第138話 戦えないかわりに採取はする
『いつも言っているだろ? 俺は弱いんだよ、マメ』
ビジイクレイトの反論に、マメはその小さな体の一番とがっている場所をぶつけることで論破した。
『痛っ!? てめぇ! 言葉で返せないからって暴力は禁止だろうが! それでも本かよ!』
『言葉で返せないのではなく、ただ純粋な呆れと怒りを表現しただけなのだがね。というか、主よ。この20日間ほど、ずっと逃げ回っているだけではないかね。そんなことで、PVが稼げるとでも?』
小説投稿 72日目
累計PV: 11108PV 残りPV:7133PV
これが現状のビジイクレイトのPV数である。
マメの言うとおり、20日前、ジスプレッサと別れ、サロタープと共に(サロタープの策略で)『闇の隠者』が行っている『魔境』攻略の訓練に参加することになったビジイクレイトは、そのまま船である島に連れてこられた。
その島は、なんでも『闇の隠者』が所有している島で、『魔境』が6つもあるらしい。
そんな島を個人が所有できるのか疑問ではあるが、その島で、ビジイクレイトは将来、『黒猫の陰影』のような冒険者となることを期待されている子供たちと一緒に、『魔境』に挑むことになった。
リーダーである長剣を持った少年、シュタイズ・ウンターゲーブナ。
サブリーダーの斧を持った少年、ゼンカ。
メガネをかけた弓矢使いの少年、スシュタン。
そして、ビジイクレイトよりもやや色が明るい紺色の長髪が綺麗な片刃の剣を使う少年、アーベント。
この4人の少年たちとビジイクレイトのグループは『光組』と呼ばれていて、そのなかでもスシュタンとゼンカは14歳でビジイクレイトよりも年上だが、ほかの二人はビジイクレイトと同年代であり、とても優秀な冒険者の卵だ。
そんな彼らに寄生するような形で、ビジイクレイトはこの20日間を生き延びていた。
『PVかぁ……何度も言っているけど、俺みたいな弱い奴が魔獣が出る『魔境』でPVを稼げるような活躍ができると思うか? 分相応というか、やっぱり町でチマチマ小説を書くのが最適だとおもうんだよな』
『小説を書くにしても、ネタがいるのではないかい? 一応、この小説は主の生活から書いているんだろ?』
マメの指摘に、ビジイクレイトは少し悩む。
『んー……じゃあ、現代知識チートを披露して活躍する、みたいな路線でいくか?異世界転生の定番だろ?』
『ふーん。ちなみに、どういった現代知識で活躍するつもりなんだい?』
『えっと、それは……おいしい食事とか……なんか、そんな奴で』
『料理の味も分からない味覚音痴が何を言っているんだい』
『てめぇっ! 言ってもいいことと悪いことがあるだろうが!』
ビジイクレイトはマメをつかんで引っ張る。
本のような見た目をしているか、マメは柔らかいのでよく伸びた。
『ひょんなこといっへも事実でひゃないかね』
『とりあえず、俺の味覚音痴はおいておくとして、俺は仕事するから黙っていろ』
マメから手を離して、ビジイクレイトは近くの木に向かって歩き、登る。
『ほかの子供たちに戦いを任せて、主はのんきに採取かい?』
呆れたように見てくるマメに、実っている果物を採取しながらビジイクレイトは答える。
『って言われてもな。もともと、今日出されている課題は、魔境産の『ウォーマット』と『アプフェル』の採取なんだ。そのためにこの『木の魔境』に来たんだよ。戦えないかわりに、課題をクリアするのは悪いことじゃないだろ?』
『……その本心は?』
『『デッドワズ』が怖いから、木に登って避難しています』
ビジイクレイトの答えに、マメは心底呆れたように息を吐く。
『本当に、このクズ主は……その腰に差さっている立派な剣はなんだい? それで戦いたまえよ』
『……確かに、無料で貸しだしているわりには上等な剣だけどな。あの業物に比べるとどうしても……』
ビジイクレイトは、『闇の隠者』から貸し出された剣を一撫でして、落胆する。
ビジイクレイトが言っている業物とは、ツウフの町に出ていた露天で買った剣のことだ。
『あの業物があれば、俺でも『デッドワズ』と戦えるのに……』
『……その業物はどうしたのだったかな?』
『気が付いたらなくなっていた』
そう、ビジイクレイトのような弱者でも、『デッドワズ』の皮膚を切り裂き、手傷を与えることが出来ていた業物は、ビジイクレイトがノーマンライズの宿に滞在している間に無くなっていたのだ。
おそらくは、置き引きにあったのだろう。
そのころは、まだ意識を取り戻していないジスプレッサの看病をしていたので、探しに行くこともできずに、ビジイクレイトは枕を涙で濡らす日々だったのである。
『って、この話は何度もしたよな? あまり話題にするなよ。思い出すだけで泣きそうなんだけど』
『業物をなくしたのは主の責任だろう? というか、その腰の剣でも戦えるだろうに』
マメの疑問に、ビジイクレイトは即答する。
『ムリ!』
『……まぁ、この問答はこれ以上繰り返しても意味はない、か。ほら、主。僕たちがくだらないやりとりをしている間に、あの子たちは無事に『デッドワズ』を倒したようだよ?』
マメが言うとおり、2匹の『デッドワズ』を少年たちは倒したようで、それぞれ集まってなにやら話している。
『見たところ、怪我もしていないか。よかったよかった』
『魔物を引き連れてきた者が言うセリフではないと思うがね』
『しょうがないだろ? 課題の『ウォーマット』を採取していたら、偶然出てきたんだから。まぁ、『ウォーマット』は規定量採れているし、『アプフェル』も、この木に実っている分で、十分採れるだろうからな』
ぽいぽいぽいと、木を登りながら『アプフェル』を中身が痛まないように特殊な処理がされた袋にビジイクレイトは入れていく。
『それにしても……子供一人で『デッドワズ』を倒せるんだな。『魔聖具』も使わないで』
ビジイクレイトは、一人で『デッドワズ』の相手をしていたアーベントに目を向ける。
ビジイクレイトよりも淡い紺色の髪を一つに括っている少年は、魔獣を倒したあとだというのに、興奮している様子もなく、平然としていた。
『……天才って奴はどこにでもいるんだな』
アーベントの立ち姿に、今や『聖剣士』と呼ばれる女の子の姿を重ねながら、ビジイクレイトはさらに木を登る。
もう、必要な量の『アプフェル』は採取しているが、少し多めに採取して、少しでも『組』としての評価をよくした方がいいだろう。
凶暴な魔獣たちと戦ってくれた少年たちは、ほかの組の子供たちと、競い合っている最中なのだ。
『魔聖石』をかけて。
そして、いくつか『アプフェル』を採取して、戻ろうとしたときだ。
「キャルル……」
ビジイクレイトの頭上から、鳴き声が聞こえた。
「え……?」
ビジイクレイトは、ゆっくりと顔を上げる。
そこにいたのは、小さな猿のような魔獣だった。
『リスコウアッフ』長いしっぽが、まるで蛇のようにからみつき、獲物を絞め殺す魔獣。
そのレベルは、なんと2。
業物を持っていないビジイクレイトが、戦える相手ではない。
「たぁっす!けてぇえええええええ!?」
ビジイクレイトは大声で叫びながら、落ちるように木の上からおり、少年たちの元へ駆け出す。
『だから! 少しは自分で戦いたまえよ!』
『ムリに決まっているだろうが!』
ビジイクレイトが引き連れてきた『リスコウアッフ』に驚きながらも、少年たちは武器を手に戦ってくれるのだった。
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