第140話 サロタープの現状


「今日も、無事に課題を達成されたのですね。魔獣も、レベル2の『リスコウアッフ』を倒されたとか。素晴らしいですわ。さすがはビィー様」


「……いえ、魔獣を倒したのは僕じゃないですよ。それに課題を達成したのは『闇組』もですよね」


 ビジイクレイトと一緒に『魔境』探索の訓練を受けることになったサロタープは、少女たちで構成された『闇組』で、ビジイクレイトと同じように日々『魔境』に向かい、訓練をしていた。


 その『闇組』のなかでも、サロタープはビジイクレイトと違い、しっかりと活躍して『闇組』のなかでもエースのような扱いをされているそうだ。


 それなのに、夕食の時間になるとこうしてビジイクレイトの話しかけてくるのである。


「『闇組』も課題は達成しましたが……ビィー様たちの『光組』よりも成績は悪いのです。やはり、レベル2の魔獣を倒したことが大きいようですね」


「それなら、やっぱり僕以外の方の活躍が大きいですね。僕は魔獣と戦えるほど強くないので」


 ビジイクレイトの真っ当な言葉に、サロタープはなぜか大きく肩を落とす。


「そんなことよりも……お家のことは、どうなっています?」


「特に進展はございませんわ。『闇の隠者』様のおかげで、キーフェ……いえ、父とは直接会ってお話をすることができましたが……」


 サロタープがこの『闇の隠者』の元へやってきた理由の一つに、実家に戻っても安全が保障されていないという点があったのだが、その点について、先日サロタープは彼女の父親と面会することができた。


 正直なところ、『闇の隠者』が上位貴族であるサロタープの父親、キーフェ・バーケットとどうやって面会の算段をつけたのか不思議ではあるが、サロタープは父親とこの島で会い、そして今後について話し合ったのだ。


 結果としては、現状維持でそのまま『魔境』探索の訓練をすることになった。


 サロタープの実家では、徐々にサロタープの継母であるサスケアが権勢を振るうようになっており、まだ暗殺の危険性があるという判断のようだ。


 なので、ある程度サロタープ自身が力をつけて、その後、中央の学院に通ってから折を見て戻るようになったそうである。


「私としては、ビジイクレイト様をお連れすることができれば、今すぐに帰っても問題はないと思うのですが……」


「サロン様。ここでは僕はビィーですよ。それと、僕のようなものを連れて行っても、なんの役にも立ちませんよ?」


「あら、失礼いたしましたわ。しかし、ビィー様はジスプレッサ様の護衛をしていたのですよね? それならば私の護衛も引き受けてくださらないかしら」


「護衛のようなことをしていただけですよ。それに、平民のジスプレッサ様と、サロン様では護衛に対する重要度が違うので、僕では無理ですって」


 これまでに何度も繰り返されてきた勧誘のやりとりに、ビジイクレイトはいつものように拒否の返答をする。



 すると、いつもならふてくされたような顔をサロタープはするのだが、今回はなぜかうつむいていた。


「なら……その……これは、例えばの話なのですが……いやこれは例えではなくて……」


 そして、少々小さな声で、ぶつぶつと言い出した。


「すみません。少々夜風が強いようで、お声が遠いのですが……」


「えっ!? あの、そのですね」


 サロタープが、一度深呼吸して、再度声を出そうとしたときだ。


「おお、サロンさん。こんなところで何をされているのですか?」


 ビジイクレイト達の元へ、一人の少年がやってきた。


金色の髪の少年。『光組』のリーダーであるシュタイズだ。



 リーダーらしく、自信に満ちあふれている態度でツカツカと歩いてきたシュタイズは、平然とビジイクレイトとサロタープの間に立った。


「……ご機嫌よう。シュタイズさん。今、私はビィー様とお話をしているのですが……」


「申し訳ございませんサロンさん。実はこの男に私も用があるのです」


 シュタイズは、ビジイクレイトの方に向き直ると、じっと彼の手に握られているパンに目を向けた。


「そのパンで、こちらの意図を察してほしかったのだがね」


「……意図?」


 やれやれと首を振るシュタイズをよそに、ビジイクレイトは声を出さずにマメに相談する。


『……なぁ、これってまさか、『アレ』だったりするのか?』


『うーん、さすがに早すぎる気もするが、どうなんだろうね』


 ビジイクレイトとマメが共有した想いを肯定するように、シュタイズは言葉を続ける。


「ビィーくん。君には今日を持って『光組』から脱退してもらう。これは、我々の総意だ」



『つ……『追放』キターーーーーーーーーーー!』


 シュタイズの言葉に、ビジイクレイトとマメは目を輝かせた。

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