第144話 これからの話
「話はそれで終わりか? シュタイズ?」
「はい」
「そうか。なら座っていろ」
スカッテンの返事に、シュタイズはわかりやすく困惑を返す。
「……説明をしていただきたいのですが」
「いいから、黙って座れ」
大人の、しかも冒険者として活躍している者のほんの少しの怒りを込められた視線を受けて、シュタイズは少しだけのけぞり、そのままイスに座った。
『シュタイズは先生達に好かれているって話だったけどなぁ』
少々、スカッテンのシュタイズに対する態度は冷たすぎる気がした。
『そりゃあ、あんな風に話を遮られたら、ああいう態度にもなるだろう』
『……それもそうか』
スカッテンは軽く咳払いをすると、話を再開する。
「よし。では……なんだったかな? ああ、そうだ。今日は成果発表の日だ。だが、成績を発表する前に、総評というか、これまでのおさらいとこれからの話をしようと思う」
本来するべき予定だった内容をスカッテンは話し始めた。
「君たちは、最初の30日で『魔境』を探索するための知識と技術を身につけた。そして、次の30日……つまり、今回の訓練で、実際に『魔境』の探索を開始したわけだ」
『たった30日の訓練で、『デッドワズ』を倒せるようになったのか。スゴいな、アイツ等』
『主はいつになったら、『魔獣』を相手に無双をしてくれるんだい?』
『そのときは永遠に来ないだろうなぁ……』
ビジイクレイトは、7年間も訓練をしてきたのだ。
それなのに、レベル1の『魔獣』を相手に逃げ回ることしかできない雑魚なのである。
これから先、なにがあってもビジイクレイトが強くなることはないだろう。
『まぁ、一日のPVが10000を越えたら、童話の武器とか呼び出して戦えるかもしれないけどな』
『そんな日は永遠に来ないだろうねぇ、この小説の人気だと』
『まだわからないだろうが! もしかしたら、めっちゃレビューとかされて注目を集めて爆発的な人気になるかもしれないだろうが!』
『うーん、今更どうなんだろうね』
そんな事はない。
きっと、ここまで読んでくれている熱心な読者様なら、レビューとか応援をしてくれるはず!
ビジイクレイトは信じてます!
と、媚を売りながら、指摘された認めたくない現実から目を逸らしつつ、スカッテンの話を聞いていく。
「もっとも、その探索には、我々の補助があったわけだが。例えば、食事。3食毎日食べることが出来ただろう。暖かい寝床も用意されていて、君たちが身につけている衣服や、防具、剣や槍、弓なども……『日陰の迷い猫』から貸し出しているモノだということは、理解しているだろう」
『あー『日陰の迷い猫』ってなんだっけ?』
『『闇の隠者』たちの組織名だよ。この場で教えている、な』
当然というべきか、『闇の隠者』たちは複数の組織を持っていて、状況や立場に応じて名乗っている組織名が違うのだ。
ちなみに、シュタイズたちは『闇の隠者』のことをあまりよく知らないようである。
この『魔境』探索の訓練を受けているのは、大半は孤児院から才能とやる気を見込まれた子供達であり、そのような子供にまで情報は教えていないのだろう。
もっとも、個々の詳細な事情までは調べていないため、誰がどのような情報を持っているのか、ビジイクレイトも把握はしていないのだが。
「つまり、これまでの生活では、君たちは生徒だった。我々の保護下で、研鑽することが出来ていたというわけだ。しかし、次の30日間は、違う。次の30日は、君たちに冒険者として生活してもらうことになる」
急にスカッテンの声の質が変わった。
これまで、シュタイズに対して注意をしたとき以外は、年長者が子供達に話しかける優しい雰囲気があったのだが、それがなくなったのである。
完全に、この場にいる子供達を脅しにきている。
「この拠点では、これまで、君たちに個室を与えていた。しかし、それも次の30日ではなくなる。食事も用意しない。装備だけは、これまでの課題に対する賃金として渡すが、整備にかかる金などは、今後は自分たちで調達してもらう。まぁ、わかりやすく言えば、今後は『魔境』で生活に必要になるモノを調達するように、ということだ。食料や、換金出来そうなモノ。買い取りはこの拠点でする。買い取り価格は、この集会所に掲示されるから、確認を忘れるな」
スカッテンが、中央においてある映像を映し出す『魔聖具』に触れる。
すると、ずらずらと文字が表示された。
品物と、金額。
