。


 その非常に興味深い踊りからなんとか目をそらして、ビジイクレイトはナナシィの隣にいるモゥモに視線を向ける。


 モゥモは感情がわからない表情で淡々と言う。


「……女性の胸元を見るのはいけない」


「不可抗力だろ、こんなの」


 あまり視線が変わらないモゥモとにらみ合っていると、サロタープがもじもじとしながら話に入ってくる。


「ビィー様は、その……やはり、大きい方がお好みですか?」


「この話題をこれ以上広げないでください、サロン様。まだ本題さえ始まっていないのですよ」


 ビジイクレイトはぐるりと周囲を見回す。


 広い部屋には、ベッドが6つおかれており、中央にはテーブルとイスもある。


 豪華ではないが、清潔感があり、快適な空間ではあるだろう。


「どうですか? 一番良いお部屋を借りたんですよ」


 胸元を隠しながら、ナナシィがえへへと笑う。


 さすがに、見られていると指摘されると恥ずかしいようで、ビジイクレイトの中に罪悪感がわいてくる。


「あー……いい部屋だと思いますが……すみません、悪気があったわけではないのです」


「いえいえ、私もはしゃいでしまいましたし」


 あわあわと手を振っているナナシィだが、その手にはクッキーがしっかりと握られている。



 じー……


「……」


 じじー……


「…………」


 じじじー……


「………………なんですか?」


「私も」


 ナナシィの横で、モゥモがじっとビジイクレイトのことを……というより、皿にのっているクッキーを見ていた。


「…………どうぞ」


「やったね」


 クッキーを受け取ったモゥモは、ぴょんぴょんとはしゃぐ。


「……女性の胸元を見るのはよくない」


「いや、見てないですよ?」


 さきほど指摘された事もあるが、そもそも、無意識に目を向けるほどに、モゥモは発育していない。


「むぅ……」


「うっ!?」


 ただ、事実を告げたはずなのに、モゥモがおなかに頭突きをしてきた。


 痛くはないが、衝撃はある。


「なにするんだよ!」


「じゃれてみただけだから、気にしない」


「なんでじゃれるんだよ」



 じー……


「……」


 じじー……


「…………」


 じじじー……


「………………あの」


 サロタープが、クッキーをじっと見ている。


「ああ、もう!話が進まないから、とりあえず座りましょう!」


 サロタープにクッキーを渡しながら、ビジイクレイトは叫ぶのだった。



「……で、本題はなんだっけ?」


 クッキーとおっぱいの話題しかしていない気がする。


「すみません、色々と」


「このクッキー、お茶とよく合う」


 もくもくとクッキーをほおばるモゥモの手には、ナナシィが煎れてくれたお茶があった。


「このお茶、美味しいですわぁー」


 サロタープも、ナナシィの煎れてくれたお茶を飲み、舌鼓を打つ。


「ありがとうございます。はじめて使う茶器なので、少々不安でしたけど……」


「備え付けの茶器でここまで煎れることが出来れば、十分ですわ。それに、このお茶、『魔境』で採ったものですわよね? いったいどうやって……」


「実は、皆さんと探索している間に……課題に出ていなかったので、そのまま拝借しました。えへへ」


「そうだったのですね。今度、どの葉がお茶に向いているのか教えていただければ……」


「また脱線しているよね!?」


 永遠とお茶の話で盛り上がりそうなサロタープとナナシィの会話を、ビジイクレイトは強引に打ち切る。


「あ、ああ……申し訳ございません」


「あはは、ごめんなさい」


「いえ、こちらから切り出さなかったことも問題だったので……では聞きますが、なぜ僕と一緒に組みたいと? シュタイズから聞いていると思いますが、僕は足手まといですよ?」


 集会所で叫んでいたし、このナナシィが用意した部屋に向かう前も、シュタイズは色々とビジイクレイトについて話していた。


 内容は、承知の通り、ビジイクレイトがシュタイズ達に『魔獣』をけしかけていた無能の足手まといであるということを訴えており、そんな男を仲間にするな、という真っ当な警告であった。