どこの魔境にあるのか、簡易的な情報も書かれているようだ。
『ふむふむ。明日からは、あそこに書いてあるモノを持ってきて買い取ってもらうってことか』
『まぁ、普通の冒険者としての生活だな、マジで』
ツウフの魔境で数日間冒険者として活動してきたが、その生活と同じようなことを、求められているようである。
『……もっとも、俺は今日で出て行くから、関係ないんだけど』
『そういえば、その話はどうなったんだい?カッツァに相談したんだろう?』
昨日、夕食を食べ終えて、サロタープを部屋に帰した後、ビジイクレイトはカッツァに現状の相談をした。
簡単に言えば、同じ組の人が追放したいといっているし、ビジイクレイト本人も出て行きたい、という内容だ。
その内容を聞いて、カッツァは『闇の隠者』に相談すると言っていたのだが……
『どうなったんだろうな。今日は普通にこの集会場に集まるように言われていたし……なにもなく追い出したら外聞が悪いし、最下位の成績を見せて、それを理由に追い出すのかもな』
20日間、一度も魔獣と戦ってこなかったビジイクレイトが、この優秀な子供達のなかで最低の成績なのは自明の理である。
発表される成績を見て、そのことをきっかけに、島から出て行くことをスカッテンに相談する。
そういった流れを脳内で組み立てていると、スカッテンが映し出されていた映像を消した。
「さて、これから話す内容は、とくに重要だからよく聞いてくれ。まずは、今組んでいる『光組』と『闇組』は解散してもらう」
「えっ!?」
スカッテンの言葉に、シュタイズは大きな声で反応したが、ほかの者も似たように驚いている。
「さっき、シュタイズが何か言っていたが、元々、明日から『光組』や『闇組』といった枠組みはなくなる予定だった。それで、明日からどうするのか、だが」
そこで、スカッテンは一度口を閉ざし、軽く息を吐く。
「自由だ」
「……自由?」
シュタイズの大きなつぶやきが響く。
「明日から、君たちには自由に行動してもらう。冒険者として、だ。だから、徒党を組みたい者は誰とでも組めばいい。無料で個室が使えるのは今日までだが、明日からは有料で部屋の貸し出しをする。個室でもいいが、例えば徒党を組み、同じ部屋で寝泊まりすることで費用を押さえることが出来るだろう。その行動すべてを明日からの30日間は評価する」
スカッテンは、なぜかビジイクレイトに目線を向けた。
「……昨日、『冒険者としての重要な能力が足りてない者がいる』という指摘があった。個人で行動することは自由だが、基本的には誰かと徒党を組むべきだろう。特に、足りていない能力があると自覚している者は、な」
『意訳:雑魚が』
『どうせまともに戦えない雑魚ですよ! というか、俺は今日にも出て行くつもりだから関係ないんだけどな!』
スカッテンの視線にダメージを受けつつ、ビジイクレイトは唇をとがらせる。
ビジイクレイトに向けているスカッテンの目線に、シュタイズ達にはうれしそうに顔をにやけさせていた。
居心地の悪さに、すぐに出て行きたくなる衝動をビジイクレイトはなんとか押さえる。
「さて、話が長くなったが、必要なことだ。今話した内容をしっかりと覚えておいてくれ。そうすれば、今から見せる成績がどれだけ重要な情報か理解出来るだろう」
スカッテンのいうとおり、これから個々が判断して自由に行動するのならば、今から表示される成績は重要だ。
誰と徒党を組むべきか、すぐにわかるのである。
『あまり上位の者と組むと、最終的な評価の際に低く判断されるかもしれない。しかし、評価が悪い者と組むと、足を引っ張られるかもしれない』
『そうなると、成績が上位の者だけで組む可能性もあるのではないかい?』
『そうなったら、下位の奴らが『魔聖石』を得るチャンスが完全になくなるからな……全力で阻止するようになるんじゃないか? まぁ、実際は相性があるだろうし、そこまで極端に片寄らないと思うけど』
聞いた情報では、同じ孤児院出身の幼なじみ達がいるらしい。
彼らは、彼らで徒党を組むだろう。
『どっちにしても、俺には関係ないことだ』
『やる気がないねぇ、主は』
『どうせ最下位だしな』
スカッテンが、映像を映し出す『魔聖具』の前に立つ。
「では、2回目の成績を発表する。確認してくれ」
スカッテンが映像を映し出す『魔聖具』を操作する。
すると、成績が映し出された。
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