『部屋に向かおうとしているのに、堂々と立ちふさがってきて、最終的にはスカッテンに連れて行かれたね、あの男』


 マメの言うとおりであるが、騒ぎすぎという理由で、シュタイズはスカッテンに連行されていった。


『引きずられながら、彼女たちの名前を叫んでいるのが、おもしろいを通り越して、気持ち悪かったね』


『それだけ、仲間にしたかったんだろ、可愛いし』


 改めて、自分の周りにいる少女達を見ると、整った容姿をしている。


 もっとも、彼女たちは今、クッキーをもぐもぐと食べているのだが。


「このクッキー……果実の香りがしますわ」


「そうですね。乾燥したアプフェルをこまかく砕いて……美味しいです」


「そういえば、昨日魔境で採ったアプフェルがある。食べる?」


「いいんですの!? いただきますわー!」


「だから、食べ物! 食べ物の話題はおいて、質問に答えてくださいって!」


 きゃいきゃいと仲良く話しているナナシィたちの会話を、ビジイクレイトは再度打ち切る。


「質問って……?」


 少女達は、皆、首を傾げる。


「だから、足手まといの僕を誘う理由ですよ。シュタイズの話は聞いていたんですよね?」


 ナナシィは、少しだけ考えるそぶりを見せた後、ほほえみながら答える。


「彼の話は聞いていますが……そうですね。聞いたうえで、私はビィーさんと一緒に組みたいです。というよりも、聞いたから、組みたいと思ったんですよ」


「よくわからないのですが……『魔獣』を連れてくるような者ですよ?」


「はい。ビィーさんは、たくさん『魔獣』を連れてきてくれるんですよね?」


 ナナシィの言葉の言い方にビジイクレイトは強い違和感を覚えた。


「連れてきてくれる、とは?」


「私たち、『魔獣』をたくさん倒したいんです」


 ナナシィの隣で、モゥモがうなづく。


「『魔境』では、いろいろお金になるモノがとれますけど……一番はやはり『魔獣』を倒して手に入れる『魔石』ですから」


「つまり……お金がほしい、ということですか?」


「まぁ、簡単に言うとそうですね」


 思ったよりも俗な理由に、ビジイクレイトは目を瞬いた。


「……私たちはお金を貯めて、美味しいモノを食べたい」


 ナナシィの隣で、モゥモがアプフェルをしゃりしゃりと食べていた。


「だから、組みたい。それじゃ、ダメ?」


「モゥモちゃん、私にもください」


「いいよ」


「私もほしいですわー」


 少女達は、あっという間にモゥモに群がる。


 その様子を見ながら、ビジイクレイトは隣にいる小さな本に相談する。


『どうするかな』


『何を悩んでいるんだい? 主がこれまでにしてきたことを聞いて、それでも一緒に『魔境』に行きたいといっているんだ。問題はないだろ?』


『いや、なんか勘違いされているっぽいけど、俺は別にわざと『魔獣』と戦わせていたわけじゃないぞ? なんか、俺が『魔獣』を発見していたみたいに思ってそうだけど、偶然、『魔獣』に見つかって逃げ回っていただけだ』


 なにやら、マメはため息を吐きながら言う。


『そうかもしれないが……まぁ、それでもこの20日間の実績を彼女たちは評価しているんだ。気にすることはないと思うよ』


『でもなぁ……』


『それに、主の言うとおり、彼女たちは美少女だ。美少女達に囲まれながら冒険者生活を送るのは、PV稼ぎに最適ではないかい?』


 ニコニコとリンゴのような果実を食べている彼女たちは、確かに見ているだけで癒されるような美しさがある。


 彼女たちと行動をともにすれば、この小説のPVを稼ぐことは出来るだろう。


『期待はずれって、追い出されないかな?』


『そのときは3回目の追放だ。やったね』


『短期間で追い出されすぎだろ……』


 マメとの相談を終えて、ビジイクレイトは、改めてナナシィたちに向き直る。


 ビジイクレイトが話し始める雰囲気を察して、今度は会話をすぐに止めた。


「……わかりました。ご期待にそえるかわかりませんが……『魔境』へと同行いたしましょう」


「……はい!」


 ビジイクレイトの返事に、ナナシィは嬉しそうに笑う。


「ビィー様。もちろん、私も一緒ですわよ?」


「それは……僕が決めることでは……いいでしょうか?」


「はい、サロンさんとまた一緒になるのは嬉しいです」


「よろしくお願いいたしますわー!」


 サロタープの嬉しそうな声が響く中、部屋の外でベルが鳴らされる。


「お食事をお持ちしました」


「このお部屋をとった時に、一緒に頼んでいたんですよ。二人の分もありますから、皆で食べましょう!」


 机に上に、普段の昼食よりも豪華な食事が並べられていく。


「……本当のことをいうと、『魔境』のことは抜きで、ビィーさんとはお話をしてみたかったんです」


 食事が並べられていくのを見ながら、ナナシィが少し小さな声でビジイクレイトに話しかけてきた。


「私たち、よく似ていますから」


「……似ている?」


 ビジイクレイトの疑問に、ナナシィは微笑む。


「ふふ、明日から、一緒に頑張りましょう。ビィーくん」


 並べられた昼食を前に、すぐに少女達は食事を開始し、ビジイクレイトの疑問は流されていった。

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